「日本一(いち)美味しい、誉れ(ほまれ)高きお米」になるようにとの願いが込められた福井の新品種「いちほまれ」は、2017年現在、翌年秋の本格販売に先駆けて福井と東京の一部で販売されています。販売価格はコシヒカリと同程度ながらも売れ行きは好調で、食べた人の評判も上々のようです。

今回は、そんな6年もの歳月をかけて開発された「いちほまれ」と、本格販売に向けた福井の取り組みについて紹介していきます。

20万種の選定から開始した新ブランド米の開発

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(画像=PIXTA)

「いちほまれ」開発プロジェクトが開始されたのは2011年5月のことです。いもち病への耐性があり、農薬をほとんど必要としない、それでいて美味しい品種のお米を作るべく、福井県農業試験場に「ポストコシヒカリ開発部」が新設されました。

はじめは、福井県農業試験場が持つ経験と交配技術を用いて育てた、新ブランド米になり得る水稲の田植えから開始されました。水稲の数はなんと20万種にも及んだそうです。栽培中は出穂の時期や病気への耐性、実り具合など品種ごとの違いを細かく調査し、収穫時期を迎えた稲穂は全て手作業で刈り取りました。

ハサがけをして乾燥させた後には、コシヒカリを超える綺麗な見た目の玄米を探すべく1粒ずつ調査・選別の作業です。こうして20万種から始まった新品種候補の水稲は、1万2,000種にまで絞り込まれました。

同時に、「ポストコシヒカリ開発部」では「DNAマーカー」と呼ばれる選抜方法を全国でいち早く取り入れ、稲の遺伝子を調査します。猛暑でも良く育ち、味も美味しい高品質のお米になる遺伝子を持つ品種を選抜したのです。

人の味覚に合わせた品種開発

「新ブランド米」開発に必要とされたのは、手作業と最先端技術の他にもうひとつ、人々の味覚でした。

まずは消費者と料理人およそ1,500人を対象に、多くの人々に好まれるお米の味と食感に関する調査がなされます。その結果をもとに研究者による実食とお米の分析・測定を重ね、コシヒカリ以上の品質と美味しさのお米ができあがったのです。新品種の完成には、2011年5月から2014年までのおよそ3年間を要したそうです。

2015年には福井県内の農業者に新品種の栽培を依頼し、そこからさらに選抜が始まります。翌年は最終選考まで残った4品種を福井県民に食べ比べてもらい、各品種に対する評価を収集しました。これに専門家の評価を加味し、福井が「新ブランド米」を決定、2016年12月2日にとうとう新たな福井のブランド米「越南291号」が誕生したのです。

「越南291号」のデビューに向けて名称を募集した際、2016年12月20日からの約1ヵ月の間でなんと10万以上もの応募が殺到したことからも、その注目度の高さと期待値が窺えます。近年猛暑続きで米の品質低下が危険視されている中、お米のトップブランドであるコシヒカリを超える品種「いちほまれ」はこうして誕生したのです。

力の入る「いちほまれ」のPR

6年もの年月をかけて完成へと至った「いちほまれ」。艶やかで真っ白お米は頬張ると口の中にやさしい甘味が広がり、粘りと粒感も見事なバランスに仕上がりました。2020年に開催される東京五輪・パラリンピックにおける食材調達基準をクリアしているため、大会に出場する選手に提供することも検討されているとのことです。

また、2017年4月19日にホテル椿山荘東京と福井県庁で名称発表が行われたことを皮切りに、翌年の本格発売開始に向けてさまざまな取り組みが始まりました。同年5月には福井県農業試験場と東京の六本木ヒルズ屋上庭園において田植え体験会を開催。8月には「金色に輝く太陽」をイメージした「いちほまれ」のパッケージとロゴを発表しました。翌月の秋分の日には六本木ヒルズアリーナで「いちほまれ誕生祭」が開催され、試食会や音楽ライブなどを通じて「いちほまれ」のスタートを盛り上げました。

その後も「いちほまれ」の販促イベントを福井県内の店舗で開いたり、「いちほまれ」の魅力を発信する「いちほまれサポーターズ」を募集したりと、さまざまな取り組みを行っている福井。2018年秋を迎えるまでにさらなるPR活動が続いていきそうです。

新ブランド米の戦国時代を生き抜けるか

2017年は新潟の「新之助」、岩手の「金色の風」、そして石川の「ひゃくまん穀」がデビューするなど、新ブランド米が乱立した年です。首都圏の百貨店などで5キログラム3,000円ほどの値段で販売されている「いちほまれ」をはじめ、他のブランド米も軒並み高価格帯での販売となっており、品質の高さや味の良さが求められています。

「新ブランド米における戦国時代」に勝ち残るには、消費者に「高くても買いたい」と思わせるような上質なお米であるかが鍵といえるでしょう。(提供:JIMOTOZINE)