大手企業においても新規事業が失敗に終わり、撤退を余儀なくされたというニュースは頻繁に見かけます。新規事業の創出には失敗がつきものです。しかし、中小企業の場合は資金がなくなる可能性もあり、あまり失敗したくないというのが本音ではないでしょうか。そこで、今回はその原因を考察し、内容を解説していきます。
新規事業の平均的な成功確率は?
新規事業が失敗する原因を明らかにして成功確率を高めようという発想は合理的なものです。その前提として、「新規事業の成功確率はどの程度なのか」を把握しておくことも大切でしょう。新規事業の成功率は10~30%ともいわれます。経験則から述べられる数値が独り歩きする一方で、何らかの統計に基づいていても調査対象や方法によって数値に差があることも事実です。
ここでは、目安として2017年度「中小企業白書」(中小企業庁)のうち新事業展開に関する統計を取り上げてみましょう。同白書における新事業展開には「新製品開発戦略」「新市場開拓戦略」「多角化戦略」「事業転換戦略」の4戦略が含まれています。そのなかでも新規事業と意味合いが近い「多角化戦略」と「事業転換戦略」の数値に着目してみましょう。
同白書の事業分野の選択に関する調査では、多角化戦略をとる企業の回答数が「成功した(n=141)、成功していない(n=319)、全体(n=460)」、事業転換戦略をとる企業の回答数が「成功した(n=49)、成功していない(n=88)、全体(n=137)」となっています。
この数値からは成功した企業の割合が多角化戦略では30.6%、事業転換戦略では35.7%であることが読み取れます。なお、新製品開発戦略では30.4%、新市場開拓戦略では28.9%となっています。新規事業の成功率約30%という経験則の話は、あながち根拠のない数字でもなさそうです。
新規事業が失敗する大きな要因3つ
それでは、新規事業が失敗する要因を考えてみましょう。同白書によると、多角化戦略に失敗した企業の40.1%、事業転換戦略に失敗した企業の29.0%(いずれも複数回答の数値)が「必要な技術・ノウハウを持つ人材が不足している」点を挙げています。これらが1番の要因となっているのです。やはり、人材の確保で苦慮している企業が多い傾向ということがわかるでしょう。
2番目の要因は「販路開拓が難しい」点です。多角化戦略に失敗した企業の29.6%、事業転換戦略に失敗した企業の23.1%が課題として挙げています。これもマーケティングの重要性を改めて認識させる結果といえます。
3番目の要因は多角化戦略と事業転換戦略では別です。多角化戦略では「新事業展開に必要なコストの負担が大きい」との回答が25.5%、事業転換戦略では「市場ニーズの把握が不十分である」との回答が20.3%となっています。多角化では「既存事業との二重のコストが負担になっていること」、事業転換では「既存事業から撤退しているだけに市場ニーズとのマッチが死活問題であること」が推測できるでしょう。
販路開拓や市場ニーズの把握における問題は、需要予測の誤りと言い換えることができるかもしれません。新規事業ありきで事実認識やデータ分析を行うため都合の良い解釈をしてしまうこともあるでしょう。
新規事業失敗を回避する3つ施策
失敗する確率を低くするための施策としては、3つ挙げられます。
● 事業計画の立案に時間をかけること
上記の市場ニーズの把握や需要予測を慎重に行うことが大切です。たとえば商社における大規模プロジェクトなどでは計画立案だけに数ヵ月単位の時間をかけることも珍しくありません。
ただし、入念に立案した計画でもすべて予定どおりに進むことはまれです。ベンチャー企業におけるリーンスタートアップのように見切り発車的な手法を取り入れるのも選択肢の一つです。リーンスタートアップは、多大な時間・資金・労力をつぎ込んだ製品やサービスが無駄になることを避けるために行われます。ベータ版や、それ以前の製品やサービスを市場に出し、修正を繰り返していく事業展開手法です。あえて小さな失敗を繰り返すことで損失を避ける方法といえるでしょう。
● 撤退基準を明確に設定しておくこと
相場の格言に「見切り千両」というものがあることをご存じでしょうか。投資における損切りには精神的苦痛がともなうことを示す言葉です。新規事業が軌道に乗らない場合にも、なかなか撤退できずに損失が拡大してしまう場合があります。そうした事態を避けるためには、撤退基準を明確に設定しておくことが重要となるのです。撤退基準としては、期間に応じた売り上げや利益などの財務指標やKPI(Key Performance Indicator)が使用されます。
● 失敗を成功の糧にすること
これらの施策に加えて、失敗を成功の糧と捉える発想も取り入れたいものです。新規事業の第一の目的は売り上げや利益の拡大ですが、副次的な目的としてプロジェクトメンバーの人材育成を据えてみてはいかがでしょうか。仮に新規事業から撤退した場合にも、この副次的な目的は達成できる可能性が高いといえます。
中小企業は他社の新規事業の失敗を意識し、成功に近づけよう
失敗の要因を理解し、成功確率を高めることは重要です。そのため、データから失敗を織り込んだ事業計画を立案することも理性的な経営と呼べるのではないでしょう。新規事業はスピードも大切ですが、ひとつひとつ着実に進めていくことも大事な要素です。新規事業を進める時には上記で示した3つの施策を検討してみてはいかがでしょうか。(提供:ビジネスサポーターズオンライン)