ここ最近、日経平均が一時バブル崩壊後の最高値を記録、不動産価格においても路線価の最高価格がバブル期超え、などといった景気回復報道がなされている。この状況が意味するものとは?そしてオリンピック後に予想される不動産市場の未来とは?(取材・編集・構成:中村麻衣子)

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(写真= ZUU online編集部)

プロフィール

浅井 佐知子(あさい・さちこ)
不動産鑑定士。浅井佐知子不動産鑑定事務所代表。北海道網走郡美幌町出身。上智短期大学英語科卒業後、紅弥不動産株式会社、三井ホームエステート株式会社で10年間主に法人営業(土地の有効活用)を担当、その後2001年浅井佐知子不動産鑑定事務所を開業する。「良質な不動産情報とサービスで人を幸せにする」をミッションに、現在は不動産投資のスクールやセミナーも実施している。著書に『世界一やさしい 不動産投資の教科書 1年生』ソーテック社(2015年11月21日)
<浅井佐知子の不動産投資スクール&美味しい物件情報>
http://www.fire-bull.info/as/

平成バブルの時とは不動産価格上昇の原因が異なる

——今の不動産市況は、過去の流れの中でどのような時期なのでしょうか。

リーマンショック前が、ちょうど今と同じような状況でした。利回りも低く、地価は上昇しました。でもその後リーマンショックが起き、2011年3月の東日本大震災があり、アベノミクスが始まるまでは、年々下がり続けました。その後、アベノミクスで好調にはなっていったのですが、平成バブルの時にようにすべてが好調というわけではないです。リーマンショックの時もそうでしたが、好調なエリアはピンポイント。

今回不動産価格が上っているのは、融資がつきやすく金利が安いので、融資・金利の影響が大きいと思います。平成バブルのときの金利は7%程度と今とは比べ物にならないほど高かったです。今は住宅ローンが変動金利なら1%以下で借りられ、当時と比べると不動産を購入しやすい環境です。直近の底が震災の時だとすると、現在は単価も取引件数も好調で、東京都では中古も新築もマンションの価格は確かに上がっています。

一方、土地はというと、公示価格は上がってはいますが、マンションほどではありません。みなさん、便利なほうがいいということで、マンションが人気ですし、特に、崖を切り崩して作ったような坂が多い不便な場所、東京だといわゆる郊外のニュータウンと言われるところや、千葉のほうで中心部はいいけれどだいぶ離れたところなど、最寄り駅から離れたバス便でないといけないような場所は土地値がつかない状況のところもあります。

——では、オリンピック後の例えば2030年くらいの未来はどのような状況が考えられますか?

郊外で不便なところは、さらに今の状況が顕在化していくのではないでしょうか。少子高齢化ももっと進んでいくので、高齢者にとって坂が多かったり駅から遠かったりする不便なところは今よりも人気はなくなるでしょう。

最近竣工した立川の駅前の高層マンションもだいぶ高額でしたが、高齢者の方が多く購入されたようですね。駅から近くて利便性の高いところが人気で駅から離れた戸建はやはり不便なので不人気、という様相がさらに浮き彫りになっていくのではないでしょうか。

——でも、なかなか、便利な場所のマンションを今購入するのは難しいですよね?

確かにマンションの価格は上がってはいますが、比較的築年数が古いものであれば一般のサラリーマンの方でもまだまだ購入できる水準のものもあります。価格もピンキリですよね。住宅ローンを利用して、融資でみな買っていますし、住宅ローンは建物が古くても借りられますから。住宅ローンを利用して、自分が買える水準の物件を中古も含めて検討すれば、まだまだ駅近でも探せるのではないでしょうか。

将来に不安を抱える人にとって、不動産投資がもっと身近なものに

——直近のオリンピック前後で、何か不動産の動きなどはあるでしょうか。

海外の方、特に中国や香港の方が、去年・一昨年あたりはツアーを組んで東京の湾岸エリアのタワーマンションなどを購入していました。その方たちは、オリンピック前あたりに売りに出すかもしれません。オリンピック前くらいから、いったん何かの影響はあるのではないでしょうか。

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(写真= ZUU online編集部)

——不動産鑑定士として色々なクライアントからの相談を受けると思いますがどのような相談が多いのでしょうか。

今、相談を受けるなかで一番多いことは、「今の給料だけで大丈夫なのか」「子どものことを考えると将来お金が足りるのか」といったお金に対する不安を口にする方が多いです。少子高齢化で、結婚する年齢や子供を持つ年齢も上がっているので、父親が40才の時の子供だと、子供が大学に行っている間に定年なってしまいます。将来に対してとても不安な方が多いのは当然のことでしょう。そのため、2030年は不動産投資をする方が増えるのではないかと思います。現状を見る限りでは定期預金は金利が上がらないですし、退職金だって減っていますしね。不動産投資を普通のOLさんがまるで株をやるように、今よりも身近なものになるのではないでしょうか。家賃収入で年間1000万円稼ぎたいというほどではなくて、本当にお小遣い程度で月5万円とか10万円とかの利益が出るだけでもかなり楽になりますし、不安も軽減できるのではないでしょうか。

——でも、少子高齢化は進んでいますし、人口も減少しています。不動産を持っても入居者がいないと不動産投資は厳しいのではないでしょうか。

確かに、少子高齢化は進み、人口も減少しています。ただし、厚生労働省の最新の「国民生活基盤調査の概況」(2016年版)の調査によると、世帯数については増加傾向にあります。また、東京都が発表した世帯数の予測(2014年3月)によると、単独世帯数や夫婦のみの世帯数などの増加により、東京都では2030年まで世帯数は増え続けます。2035年には減少に転じるものの、1世帯当たり人員は減り続け、2035年の都内の一般世帯数の年齢構成は、高齢世帯が35.6%を占めるそうです。つまり、高齢者の1Rや1Kのニーズは一定量存在すると言えるでしょう。

私が投稿している、不動産投資ポータルサイト「楽待」にも、以下のように書きましたが、高齢世帯の貧困層の受け皿として、1Rや1Kの部屋のニーズがあるのではないでしょうか。

『西日本新聞の今年9月の報道によると、65歳以上の高齢者がいる世帯の貧困率(生活保護受給者と同等の生活水準となる世帯年収に満たない割合)は、2016年時点で27%に上るそうです。つまり、高齢世帯の4分の1が貧困ということになります。ひとり暮らしの女性は特に深刻で、2人に1人が生活保護の水準を下回る収入で暮らしているそうです。

家賃の安い都営住宅や公営住宅も数に限りがあり、すべての人が入れるというわけではありません。そういった住宅に入れない高齢者が、若者に代わる1Kの入居者になると思っています。』(不動産投資ポータルサイト「楽待」より一部引用)

これから、不動産投資を始める方に言いたいのは、もちろん投資することで多くの利益が得られることに越したことはないですが、ものすごく収益が上がる物件を購入するのではなく、確実に家賃収入があるような物件を入手し運用してほしいということですね。毎月給料の足しにするという堅実な意味での不動産投資こそが、将来の不安を解消する一助になるのではないでしょうか。