個人事業で収支が赤字になった場合の対応策には、損益の改善、資金繰り、繰越控除制度などの対処方法が挙げられます。今回は、個人事業主が赤字収支になった時にできることについて紹介します。
赤字収支は損益の改善が根本的な治療になる
個人事業主が赤字収支になることはめずらしいことではありません。国税庁が2017年5月に公表した「平成28年分の所得税等、消費税及び贈与税の確定申告状況等について」によると、2016年度における事業所得者の確定申告人員数は約378万人です。そのうち「申告納税額のないもの」が約120万人、還付申告者が約84万人を占めます。
この数値からは、所得が発生していない事業所得者が多いということが読み取れます。もちろん、税務上の所得とお金の出入りを意味する収支は完全に一致するわけではありません。しかし、恒常的に所得がマイナスであれば、収支も悪化する可能性も増えることでしょう。
収支が赤字になった場合には、損益の改善を図ることが根本治療となります。最終損益は利益から費用を差し引いたものです。損益の改善は、「収益を向上させる方法」と「費用を削減する方法」の両面から対応が考えられます。
● 個人事業主が「収益を向上する方法」
採算の良くない顧客や商品を発見し、取引を見直すことです。売上から原価を引いた粗利で収益性が高いと思っていても、販売に至るまでに紐付けられる費用をすべて差し引くと赤字となっていたというケースもあります。顧客や商品別に利益分析できていない場合には、専門家と相談しながら詳細に分析してみることもひとつの方法です。
● 個人事業主が「費用を削減する方法」
交際費、広告費、新聞図書費、消耗品費、通信費などの中で収益に貢献していない無駄な費用がないかを再確認することです。具体的には、会計ソフトの総勘定元帳で、それぞれの費目をチェックすることが効果的といえるでしょう。
また、必要な経費であっても、価格交渉や相手先の見直しで費用削減につながることがあります。例えば、仕入価格や事務所の家賃を値下げ交渉したり、複合機のリース先や電話、インターネットのプランを変更したりすることもおすすめです。
赤字収支時の資金繰りは応急処置
上記のような根本治療と並行して、赤字収支によって資金ショートを起こさないように応急処置することも重要です。資金繰りを改善する手段としては、下記の4つが挙げられます。
● 回収条件の変更を検討する
得意先に対する請求を「月締め」から「販売の都度」に変更してもらう余地はないか、締め後「45日払い」から「30日払い」に変更できないかなどの検討が重要です。
● 支払条件の条件変更を打診する
仕入先や経費支払先に対して条件変更を打診するといった方法があります。ほかにも、銀行振込からクレジットカード支払に変更することで1ヵ月ほど資金的余裕を持たせるという方法もできるでしょう。
● 国民生活金融公庫などの公的融資を受ける
また、日本政策金融公庫などの公的融資を受けるという選択肢もあります。特に、経営環境変化対応資金(セーフティネット貸付)は、おすすめです。直近の決算期における売上高が前期または前々期と比べ5%以上減少しているなど、一時的に業績が悪化していることが融資条件となっていますので、赤字収支となった時の運転資金確保に向いています。
● ビジネスローンやファクタリングを利用する
ほかにも民間金融機関のビジネスローンを活用する方法やファクタリング会社で債権を資金化するという方法があります。ファクタリングは、すでに発生している売掛金や貸付金などの金銭債権を買い取ってもらう手法を指します。ファクタリング手数料を差し引かれた額が早期に資金化できますので急な資金繰りには重宝するでしょう。
個人事業主は赤字収支の時には繰越控除を使い、アフターケアを行う
赤字収支となり、所得税の確定申告でも純損失が発生した際には、その純損失を翌年以降3年間にわたって繰越控除することができます。つまり、翌年以降に所得が発生しても、そこから過去の純損失を差し引くことができるので、節税することが可能です。この純損失の繰越控除制度を利用するためには青色申告をしている必要があります。
また、前年にも青色申告をしている場合には、純損失の繰越控除の代わりに、純損失に相当する額を前年の所得税から還付してもらうことも可能です。この純損失の繰戻還付制度も青色申告の特典になります。
青色申告は一定水準の帳簿を整備して税務申告を行うことにより、さまざまな税務上の特典を享受できる制度です。新たに青色申告を開始したい場合は、開始したい年の3月15日までに「青色申告承認申請書」を納税地の所轄税務署長に提出する必要があります。
赤字収支時の処置後にも、最終利益が計上出来るように活用を
以上のように、赤字収支への対応としては、根本治療となる損益の改善、応急処置となる資金繰り対策、アフターケアとなる繰越控除の活用など手段はさまざまです。応急処置に含まれるビジネスローンやファクタリングなどによる資金調達方法は手っ取り早い解決策ですが、利子や手数料の負担を十分踏まえた上で、最終利益が計上できるように活用していきましょう。(提供:ビジネスサポーターズオンライン)