中国FinTechが年平均成長率44%の勢いで加速し、「2020年までに690億ドル市場に成長する」−−。

JPモルガン・チェースが最新の調査メモの中で示した予想で、サウスチャイナ・モーニング・ポストなどが報じている。

中でもオンライン決済による収益は2020億人民元(約3.4兆円)、オンライン融資は1420億人民元(約2.4兆円)と、飛躍的な伸びが見込まれている。オンライン保険は600億人民元(約9.1兆円)、金融商品のオンライン配信は520億人民元(約7.9兆円)との予想だ。

中国FinTech市場からは、中国最大の電子商取引企業アリババグループ (阿里巴巴集団)の金融子会社、アントフィナンシャル・サービスグループ(蟻金融服務集団)や衆安保険(Zhong An)など上場企業が相次いで生まれている。

モバイル決済総額が前年の4倍、5.5兆ドルに

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(画像=アントフィナンシャルWebサイトより)

かつては「銀聯(ユニオンペイ)」が完全に独占していた中国の決済市場だが、国内の経済成長とともに消費者の需要が大きく様変わりしつつある。

2008年には17%だったオンライン決済の利用者は、国内の経済成長とともに拡大し、2013年には40%を突破。さらにインターネットとスマートフォンの普及が追い風となり、「アリペイ(支付宝)」や「We Chat Pay(微信支付)」といった非銀行系決済の登場が、中国を世界最大のモバイル決済市場に押し上げることとなった。

2016年のモバイル決済総額は前年のほぼ4倍に匹敵する5.5兆ドルに達しており、2019年にかけて年間68%の成長率が予測されている(アイ・リサーチ・データ 参照)。すでに米国の50倍に膨張した中国のモバイル市場の9割をアリペイと微信支付独占している。

中国の巨大モバイル市場を牛耳る「アリペイ」

アントフィナンシャルは世界最大規模のモバイルおよびオンライン決済、「アリペイ」や、世界最大のマネー・マーケット・ファンド(MMF)「ユエバオ(余額宝)」を提供している。

2004年、アリババが金融市場参入の足がかりとして、「アリペイ」の名で設立した。2014年にはアントフィナンシャルと社名を改め、翌年10月からは日本でもサービスを開始した。

テクノロジーを活用した安全性、利便性の高い金融商品やサービスを世界に普及させることで、世界中のあらゆる層の人々やあらゆる規模の企業に「公平なチャンス」をもたらすことを使命にしている。

世界中で5億人以上が利用するオンライン決済アリペイは、スマートフォンにダウンロードしたアプリから、銀行振り込みや個人間送金、レストランや小売店での支払いまでが行える。テクノロジー世代といわれるミレニアル世代、あるいはそれより若い層を意識した次世代送金サービスだ。また「QRコード」による店舗や自動販売機での支払いにも対応している。

中国初のオンライン投資信託商品「ユエバオ」 少額投資で高リターンを提供

アントフィナンシャルのもう一つの代表的商品「ユエバオ」は、アリペイの口座にチャージされている余剰資金を運用するという、中国初のオンライン投資信託だ 。銀行の大口定期預金や国債などの安全資産に少額から気軽に運用できるため、投資初心者や低所得者層にも注目されている。

「気軽に試せる投資信託」というものの、提供している「センティメント・インデックス(Sentiment Index)」は、ビッグデータ分析モデルとクラウドコンピューティング技術を用い、何十億人もの利用者の投資傾向やトレードデータを反映させた本格的な商品だ。

2017年第1四半期には運用資産総額が1.2兆人民元に達し、JPモルガン・チェースを超える世界一の規模を誇るMMFへと成長した。アリババの公表したデータ によると、利用者は2017年初旬で3億人を記録している。預金額に関わらず、通常よりも高リターンが狙える点も人気の秘密かと思われる。

そのほか、ビッグデータを利用した個人の信用スコアサービス「ジーマ信用」、個人向け融資「アントクレジット・ペイ」など、同社の事業範囲はますます拡大している。

国外企業の買収で国際競争力を強化 日本にも進出

自国の金融市場の歴史を塗り替える商品やサービスを次々と誕生させているアントフィナンシャルだが、その野望は自国内にとどまらず、国際市場における競争力強化にも積極的だ。

例えば2017年1月には、米国の国際際送金大手、マネーグラム・インターナショナルを8.8億ドルで買収している。設立1940年、24億件の銀行・モバイル口座を提供しているマネーグラムの巨大なネットワークを取り込むことで、国際市場への効果的な参入を狙った動きである。3月にはアリババとともに、インドの大手モバイル決済「Paytm」の保有株を62%にまで増やしている 。

アントフィナンシャルはテクノロジーを活用した安全性、利便性の高い金融商品やサービスを世界に普及させることで、世界中のあらゆる層の人々やあらゆる規模の企業に「公平なチャンス」をもたらすことを使命としている。

時価総額国内1位、世界5位のテンセント

中国決済市場を沸かせているのはアントファイナンシャルアントフィナンシャルだけではない。その後をぴったりと追うのがテンセントだ。

「We Chat Pay」は同社のチャットアプリから送金をしたり、店舗でのQRコードやアプリ決済ができたりするサービスだ。モバイルウォレット不要で、国内のほとんどの場所から好きな時に利用可能。人民元のほか、円やドル、ポンド、ユーロなど13種類の通貨に対応しており 、一般消費者だけではなく、世界15カ国・地域 の事業者間でも広く浸透している。

中国の大手投資会社ヒルハウス・キャピタル・グループ(Hillhouse Capital Group )が公表した2017年第1四半期のデータによると、アリぺイが国内のモバイル決済市場の過半数を占めているものの(54%)、We Chat Pay(40%)も着実に利用者を拡大している。

アリペイが決済サービスに特化した戦略を展開しているのに対し、We Chat Payは「世界中で日常的に利用されているチャットアプリ」を強みにしている。第2四半期の月間利用者数では、We Chatがアリペイのほぼ2倍に値する9.6億人を記録した(CNBCより )。

さらにテンセントの時価総額は5280億ドルと、アリババを抜いて国内1位である。2017年11月には5220億ドルのフェイスブック(Facebook)を差し置き、世界5位に躍りでた(ブルームバーグより )。

つまり決済サービスではアリババに主力を譲っているものの、組織全体の原動力ははるかに上ということになる。今後We Chatの利用者間で決済利用がますます増えれば、アリペイを大きく引き離すことも予想される。

アリババとテンセントが共同出資する衆安保険

中国FinTech市場を牛耳る2大企業、アリババとテンセントが、同国の4大保険企業、中国平安保険とともに2013年に設立したのが、衆安保険である。モルガン・スタンレーを筆頭とする国際大手投資企業も投資する 同国初のオンライン保険で、今年9月には香港取引所で上場も果たした。JPモルガン・チェース、クレディスイス、UBS、CBMインターナショナルが共同スポンサーを務め、調達総額は15億ドルと香港FinTech企業上場の記録を塗り替えた。

衆安保険は旅行保険から損害保険、医療保険 まで、「様々な補償がオンラインで気軽に購入できる」というコンセプトで、デジタル世代の代表的な保険企業の座を確立している。KPMGとオーストラリアのベンチャー・キャピタルH2 ベンチャーズ(Ventures)が共同発表している「FinTech100」の2017年版 でも、アントフィナンシャルに次いで世界2位に選ばれた実力派だ。

香港の資本市場は、長年にわたり不動産や従来の金融サービス、エネルギーといった特定のセクターに依存してきた。同社の上場が、こうした市場構成をテクノロジー分野に移行させる切っ掛けとなる可能性も大いに考え得る。

投資家間でFinTech企業に対する知識や関心が着実に育っている事実は、巨額の資金調達に反映されている。中国におけるFinTech企業の上場を促進する潮流となりそうだ。

小口融資サービスでニューヨーク証券取引所に上場した「趣分期」

融資セクターでは、小口融資サービス「趣分期(Quadian)」で頭角を現した趣店(Quadian)が注目を浴びている。

2014 年に北京で設立された趣店は、「買いたくても、まとまったお金が手元になくて買えない」という消費者の不満に着目。インターネットで購入した電子機器の代金を、月賦で返済できるという分割払いプラットフォームを立ち上げ、一躍自国の融資市場に旋風を巻き起こした。

同社の発表によると、2017年上半期だけでも700万人に総額56億ドルもの融資を行っている。2016年の収益は、前年から544%増の14.4億人民元(約240億円)だった(ブルームバーグより)。

これまでにアントフィナンシャルや北京フェニックス・ウェルス・ホールディング(Beijing Phoenix Wealth Holding)などから資金を調達したほか、今年10月にはニューヨーク証券取引所で上場。1株24ドル、総額9億ドルを獲得し、時価総額は79億ドルにまで跳ね上がっている(クランチベースより)。

政府がFinTech企業の規制に本腰?成長抑制に懸念

中国大手のバックアップによるスタートアップ上場例はほかにも多数ある。テンセントからスピンオフした電子書籍企業、チャイナ・リテラチャー(閲文集団)が11月、香港証券取引所に上場。 総額1630億ドルを調達し、衆安保険の記録を更新した。

また同じくテンセント大株主である検索エンジン「ソゴウ(Sogou)」も11月、ニューヨーク証券取引所に上場し、5.8億ドルの調達に成功している。

しかし中国FinTech上場—特にマイクロ融資スタートアップの過熱を懸念し、規制当局が動くとの報道が流れ始めているのも 事実だ。

家計負債がGDPを占める割合が比較的低い中国では、消費者支出を煽り経済のバランスをとる目的で、政府機関が消費者金融の成長を促進している。しかしその反面、無謀な融資を行うオンライン融資企業が目立つ。

中国人民銀行は10月、「インターネット金融」に関連する問題の解消・防止に向け、動きだしていることを明らかにしている。

上海に拠点を置くP2P融資プラットフォームのPPDAI グループ の上場は、こうした規制引き締めの流れに左右された例といえる。PPDAI は11月、ニューヨーク証券取引所に上場したものの、目標の2.9億ドル をはるかに下回る2.2億ドルしか調達できなかった。

このままFinTech市場が成長を続ければ、規制が厳しくなることはほぼ間違い。その影響がせっかくの成長を押しとどめるとの声も聞かれるが、消費者や投資家が安心して利用できる環境の整備は必須条件だ。「政府が具体的にどのような規制を設けるか」は、中国FinTechの未来に大きく影響するだろう。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)