景気ウォッチャー調査
(画像=ニッセイ基礎研究所)

景気の現状判断DI(季節調整値):3ヵ月連続で改善し、3年10ヵ月ぶりの高水準

12月8日に内閣府から公表された2017年11月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は55.1と前月から2.9ポイント上昇し、3ヵ月連続で改善した。家計動向関連、雇用関連は大幅に改善し、DIは消費税率引き上げ前の2014年1月の55.9以来3年10ヵ月ぶりの高水準となった。なお、内閣府は、基調判断を前月の「着実に持ち直しが続いている」から「緩やかに回復している」へと2ヵ月ぶりに上方修正した。

今回の調査では、家計動向関連は、台風が度重なって上陸した10月と異なり、11月は概ね天候が安定しており、客足が戻ってきたことが景況感改善に寄与した。また、冷え込みが厳しくなる中、消費者の購買意欲も高く、冬物衣料の販売が好調だったようだ。また、企業動向関連では、引き続き受注が好調に推移しており、設備投資への意欲の高まりもみられる。雇用関連では、求人数に比べて求職者数は伸びておらず、労働需給は逼迫している。

安定した天候が客数増加に寄与し、家計動向関連が大幅に改善

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、企業動向関連(前月差▲0.4ポイント)が小幅に悪化したが、家計動向関連(同+4.1ポイント)、雇用関連(同+2.5ポイント)は大幅に改善した。家計動向関連では、住宅関連(前月差▲3.3ポイント)が大幅に悪化したが、飲食関連(同+7.8ポイント)、小売関連(同+4.7ポイント)、サービス関連(同+3.5ポイント)と幅広い分野で大幅に改善した。

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コメントをみると、家計動向関連では、「10月は週末の度に台風が来た上、降雨が多く、当地域はひどい状態であった。その反動か11月は客の出足が非常に良く、来街者数が伸びている。早めのクリスマスイルミネーションや仕掛けに対する反応もとても良い」(南関東・商店街)や「今月は天候もほぼ安定し、客の来場も順調で、秋のゴルフコンペも盛況である。コンペが多かったため、客単価も安定している」(甲信越・ゴルフ場)など、天候要因により客足が遠のいた10月と異なり、11月は天候が安定したことで小売店やレジャー施設などで客足が戻ってきたようだ。また、「気温の低下で、コートを中心とした重衣料の動きがとても良い。特選ブランドや高級時計といった高額商品の好調など、株高の影響とみられる動きも目立つ。また、客単価の高いインバウンド売上の増加も継続している」(近畿・百貨店)など、好調なインバウンド需要や、株高による資産効果、気温低下による冬物衣料の需要増加に言及するコメントが百貨店を中心に目立った。また、「目的買い要素の強いビジネス衣料の需要は安定してきている。カジュアル衣料に関しては、高単価商品とセール品などのお値頃価格へのニーズが2極化しており、その中間の価格帯の商品の動きが鈍い」(東北・衣料品専門店)といった、低価格を求める消費者と高い付加価値を求める消費者に2極化していると指摘するコメントがみられた。一方、「節約志向が続くなか、低価格商品の別業態に客を奪われている実感がある」(北陸・スーパー)や「競合他社との価格競争が激しく、低価格帯のサービスの契約数が増加傾向にある」(南関東・通信会社)など、スーパーや通信会社では低価格を求める消費者を取り込もうと競争が激化しているようだ。

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唯一前月から悪化した住宅関連では、「今の受注や販売量は、客の動きが多かった今年度前半の分で支えている。最近は客の動きが落ち着いてきたが、契約に結び付くまで時間が掛かるようになっている。通常は1~2か月で契約するところ、春から継続的に対応している客が今月に契約となるほどである」(北陸・住宅販売会社)など、契約に慎重な消費者の姿勢を指摘するコメントがみられた。

企業動向関連では、製造業(前月差▲0.7ポイント)、非製造業(同±0.0ポイント)とほとんど前月から変化がなかった。コメントをみると、「引き続き自動車、半導体向けを中心に主要取引先の生産量が増加基調にあり、当該原料の受注が計画比、前年比共に上回っている」(中国・化学工業)や、「受注量、発送量は引き続き高水準である」(中国・鉄鋼業)、「北米向けSUV車の輸出が、前月に引き続き好調である」(北関東・輸送用機械器具製造業)など、幅広い業種で引き続き受注が好調のようだ。また、「油圧建設機械向けの受注が堅調である。また、自動車向けの試作案件の引き合いも増えているが、協力工場も仕事を多く抱えているため、納期対応が困難で、失注案件も出始めている」(北関東・一般機械器具製造業)など、旺盛な受注に対応できないケースもあるようだ。一方、「製造業の客を中心にモノのインターネットの活用検討の問い合わせが多くなっており、製造現場では短期間で活用が図られることに期待が持てる」(中国・通信業)や、「引き合い、商談は増加傾向にある。なかでも人手不足や作業の改善のためのIT投資が増えつつある」(北関東・その他サービス業[情報サービス])など、人手不足が強まる中、生産性向上に向けた設備投資への意欲も高まっているようだ。

雇用関連では、「新規求人数はほぼ全業種で増加傾向となっており、正社員の求人数も上向き傾向にある」(近畿・職業安定所)など、求人数の増加に言及するコメントが目立った。一方、「今年度採用定員に達していない企業から、2次募集、3次募集の求人があるが、紹介できる人材がいない」(沖縄・学校[専門学校])や、「企業からの求人で、応募者が来ないとのことで派遣会社に依頼してくるケースが増加している。しかし、派遣会社への新規登録者も減少しているため紹介できず、成約できないことが非常に多い」(沖縄・人材派遣会社)など、求職者数が少なく、企業は十分な労働力を確保できていないようだ。

景気の先行き判断DI(季節調整値):家計・企業・雇用関連の全分野で大幅に改善

先行き判断DI(季節調整値)は53.8(前月差▲1.1ポイント)と3ヵ月ぶりに悪化した。DIの内訳をみると、雇用関連(前月差+2.7ポイント)は改善したが、企業動向関連(同▲2.7ポイント)、家計動向関連(同▲1.2ポイント)は悪化した。

景気ウォッチャー調査
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家計動向関連では、「株式市場の安定的な動きにより、富裕層の消費マインドが高まっている。年末商戦に向けて期待できそうである」(北陸・百貨店)など、株高による資産効果に期待するコメントがみられた。一方で、「物価は上がっているのに、給料は上がらない現状がある。それに加えて、消費税再増税に備えて、貯蓄している方も増えている」(北関東・一般小売店[家電])や、「物価が上昇している状況下にあって、所得が増えてこない現状があるため、客が支出を控えている雰囲気がある。特に年金生活者は支出を控える傾向が強くなってきていることから、今後についてはやや悪くなる」(北海道・美容室)など、賃金の伸び悩みや物価の上昇による消費者の購買力低下を懸念するコメントが目立った。

企業動向関連では、「海外向けにおいては、依然としてASEAN加盟国や欧州諸国からの受注が好調に推移している。国内においても、株式市場や為替状況などが安定していることを背景に、企業の設備投資が増えており、産業機械向け分野の受注状況は堅調である」(北陸・一般機械器具製造業)など、今後も好調な受注や設備投資の増加を見込む企業が目立った。一方で、「受注量は増えているが、軽油価格の上昇が心配である。これ以上の価格上昇があれば厳しくなる」(北陸・輸送業)や、「現在の受注状況から、今後も受注は底堅く続くと考えるが、原材料価格が高騰しており、利益面で引き続き厳しい状況である」(北陸・プラスチック製品製造業)、「今後も売上に変化はなさそうだが、原油価格の高騰により、燃料、運賃、原料などの様々な経費が上昇しており、収益を圧迫しているため、今後の景気はやや悪くなる」(北海道・食料品製造業)など、受注が好調であっても、コストの増加により収益が圧迫することを懸念するコメントが幅広い業種でみられた。

雇用関連では、「求職者の減少傾向から人手不足感が一層強まっていることを背景に、業種を問わず契約社員から正社員に切替えて募集するケースが増える」(中国・職業安定所)や、「求人数は着実に増えており、今より条件が良いところを希望する求職者の選択肢が増えることで、景気回復につながっていく」(東海・職業安定所)など、労働需給が逼迫した状態が続く中、企業の待遇改善に期待するコメントがみられた。

景況感は高水準で推移しているが、先行きについては、賃金の伸び悩みや物価上昇に伴う売上減少、コスト上昇による収益悪化など、懸念材料が広がっている。雇用環境は改善しており、企業活動も活発なことから、景況感のD.I.が50を下回るほど悪化する可能性は低いが、一段と景況感が改善するハードルは高く、今後は横ばい圏での推移が続きそうだ。

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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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