佐川急便の持株会社であるSGホールディングス <9143> が2017年11月6日、東証への新規上場が承認されたことを発表した。上場日には12月13日の水曜日が予定されており、同日以降は東証で同社の株式売買が行われることになる。投資家にも大きなチャンスとインパクトを与えてくれるIPOなのだが、SGHDの上場はその中でも大型の案件として位置づけられるものであることに間違いはないだろう。

アベノミクスのおかげなのか、日経平均は高い水準で推移している2017年。トータルでの上場件数は前年よりは増えそうな見込みだ。

その17年ももうすぐ終わる。そこで2018年以降のIPOが予定もしくは噂されている主要な企業について見ておきたい。正式に発表された話ではなく、あくまでメディアやネットなどでそう指摘されているという情報も含むが、先を見越して種々の情報を整理しておくことにしたい。

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メルカリ フリマアプリとして大きな存在感

IPO,2018年,上場
(画像=PIXTA)

メルカリはフリーマーケット、通称フリマをスマートフォンのアプリケーションとして提示し、今や社会現象となるまでに大きな市場に育て上げた立役者の企業として広く知られている。フリマは誰もが不要な品をネットで販売できるという手軽さから、きわめて広範な支持を得ているスキームではあるのだが、それだけに問題が内在している要素も少なくない。

実際にメルカリは2017年中のIPOが予想されている企業の筆頭だったにもかかわらず、11月6日付の日本経済新聞は、メルカリが年内に計画していた東証への上場の延期する見込みだと報じた。

問題とされたのは、メルカリが利用者の売上代金を預かる仕組みが「資金決済法に抵触する恐れがある」という点と、出品者の本人確認の取り扱い方についてだったと同紙などは報じている。これに対してメルカリは、14日にはただちに「メルカリの仕様変更のお知らせ」を発表している。

そこでの変更点は、12月上旬から売上金の預かり期間を従来の1年から90日に短縮したこと、期間経過後は利用者の銀行口座に自動的に振り込むようにしたこと、さらには売上金を直接別の商品購入に充てることを禁止し、商品購入のできるポイントと交換してもらうようにしたことなどだ。

また本人確認については、初回出品の際に住所・氏名・生年月日などの本人情報の登録を必須とし、この本人情報と名義が一致しない銀行口座からは売上金を引き出せないようにした。従来は振込申請時だった本人情報の登録を、初回出品時に早めることによって、盗品などの出品を抑えると同時に、警察等の捜査機関との連携の早期化を図っているのだという。

こうしたシステムの透明性を高めるための一連の施策によって、メルカリのIPOに向けた準備が再び進展するといった見方もあるが、一方でフリマアプリ自体の市場が急拡大している点も見逃せない。

国内最初のフリマアプリは、2012年7月に開始された「フリル」だった。そのわずか3か月後には、ハンドメード商品を扱っていることで知られているGMOペパポ <3633> の「ミンネ」がサービスをスタートさせている。メルカリがアプリを展開したのは2013年7月からだが、スマートフォンの急速な普及によってフリマアプリ市場は急速な拡大を続けることになる。

経済産業省は1998年から継続的に、企業間及び消費者向け電子商取引の市場規模などを調査する「電子商取引に関する市場調査」を行っているが、2017年4月に公表された調査結果によると、2016年のフリマアプリ市場規模は3052億円だったと推計されている。

スタートから約4年で形成されたにしては、その規模は非常に大きいとしており、今後もさらに市場規模が拡大するものと予測している。1990年代後半に誕生したCtoCによるネッ トオークションの市場規模が3458億円であることを考えると、フリマアプリがいかに急成長を遂げてきたのかが伺える。

今後あまり規制を強くしすぎて利用者に嫌われることになったのでは、せっかくの成長に水を差してしまうことにもなりかねないが、いずれにせよメルカリのIPOに向けての動向からは目が離せない。

JR貨物  JRの旅客鉄道会社に支払う線路使用料が課題?

  JR貨物が2017年4月28日に発表した2016年度決算によると、連結売上高は前期比0.5%減の1902億円にとどまったものの、営業利益は同26.1%増の124億円へと大幅に伸びている。中でも鉄道貨物を担う鉄道事業は、営業利益が前期の33億円の赤字から5億円の黒字へと転換するなど、同社が鉄道事業をマンション分譲や不動産賃貸などとの事業別開示を開始した2006年度以来、初めての黒字決算となった。

そのJR貨物は、JR九州に続くIPOを経営目標に掲げている。けれどもそこでIPOへの障害と見られているのが、JRの旅客鉄道会社に支払う線路使用料の問題だ。JR貨物は自前の線路をほとんど持っておらず、他社に路使用料を支払う必要がある。

現在JR旅客会社に支払う線路使用料は低水準に抑えられているのだが、もしJR旅客会社に支払う線路使用料が値上がりした場合には、せっかく一旦は黒字になった鉄道事業が再び赤字に転落するような事態を招きかねないからだ。

JR貨物が策定した「中期経営計画2021」には、「将来の株式上場も可能な体制を作ります」という経営目標が掲げられているのだが、そこには線路使用料に関する説明は記されていない。鉄道事業の黒字定着が見えてきた中で、同社のIPOにはこの線路使用料という“アキレス腱”が議論を呼ぶかもしれない。

東京地下鉄 都営地下鉄との一元化問題も不確定要素?

「東京メトロ」のニックネームで親しまれる東京地下鉄がいまだに上場していない原因としては、特殊法人である帝都高速度交通営団がその前身であることが挙げられるそうだ。営団時代には駅構内の売店や車内の中吊り、駅での広告収入などを除く兼業が禁止されていたこともあって、鉄道事業が売上の大半を占めていた。

東京メトロが発足した後は、関連事業を積極的に推進することが可能となったため、地下商業施設「エチカ」の展開を加速するなどしてはいるものの、JRの展開する「ルミネ」や電鉄系の百貨店、もしくは各社の不動産開発事業などに比べればその比率はまだまだ小さい。

東京メトロの自社保有不動産が基本的には地下空間に限られ、遊休面積が圧倒的に狭いことや、そうした遊休地が都心部の道路下にあるため、飲食・商業施設への転用も容易ではないと考えられている。

もちろん東京メトロを利用する個人投資家も多いはずで、他の民鉄のような割引回数券などの株主優待を設けることができれば、株式の購入希望者が数多く出ることも予想される。IPO後の収益についても、近距離を主力に休日利用も多いことから、引き続き安定成長が続くものと見込まれている。

一方で、都営地下鉄との一元化問題も不確定要素の一つとして無視できない。両社は互いにライバルでありながら、両線の乗り換えに割引があったり、駅のナンバリングを共通化したりもしている。東京メトロの大株主でもある東京都も、二つの地下鉄の統合には前向きの姿勢だということを考えると、いよいよ今後の動向からは目が離せない。

青木商店 生ジュース店「フルーツバー AOKI」などを展開

青木商店の初代、青木松吉が郡山駅前にバナナ問屋「青木商店」を開業したのは1924年、今から93年前のことだった。果物がまだまだ贅沢品だった時代に、「美味しい果物は人の気持ちを豊かにする」、「美味しい果物は人を幸せにする」という思いが開業の動機だったという。

2018年のIPOを視野に置いているといわれている青木商店の事業の中核をなすのは、フルーツショップ事業だ。本事業においては、熟練のフルーツマイスターが市場や生産農家を訪れ、その場で吟味した上で厳選したフルーツのみを直接仕入れている。選び抜いた極上のフルーツを、一番おいしいときに顧客に提供できるよう、配送に際しては鮮度や熟度が徹底的に管理されている。

「果汁工房 果琳」と「フルーツバー AOKI」を展開するフルーツバー事業は、マイスターが厳選した完熟フルーツを使用して50種類以上を、作り置きをせず、注文後に顧客の目の前で搾るというコンセプトが支持を得ている。またフルーツタルト&カフェの専門店「フルーツピークス」では、顧客の健康志向をサポートするために、タルトの生地とクリームを使い分けるなどの工夫が凝らされている。

サウジアラムコ 上場先はNY? ロンドン? 香港? 東京?

サウジアラムコは、サウジアラビア国営の石油会社だ。同社のIPOについては、これまでにも様々な憶測が飛び交ってきた。その主たるものは、ロンドンやニューヨークなどの海外市場での上場を先送りした上で、まずはサウジの市場で機関投資家やファンドによる株式売却を先行させるのではないか、といったものだ。ここで見逃せないのは、中国の影が見え隠れしていることだろう。

アラムコのIPOは、サウジが取り組む経済・社会改革である「ビジョン2030」の目玉になっている。2018年中に株式の5%を上場し、そこで得た資金を国内産業の育成や雇用の創出に充当していこうという計画だ。時価総額が約220兆円に達すると見込まれているアラムコのIPOが実現すれば、過去最大の規模になることに間違いはない。東京を含めた世界の有力証券取引所がこぞって参加して、誘致合戦が繰り広げられている。

ところがそうした中で、欧米のメディアが相次いでアラムコの海外上場の先送りを報じ始めた。IPOの前に株式を有力投資家に売却しようとしているとの観測が取り沙汰されているのだ。アラムコは上場延期の観測を否定してはいるのだが、注目されるのはそこに中国の存在が浮上している点にある。

深刻化している大気汚染への対策として、積極的に電気自動車の導入を進めている中国だが、それでも石油の安定調達先の確保が大切であることに変わりはない。中国の原油調達先として柱となっているのはロシアとサウジの両国で、それぞれが13~14%で肩を並べている。

習近平政権の標榜する「一帯一路」は、中国から欧州にいたる広域経済圏構想であると同時に、エネルギーの安定確保を主たる狙いとしている。サウジはその重点対象国であり、アラムコ株の取得によってエネルギーの安定確保を実現する一方で、サウジの脱石油改革を支えようということなのだろう。

ヨドバシカメラ ネット配送の充実ぶりが評価

家電やパソコン、カメラなどからスポーツ用品、高級時計、酒類、日用品に至るまで、多種多様な商品を販売している量販店チェーンストアのヨドバシカメラは、家電量販店としての売上高ではヤマダ電機 <9831> 、ビックカメラ <3048> 、エディオン <2730> に次ぐ日本国内4位で、「マルチメディア」の名を冠した店舗を中心に、2017年12月現在全国23の店舗で営業展開している。また、「ヨドバシ・ドット・コム」の名称で親しまれているネットショッピングにも力を入れており、この分野ではアマゾンに次いで日本国内2位の位置にある。特にそのサービスの充実ぶり、配送の迅速さはここ数年、高く評価されている。

1960年の創業当初、ヨドバシカメラはカメラや写真用品を主力としていた。耳に残る替え歌を用いたテレビCMで有名になった新宿西口や、上野、横浜などの交通至便なターミナルに近接する一等地にある比較的小規模なビルを店舗として、大量廉価販売を売りにする戦略が広く支持を得、順調に業容を拡大することになる。

当時のカメラは1台が何十万円もするような高級品が多く、多少の交通賃と時間をかけたとしても、市価より数万円も安い買い物ができるのなら十分なメリットを享受できる。また、多くの商品を比較検討できるという優位性が、地方から来た消費者にも強くアピールしたのだ。

その後ヨドバシカメラは取り扱い品目を大幅に拡大するとともに、1997年3月に仙台駅前の国鉄清算事業団の貨物ヤード跡地に設けた「マルチメディア仙台」を皮切りに、従来と比べて店舗面積を大幅に拡大した「マルチメディア館」と呼ばれる事業形態へと移行していくことになる。また、1998年にはインターネットショッピングサイトを開設し、現在は1位のアマゾンの10分の1に及ばない売上高ではあるにしろ、日本国内2位の地位を占めるに至っている。

そのヨドバシカメラが、業容拡大の加速を図ってIPOを検討しているとの噂を耳にするようになった。これまで他の大手量販店とは一線を画し、企業買収や合併による規模拡大を行なわないことや、株式を上場しないことなどを特徴としてきた企業であるだけに、動向には注意が必要だろう。

ランサーズ クラウドソーシングサービスではクラウドワークスなどが既に上場

「クラウドソーシング」の先駆けであるランサーズは、同業種のクラウドワークス <3900>やリアルワールド <3691> が2014年に共にIPOを果たす中、虎視眈々とタイミングを見計らっていたのだろうか。

「クラウドソーシング」というのは、技能を持ちながらも育児などの都合で職場で働くことができない主婦や、すでに現役を卒業したシニア層、固定的な就業を嫌うフリーランサーなどの人材を、企業の需要をマッチングすることを狙ったサービスだ。

依頼者がある業務を「特定の企業や個人」に外注するのが「アウトソーシング」と呼ばれているのに対し、「クラウドソーシング」では外注先が不特定多数となっていることが特徴だと言える。

矢野経済研究所が発表している調査結果によると、クラウドソーシングサービス市場の2013年度から2020年度にかけての年平均成長率は45.4%と、きわめて高い率を示している。同調査はクラウドソーシングサービスの2020年度における市場規模を2950億円に達すると予測している。

現時点では大手企業に懸念が見られるコンプライアンスへの不安が、電子契約の浸透など、将来的には徐々に解消されるものと見込まれることから、大口案件の流通量が増加し、高い伸び率を実現すると予測しているのだ。こうした背景を見る限り、ランサーズのIPOを気に掛けるのはごく自然なことだろう。

ZMP(ゼットエムピー) 16年11月に上場承認受けたが……

ZMPは、2016年11月14日に東証マザーズへの上場承認を受けた。しかし東証は上場承認を取り消している。

経緯としては、上場承認の3日後の17日に「顧客の氏名、勤務先、メールアドレスなどの個人情報9124件が流出した」と発表された。さらに、上場承認がなされた段階で流出の事実を認識していながら、対象者への連絡は15日まで、また流出の事実の開示は17日まで、それぞれ遅らせていたことも明らかにされた、というものだ。

それでも一時は仮条件の決定がなされるところまで行ったのだが、結果として12月8日、ZAP自体から新規上場を取りやめる旨の申し出を受けたことを理由に、東証は上場承認を取り消したことを公表するに至ったのだ。

この一連の流れは、ZMPのみならずIPOそのものに対する市場の信頼感を損ねたという厳しい指摘もある。だが技術に対する期待も高く、同社の今後の動向には十分注視しておく必要があるだろう。

ZMPは動力学的な重心位置のことを意味する英語の「ゼロモーメントポイント(zero moment point)」の頭文字を並べたもので、二足歩行ロボットを歩行させるためには最も大切なポイントを指している。このZMPが足の裏の位置に来るように計算されて初めて歩行が実現するわけだ。ZMPを社名としたのも、当社がロボット分野で最も重要な存在になることを目指したものなのだという。同社の新規技術にはより幅広いものがあるとも言われている。

自動運転関係では、2017年1月に自動運転車開発プラットフォームの「RoboCar MiniVan」を用いた公開公道走行実験が行われたほか、2020年東京オリンピックの開催エリアでもあり交通量も非常に多いという交通環境の「お台場」で公道走行試験を実施、レーンチェンジや交差点右左折などの機能を開発、検証を行っている。

一方、より身近な分野としては、革新的なロボットによる物流業界の生産性向上支援に注目すべきだろう。「CarriRo」は荷物の運搬に用いる台車にロボット技術を適用することにより、負荷を軽減するアシスト機能や、作業員についてくる「かるがも機能」、指定したエリアを自動で移動する自律移動機能などを搭載している。

「CarriRo」の 2017年モデルでは、ドライブモードで応答性や走行制御性能の向上を行い、より直感的な操作が可能となっているほか、「かるがも機能」に関してもより直感的かつスピーディな作業が可能となるよう、発進時のスムーズさや小回り性能の向上、追従間隔と速度の調整が行われているという。

またZMPは、医師が行う処置や診断プロセスの効率化、高精度化、低コスト化等を目的とした医療画像の自動診断技術の研究開発を推進しているほか、ウェアラブルデバイスやスマホと連動した24時間心臓見守りサービス「ハートモ」などのヘルスケア分野にも自社の持つ技術の応用に力を注いでいる。さらには既存の産業用機械・車両に自律移動技術を実装することによる自動運転の実用化分野にも注目が集まる。

前回2016年の上場承認当時は、ややIPOへの期待感ばかりが先行してしまったきらいがある。しかし冷静にじっくりと技術内容を把握し直してみると、実際には高い業績に結び付くような開発行為も少なくない。2018年以降に上場を果たし、暗雲を一掃することができるのだろうか。

以上紹介してきた企業の上場が確定しているわけではない。あくまで「うわさ」という情報もあるので、留意していただきたい。(ZUU online編集部)