● 12月8日、国際金融規制を統括するBISが「危機後の規制改革の最終化」に関する文書を発表。銀行資本計算の「分母」に当たるリスクアセットの計算方法の変更等を提示。

● 最大の注目点は、大手行に与えていたメリットをどこまで制限するかだったが、結局市場予想通りの水準に決定。かつ、2022年から5年かけて段階実施と長い移行期間が設定された。

● 従って、大手行の財務運営にマイナス影響は殆ど出ないだろう。むしろ、これで不確実要因が払拭され、株主還元強化等の資本活用に踏み切りやすくなる。資本規制強化の流れから開放されるのは、殆ど2004年のバーゼルII決定以来10余年ぶりで、銀行セクターには朗報。

バーゼルが資本規制強化を完結

日本時間12月8日未明、国際金融規制を統括するBISが「危機後の規制改革の最終化 (Finalizing post-crisis reforms」という文書を発表した。GHOSと呼ばれるBISの上部機関の議長(ECBのドラギ総裁)は、「規制改革の完了を意味する大きな節目だ」と表現した。

今回の文章の主な内容は、複雑化した資本規制について、様々な点で統一性を図るというものである。特に市場が注目していたのは、大手行の資本比率計算の厳格化度合いであった。

銀行の資本比率は、分母にリスク量(リスクアセット)、分子にコアの自己資本をとって計算する。この分母のリスクアセットの計算は、1988年最初のBIS規制導入以降段階的に高度化されてきた。現在、多くの地銀が使っている「標準的手法」と、大手行や大手地銀が使っている「内部格付け手法」に分かれる。日本のメガバンク等は、最先端の「先進的内部格付け手法」を用い、分母のリスクアセットを圧縮している。

この結果、現在の資本比率は、高度化について行ける大手行については、高めに計算できる仕組みになっている。こうしたリスクアセットの圧縮は、特に、欧州と近年の日本で顕著にみられた(図表1)。

国際金融規制
(画像=マネックス証券)

しかし、世界的にこの大手行への恩恵が大きすぎて整合的でないという見方が出始めた。これを受け、数年前から、大手行が享受している計算手法高度化メリットに上限(アウトプット・フロア)を設けるべき、という議論が始まった。

ところが、この上限をどこに設定するかという議論は、各国の思惑が入り混じり、昨年末と見られていた合意は遅れに遅れた。今回ようやく上限を「72.5%」とすることで決着した。これにより、大手行のリスクアセットは、現在の金額よりも大きくなり、資本比率は低下することになるものの(*)、数字自体は、事前に市場が想定していた通りであるため、市場への影響も限定的に留まった。

(*参考) 資本比率計算方法の変更

例えばある銀行のリスクアセットが、標準的な手法を使うと90兆円程度と測定されたとする。一方、独自の貸出リスクのデータを使い、高度な手法で計算すれば、50兆円と計算されたとする。自己資本が5兆円あるとすると、現行の規制では、資本比率は10%(5÷50)と計算される。

ところが、新しい制限の元で計算すると、90兆円と50兆円の乖離幅は大き過ぎるので、65.25兆円をリスクアセットとしなければならなくなる(90兆円x72.5%)。資本比率は、従来の10%ではなく、7.66%(5÷65.25)に低下する。

国際金融規制
(画像=マネックス証券)

なお、同時に国債の信用リスクへの考え方についても公表された。これについては、各国の財政運営にも影響を与えかねないセンシティブな議題となることから、相当長期の慎重な議論がなされると思われる。当面のリスク要因にはならないだろう。

規制変更の影響:大手行の資本比率は低下するが、移行期間は長く無問題

今回の変更で、日本の大手行の資本比率は、1ポイント弱~2ポイント程度低下すると見られる(図表3)。低下度合いは米国の大手行と比べて大きいとみられる。

国際金融規制
(画像=マネックス証券)

資本比率の低下自体はマイナスであるものの、完全適用は2027年とかなり先である。この事業環境なら、増資を迫られる可能性は殆どない。

今回のBISの文書のタイトルにもあるように、今回の変更は、危機後の規制改革の集大成である。これらをもって、リーマンショック以降続いた資本規制の厳格化の流れはひと段落する。資本規制強化の流れから開放されるのは、ほぼ2004年のバーゼルII決定以来10余年ぶりとなる。

規制がリーズナブルな範囲で確定したことで、銀行は、株主還元強化やM&Aなどの資本活用に踏み切りやすくなるだろう。更に、経済全体にとっても、銀行がリスクテイクを続けることができることからポジティブである。

来年も、日本以外の先進諸国の金融政策はゆっくりと正常化(引き締め)に向かうと見られる。しかし、金融政策と両輪をなす金融規制については、厳格化の流れが落ち着き、米国などでは部分的に緩和される可能性もある。金融政策正常化の副作用に対する懸念も聞かれるが、今回金融規制強化がピークアウトすることが、資金の流れを下支えするだろう。

大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト

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