まもなく40年を迎える中国の改革開放を振り返ってみると、「ちょっと他所に目を転じているうちに、海が農地に変わっていた」というのがふさわしいのではないだろうか。

何しろこの40年で中国の名目GDPは200倍に成長した。多くの産業において「無から有」を創出し、多くの領域で英米に追いついている。その中から「改革開放10大奇跡を概観してみよう」という内容の、改革開放40年を総括する記事が出た。ニュースサイト「今日頭条」が伝えている。現代中国人は現代中国をどう評価しているのだろうか。それらの“奇跡”を見ていこう。

10位~8位、株式市場、ゲーム、教育、宇宙開発

中国経済,振り返り
(画像=PIXTA)

10位 A株市場 無から有を生じる熱狂のゲーム

A株市場は、無から有を生じる熱狂のゲームだった。それは1986年、中国人民銀行の金融討論会から始まった。20名の米国証券界のリーダーたちが訪中し、詰襟の中山服(人民服ではない)に身を包んだ200名の中国人金融業関係者向けて、西欧株式市場の基礎知識を講義した。

そのとき最高実力者・鄧小平は、ニューヨーク証券取引所理事長のハリソンに、中国最初の上場企業“飛楽音向”の50元株をプレゼントしている。国際社会は、中国が「淡い資本主義」へ変化したことを悟った。中国と株式市場は握手したのである。1990年、上海証券交易所と深セン証券交易所が、相次いでオープンした。両市場とも、10社の上場企業で、資本主義への第一歩を踏み出した。それが2017年12月中旬の段階で、3470社のA株国内上場企業があり、時価総額は57兆元、投資家は1億3300万人、その97%は個人である。

9位 オンラインゲーム 2人の中国最大の富豪を生んだ

ゲーマーの人数は、80后(1980年代生まれ)+90后+00后の人口に相当する。中国のゲーム業界はこれまで2人の中国最大の富豪を生んだ。これはオンラインゲーム界の可能性を端的に表している。オンラインゲームの発祥は1999年である。4年後の2003年、網易の「大活西遊記」が大ヒット、網易創業者の丁磊は、胡潤とフォーブス誌の選ぶ中国富豪ランキングトップに躍り出た。

翌2004年には「伝奇」がヒット、その運営会社は華々しく上場した。また丁磊はこの年も、中国誌「新財富」の選ぶ中国富豪トップとなった。

消費世代の変化は、消費と審美の感覚も変化させた。その結果小さなゲーム業界が、今や長大産業に成長している。人口14憶中、オンラインゲーマーは5憶6000万人、これは80后以降生まれの人口にほぼ相当する。そのうち有料ゲームをプレーするゲーマーは2憶人である。

8位 高等教育 ここ一代の中国人の命運を変えた

ここ一代の中国人の命運を変えたもの、それは教育である。この40年で義務教育は全面的に普及した。全国大部分の地区で、毎年80%以上の生徒が高校(専科3年、本科4年)以上へ進み、大学生となる。

1977年にはこの比率は6%でしかなかった。今ではほとんどの人が高等教育を受ける環境が整っている。課題は、受験制度の改革や、拡大した高等教育機関の間における、資源配分の不均衡に移っている。

7位 宇宙開発 世界5番目の独力人工衛星国家

改革開放前、中国は「東方紅一号」を打上げ、すでに世界5番目の「独力人工衛星国家」となっていた。81年以降、開発は加速する。

81年 風暴一号、複数衛星の軌道投入に成功。
88年 風雲一号、気象静止衛星を実現。
99年 神舟一号の無人打上げ回収実験に成功。
03年 神分五号、有人宇宙船が地球を14周、米ソに次いで世界で3番目。
07年 嫦娥一号、月へ飛行
13年 玉兎号、月面車送り込み
17年 墨子号、世界初の量子科学実験衛星。

中国の宇宙開発における地位の高まりが期待される。中国人が月面に小さな一歩を印すのはいつだろうか。

6位~4位 製造業や富豪

6位 メイドインチャイナ 「崇洋媚外」は衰退中

中国の名刺には「世界の工場」と記されているという笑い話がある。中国製造業の世界シェアはどのくらいなのだろうか。

外国メディアの統計では、セメントの60%、鋼鉄の45%、ガラスの50%、列車の25%、船舶の40%、スマホの70%、ノートパソコンの90%、エアコンの80%。冷蔵庫の65%、靴の40%、豚肉の50%などとなっている。

2010年、中国製造業の生産高は米国を超えた。米国の1位は1895年~2009年までであった。この数字は国民の“心態”に変化をもたらしている。“崇洋媚外”(西洋を崇拝して外国に媚びる)は日々後退している。

5位 富豪 BAT創業者3人の時代は続く

“首富”(ナンバーワン富豪)という言葉が一般的となったのは、1999年ごろからである。このころは投資会社の栄毅仁の一家が首富であった。2002~2006年にかけての首富は、ネット企業、網易の丁磊や、家電量販店、国美の創業者、黄光裕などだった。

2007~2011年の首富は、製造業者だった。三一重工(重機)の梁穏根、比亜迪(自動車)の王傳福らである。 2012~2017年の首富は、ネット企業3巨頭のBAT(バイドゥ百度、アリババ、テンセント)の創業者たちである。ここ数年、彼らの時代は続くだろう。たとえ不動産価格の上昇が継続したとしてもである。、

4位 央企(中央国有企業) 「一帯一路」の背景下、さらなる発展へ

40年前“国営工場”が壮大な発展を遂げるとは、誰も思い至らなかった。世界500強企業ランキングから中国企業の変遷を見てみよう。1989年、初めて世界500強入りしたのは、中国銀行であった。1995年には、中国銀行と中国石化集団の2社だった。それが2017年には115社がランキング入りしている。そのうち80社が国有企業、58社は中央企業である。

鉄路総公司や煙草総公司が入っているのはいうまでもない。最高は第2にランクされた国家電網有限公司である。国家電網は中国だけの国家電網にあらず、オーストラリア、ブラジル、ポルトガル等の国家電網である、という人もいる。

国有企業は中国経済の成長と同じく強大化した。世界経済においても無視できない存在感を持った。「一帯一路」の背景下、さらなる発展が約束されている。

3位~1位 モバイル決済、摩天楼、高速交通

3位 移動支付(モバイル決済) 誰もがスマホのQRコードスキャン利用

今日中国を訪問した外国人は、中国の現金を持たない支払い方式、1台のスマホですべてを済ませる消費スタイルに驚嘆するだろう。誰に対してもスマホのQRコードスキャンで済ませるのだ。

Ipsosの調査によると、消費者の約40%は100元以上の現金を持っていない。そのうち14%は、一銭も持っていないという。また74%の人は100元あれば、1カ月以上生存できると答えている。

5年前まで中国で外出するとき、財布は絶対に忘れてはならないものだった。それが2013年から、モバイル決済とそれに付随するネット産業が急発展した。決済額は数倍以上で成長し、2016年には58兆8000万元にたっした。これは米国の90倍である。

2位 摩天楼 ここ10年で600%増えた超高層ビル

改革開放以前、中国に超高層ビルはほとんど存在しなかった。それがここ10年で606.12%増加し、2017年6月の段階で、高さ200メートル以上の“摩天大楼”は347棟に達している。現在建設中、計画中のものを含めれば、中国の摩天大楼は、十年以内に1000棟を突破するはずである。

すでに現在の摩天楼トップ10のうち、中国のそれが半分を占めている。2位の上海中心大廈(上海)4位の高銀金融117大廈(天津)5位の平安国際金融中心(深セン)8位の広州東塔(広州)10位の環球金融中心(上海)である。

1位 高速網 高速道路と高速鉄道

一昔前まで、人々は貴州について話すとき、誰もが交通の不便によって、発展は望めないと言っていたものだ。雲貴高原には、1000~2000メートル級の梯子が必要だからだ。生活を打開し、富貴を得るのは奇跡的なことと思われていた。それが現在の貴州省西部では、どの県にも高速移動が可能な地域となった。

国家級のビッグデータ分析センター誘致に成功するなど、各種のビジネスチャンスが広がっている。今や貴州省のGDP増加率は、全国1~2位である。

高速道路……1988年、中国初の高速道路が上海ー嘉興間に開通した。11年後に総延長は1万キロを突破した。その後2002年に2万キロ。2004年に3万キロ、2007年に5万キロ、2013年には10万キロを突破し、米国超えを果たした。2016年には、中国の高速道路網は13万キロを突破している。

高速鉄道……2009年、中国初の高速鉄道、京広(北京ー広州)高鉄の武漢ー広州区間が開通した。2013年、高速鉄道の総延長は1万キロを突破した。2016年には2万キロを突破、当面の目標は、3万キロの突破である。北京ー上海間は、最も早い列車で4時間半である。高速鉄道の利便性は一部の飛行機嫌いだけのものではない。高速交通網の整備は、中国の高速経済発展と不可分である。

新4大発明がもたらす時代の変化

これら10大奇跡のうち、オンラインゲームとモバイル決済は、今世紀に入って発展したものだ。それらを除くと教育は地道にやっていたこと、“央企”(国営企業)がまい進して、高速交通網や摩天楼、ネットインフラ、宇宙開発や富豪たちまでも生産したことがわかる。

しかし記事の礼賛している央企のやる気満々が今後も続けば、過剰生産、過剰債務で、世界に累が及ぶ時代となっている。彼らはすでに世界経済の牽引車ではなく、不安定要因なのだ。もちろんそうした指摘はしていない。

最近のネットニュースでは、古代中国の四大発明「羅針盤、火薬、紙、印刷」に対し、新四大発明という言い方が目に付く。これらは国外に出ていた青年たちが、帰国後に驚愕したものとされている。それらは「高速鉄道、支付宝、シェアサイクル、ネット通販」の4つである。

ただしこれらは現時点での理解である。今後どう変化するかわからない。したがって、高速鉄道やネット通販は違うだろう、などの批判は控え、現時点での花形と理解しておく。この4つのうち央企が直接関わるのは、高速鉄道だけである。10大奇跡よりは少なくなっている。

“央企”の権力ずくの需要創出を民営企業の活動が上回るかどうか。その辺りが今後の焦点となりそうだ。今は時代の節目なのだろう。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)