法人成りとは、個人事業主が自らの事業に法人格を取得させて株式会社や合同会社などの法人にすることを言います。法人成りしても法人格を取得するのみで、事業の実態はほとんど変わりません。それにも関わらず法人成りが行われる背景には、法人化することで数々のメリットを受けられるからです。今回は、法人成りすることで得られる経済的なメリットについて解説します。

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(写真=Number1411/Shutterstock.com)

給与所得控除などの節税につながる

個人事業主が法人成りする上で挙げられるメリットは節税効果です。まずは給与所得に関するメリットから見ていきましょう。

税法上、利益に対して課税される税金は法人と個人で異なります。法人は、税率が一定である比例税率を採用した法人税が課せられます。これに対し個人は、所得が高くなるにつれて税率も上がる累進税率の所得税が課せられます。つまり、個人の場合は利益が大きくなる分だけ税金も高くなるという特徴があります。

例えば、3,000万円の利益を上げている法人と個人事業主を比較すると、法人は一定税率の23.4%が課税されますが、個人事業主の課税率は40%です。これは大きな違いといえるでしょう。

また、個人事業主から法人の代表者になるということは、事業所得者から給与所得者になるということでもあります。給与所得者になれば、配偶者控除や扶養控除などの所得控除も適用されるようになります。所得税は、売上から経費および所得控除を差し引いた金額に対して課税されるため、控除額が多いほど課税される金額が減るため節税に繋がるのです。しかし、個人事業主が配偶者や子どもに給与を支払っている場合には、これらの控除は適用されません。

退職金を受け取ることができる

個人事業主には退職金の適用がありませんが、法人なら退職金を受け取ることができます。退職金は老後の生活をサポートするための資金と考えられることから、税制上大きく優遇されています。以下は退職金の所得税額の計算式です。

(収入金額 - 退職所得控除額)× 1/2 = 退職所得の金額
退職所得の金額 × 税率(分離課税)= 所得税額

売上から経費や控除額を差し引いた額に税率をかけた一般的な給与所得の計算式とは異なり、退職金には退職所得控除額の適用、課税対象が1/2になる、そして、税率が他の所得から分離されて課税されるなど、大きな節税メリットがあります。また、配偶者や子どもが法人で働いていた場合には、彼らにも退職金を支払うことができます。

赤字になった場合の繰り越し年数が多い

事業を開始して間もない頃は、赤字になってしまうこともあります。この場合、その年の欠損金を翌年に持ち越して繰越控除にすることで節税が可能です。この繰越年数が個人の場合は3年、法人の場合は9年と法人の方が長くなっており、これも法人のメリットの一つです。

初年度に1,000万円の赤字となり、翌年4,000万円の黒字だった法人のケースを例に考えてみましょう。法人税は利益に対して税率が乗じられますから、初年度は赤字のためほとんど課税されません。翌年は4,000万円の黒字ですから、通常であればこの金額を元に税金が課せられますが、前年の赤字1,000万円を繰り越すことで差額の3,000万円に対してのみ課税され、結果的に節税できるというわけです。もし、初年度の赤字が9,000万円だったら、翌年の4,000万円では消化しきれません。しかし、法人なら9年まで繰り越すことができるため、その後も個人より長い期間繰越控除が適用されます。

なお、この繰越控除は青色申告者にしか適用されないため注意が必要です。

まだまだある法人成りのメリット

ほかにも法人成りのメリットには、住居を役員社宅として法人の費用に一部計上できる、出張手当が出る、慰安旅行を法人の福利厚生費として処理できるなどさまざまなものがあります。しかし法人成りはメリットばかりではありません。法人登記費や法人住民税などの費用がかかる、法人化したことで事務負担が大きくなり、税理士等の専門家の雇用の必要が出てくるなどのデメリットもあります。

法人成りを検討しているなら、メリットだけではなくデメリットも把握した上で決断すると良いでしょう。(提供:ビジネスサポーターズオンライン)