はじめに
2017年4月には、標準利率が1%から0.25%に引き下げられた。2013年4月の引き下げ(1.5%⇒1%)以来、4年ぶりの標準利率の引き下げとなった。
マイナス金利など異常な低金利下においても、新規契約の保険料負担をなるべく抑制するため、従来から行われてきた、配当方式による予定利率の区分や、一部商品について保険料率の改定を回避したり、逆に保障性商品については保険料を引き下げるといった対応が一層進み、標準利率より予定利率を少しでも高めに設定し、新規契約の保険料引き上げを回避しようとする傾向が強くなっていることは別稿(*1)で紹介したとおりである。
予定利率の引き下げによる保険料の引き上げという「逆風」をしのぐため、2017年、生保はさまざまな商品・サービスを開発、発売した。
年末にあたり、こうした2017年の生保新商品・新サービスの概要を紹介することとしたい。
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(*1)小著「標準利率の引き下げと生保会社の対応-経営努力による新規契約保険料引き上げの抑制」『保険・年金フォーカス』、2017年4月5日、ニッセイ基礎研究所ホームページ参照。
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新商品
◆健康増進に向けた新商品
少額短期保険業での健康年齢連動型医療保険の発売(2016年6月、健康年齢少額短期保険)後、2016年12月、生保初の実年齢に代えて健康年齢を使用した「カラダ革命」(7大生活習慣病入院一時給付保険)をりそなグループにおいて発売したネオファースト生命は、2017年4月から、同商品を一般代理店向けに「からだプラス」として発売した。契約時には実年齢を用いて保険料を算出するが、3年ごとの更新時に、健康診断等の検査項目結果などに基づいて算出した健康年齢を用いて保険料を決定する仕組みとなっており、健康年齢が若いほど保険料が安くなる(*2)。
10月には、同社は更新時だけでなく、契約時から健康年齢により保険料を決定する「ネオde健康エール」(特定生活習慣病入院一時給付保険)を発売した。契約時以後の3年ごとの更新時においても、健康年齢を判定して保険料を決定する(*3)。
2017 年8月、東京海上日動あんしん生命は、NTTドコモと共同開発した、顧客の健康増進活動に応じて保険料をキャッシュバックする業界初の医療保険「あるく保険」を発売した。貸与された腕に装着するウエアラブル端末と専用のスマートフォンアプリを使用して毎日の歩数を計測し、1日平均8000歩を目標とし、達成状況に応じて2年に1度、健康増進還付金(キャッシュバック)がもらえる仕組みであり、8月から関東近辺のドコモショップ32店舗で先行販売、11月から一般販売を開始した(*4)。
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(2)「7大生活習慣病入院一時給付保険『からだプラス』を販売開始」、2017年4月3日、ネオファースト生命ホームページ。
(3)「契約時より『健康年齢』の結果で保険料を決定!『ネオ de 健康エール』発売!」、2017年8月9日、ネオファースト生命ホームページ。
(*4)「新商品『あるく保険』発売のお知らせ~お客様の健康増進活動に応じて保険料をキャッシュバックする業界初の商品~」、2017年4月3日、東京海上日動あんしん生命ホームページ。
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◆その他の新商品
2016年4月の日本生命によるトンチン性を高めた個人年金の発売に続き、2017年3月には第一生命(5)が、10月には太陽生命(6)、かんぽ生命(*7)が同様の個人年金を発売した。
大同生命は2017年7月、2016年4月に保険適用された難病による歩行機能を改善するロボットスーツHAL着用を保障する業界初の特約「HALプラス特約」を発売した。医療保険の既契約、新契約に無料で付加することができ、対象となる8つの難病に罹患し、ロボットスーツHAL着用の場合、100万円を給付する(*8)。
このほか、2017年4月、日本生命は法人向け新商品「プラチナフェニックス」(傷害保障重点期間設定型長期定期保険)を発売した。
第一保険期間中の疾病死亡による死亡保険金を低く設定することで保険料を抑えながら効率的に保障を準備できる商品となっている(*9)。
一方、2010年2月のライフネット生命の就業不能保険「働く人への保険」の発売以来、2015年9月住友生命、2016 年 11 月東京海上日動あんしん生命などの就業不能保険市場への参入が相次いだが、2017年4月、朝日生命が働けなくなったとき(身体障害者手帳1~3級の交付または公的介護保険制度の要介護1以上の認定)に年金を支払う「収入サポート保険」およびメンタル疾患で入院を60日継続したときに一時金を支払う「メンタル疾患特約」を発売した(*10)。
日本生命も2017年10月、「もしものときの・・・生活費」(就業不能保険)を発売しており(*11)、就業不能保険が生命保険の標準装備となるかどうかが注目される。
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(5)「“長生き”のための新しい個人年金保険 第一生命のとんちん年金『ながいき物語』の発売について」、2017年3月16日、第一生命ホームページ。
(6)「太陽生命、人生100歳時代に備える保険『100歳時代年金』を発売!~“元気に長生きする”シニアを応援する新しい保険~」、2017年8月29日、太陽生命ホームページ。
(7)「新商品 "医療特約 その日からプラス" "新ながいきくん 低解約返戻金プラン" "長寿のしあわせ"の販売開始」、2017年9月15日、かんぽ生命ホームページ。
(8)「業界初 創業115年記念商品『HALプラス特約』の発売!ロボットスーツHALによる何条治療を保障する生命保険」、2017年5月8日、大同生命ホームページ。
(9)「法人向け新商品 プラチナフェニックス ニッセイ傷害保障重点期間設定型長期定期保険 の発売について」、2017年3月16日、日本生命ホームページ。
(10)「新登場!働けなくなったときの収入減少をカバー 収入サポート 5年ごと利差配当付収入サポート保険無配当メンタル疾患特約」、2017年3月3日、朝日生命ホームページ。
(*11)「新商品 もしものときの・・・生活費の発売について」、2017年8月10日、日本生命ホームページ。
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新サービス
◆スマートフォンなどの新技術や宅配便などを活用した新サービス
2016年7月、生保で初めてLINE ビジネスコネクトを活用し、LINE上で保険プランナーとの保険相談サービスを開始したライフネット生命は、2017年1月、LINEおよびFacebook Messengerでの、チャットボットによる自動応答を活用した保険診断および保険料見積りサービスの提供を開始した(*12)。
さらに、アクサダイレクト生命は、2017年8月、百十四銀行の高松ローンプラザに、これも生保初の顔認証での保険料試算機能を持つ人型ロボットPepperを導入した(*13)。
このほか、三井住友海上あいおい生命では、2017年5月、生保初のスマートフォンで再生したバーチャル・リアリティ(仮想現実)映像を利用した先進医療関連の情報の提供を開始した(*14)。
メットライフ生命は、2017年11月、業界初の給付金請求専用アプリ「かんたん給付請求」の提供を開始した(*15)。
こうした新技術のほか、既存の宅配便、郵便局ネットワークを活用したサービス導入の動きもある。
2017年3月には、第一生命が、ヤマト運輸と連携し、近隣に第一生命オフィスがなく、訪問しづらいエリアの顧客に第一生命からのリーフレットなどを届け、配達状況をフィードバックする取り組みを開始するとプレス発表した(16)(日本生命も2017年9月同様の取り組みを実施)(17)。
2017年6月には、日本生命が、郵便局の窓口ロビーに設置した機器を通じた、遠隔での対面サービスによる保全手続きの実証実験を開始した(*18)。
このほか、ソニー生命は2017年3月、ホームページに入院や手術の給付金額の概算を確認できる業界初のサービスとして、「給付金請求サポートツール」を設けている(*19)。
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(12)「ライフネット生命保険 LINEおよびFacebook Messengerで自動応答による保険診断・見積りが可能に」、2017年1月23日、ライフネット生命ホームページ。
(13)アクサダイレクト生命、百十四銀行にPepperを導入~業界初の顔認証による保険料試算機能で、保険購入ニーズを喚起~」、2017年8月7日、アクサダイレクト生命ホームページ。
(14)「国内生命保険業界初『バーチャル・リアリティ』で先進医療関連の情報提供を開始」、2017年5月22日、三井住友海上あいおい生命ホームページ。
(15)「メットライフ生命、給付金請求専用アプリ「かんたん給付請求」の提供を開始 簡単で迅速な給付金支払いに対するお客さまのニーズに対応」、2017年11月28日、メットライフ生命ホームページ。
(16)「第一生命保険株式会社とヤマト運輸株式会社が連携し、地域のお客さまに『安心』をお届け~地域・社会貢献に資する新たな取組みを開始~」(2017年3月11日)、第一生命ホームページ。
(17)「高齢のお客様への情報提供サービスの充実について~ヤマト運輸株式会社によるリーフレット等のお届けをスタートします~」(2017年9月14日)、日本生命ホームページ。
(18)「郵便局ネットワークを活用した地域共通インフラ構築に向けた実証実験の実施」(2017年6月13日)、日本生命ホームページ。
(19)「業界初 ホームページに『給付金請求サポートツール』をリリース」、2017年4月3日、ソニー生命ホームページ。
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◆健康増進サービスの推進
2016年から各社が多様な健康増進サービスを提供しているが、2017年はさらに加速している。
損保ジャパン日本興亜ひまわり生命は2016年9月からアプリを中心とした健康関連サービスとして「Linkx(リンククロス)」を展開しているが、2017年4月から、健康状態および生活習慣改善に向けたダイエットアプリ「Linkx reco(リンククロス レコ)」、散歩アプリ「Linkx aruku(リンククロス アルク)」の提供を開始している(*20)。
2017年11月には、医療用入院一時金特約などの新発売と同時に、Linkx会員向けに提携による家事代行サービスの提供を開始(*21)するなど、サービスを拡充している。
楽天生命は、2017年2月、生保として初のスマートフォンを活用した女性向けヘルスケアサービスとなる、無料の体調管理アプリ「楽天キレイドナビ」の提供を開始した(*22)。
2017年3月には、第一生命がスマートフォンを用いた健康増進サービス「健康第一」アプリの提供を開始した。スマートフォンで撮影した写真を使用して、BMI(Body Mass Index,体重を身長の二乗で除した指数)の変化と年齢の経過による将来の自分を確認することができ、歩数・BMI の計測なども可能となっている(*23)。
2017年10月には、健康年齢の測定や写真での食事のカロリー算出機能などが追加されている(*24)。
このほか、2017年3月の日本生命による健康診断やがん検診の受診による「健康サポートマイル」の提供(25)、2017年6月の明治安田生命の株式会社FiNCと共同開発した企業の健康経営をサポートするプログラム「MY健康増進サービス」の提供(26)など、健康増進サービスはさまざまなかたちで提供されている。
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(20)「パートナーや友人と続けられるダイエットアプリ新登場!!リンククロス レコ~毎日 4 つの簡単なタスクで体型改善~」、「継続的な散歩で健康促進を図る新アプリ リンククロス アルク 全国約 300 コースの散歩コースを当社の社員が歩いて作成」、2017年3月30日、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命ホームページ。
(21)「新商品『医療用入院一時金特約』と『医療用通院特約』の発売および家事代行会社とパートナーシップ契約締結」、2017年11月2日、損保ジャパン日本興亜ひまわり生命ホームページ。
(22)「国内生保初、スマホを活用した女性向けヘルスケアサービスを開始~体調管理アプリ『楽天キレイドナビ』で、女性の健康増進をサポート~」、2017年1月23日、楽天生命ホームページ。
(23)「“健やかに生きる、幸せになる” 健康第一プロモート始動『健康第一』アプリの提供及びスタートキャンペーンを開始」、2017年3月21日、第一生命ホームページ。
(24)「健康長寿社会に対応したスマートフォン向けアプリ『健康第一』がレベルアップ ~最新テクノロジーを活用し、健康年齢の測定や写真で食事のカロリー算出が可能に~」、2017年10月5日、第一生命ホームページ。
(25)「ご契約者様向けのヘルスケアポイント『健康サポートマイル』の導入について」(2017年3月22日)、日本生命ホームページ。
(*26)「中小企業向け健康経営支援プログラム『MY健康増進サービス』の提供開始について」、2017年6月21日、明治安田生命ホームページ。
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◆地方自治体との包括連携協定
各地方自治体に拠点網や営業職員を抱える生保会社における、地方自治体との包括連携協定締結の動きも進んでいる。
第一生命においては、2015年1月、千葉県の商業者等の高齢者福祉に特化した地域貢献(ちばSSKプロジェクトなど。SSKは、「しない」のS、「させない」のS、「孤立化」のK)に関して、千葉県と協定を締結する(27)などの動きを進め、2017年3月には、岡山県との防災活動への協力に関する提携により、47都道府県すべてと協定を締結している(28)。
日本生命においても、2016年4月の埼玉県との包括連携協定の締結(高齢者支援に関する協定項目を含む)(*29)をはじめとして、岐阜県、愛知県、滋賀県、大分県など多くの県と協定を締結している。
岐阜県などとの包括連携協定においては、「高齢者が安心して生活できる社会づくりのために、当社職員が認知症サポーターに登録し、地域における見守り活動や声かけ等の支援活動を実施します」(*30)と謳っている。
同様の包括連携協定締結は住友生命、明治安田生命などの事例もあり、協定内容の実現に向けた各社の動向が注目される。
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(27)「千葉県と第一生命保険株式会社との「『ちばSSKプロジェクト』等に関する協定」の締結について」(2015年1月20日)、千葉県ホームページ。
(28)「地域に安心をお届けするための自治体との連携~47都道府県との協定等の締結~」(2017年3月23日)、第一生命ホームページ。
(29)「埼玉県との『包括連携協定の締結』について」(2016年4月5日)、日本生命ホームページ。
(30)「岐阜県との『包括連携協定の締結』について」(2016年8月24日)、日本生命ホームページ。
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おわりに
2017年の中間決算においては、海外子会社などを含む連結ベースでの保険料等収入は、一部生保会社において増収を確保したものの、単体ベースでは、多くの生保会社が減収となっている。
一方、日本アクチュアリー会において、生保会社の経験死亡率や国民死亡率の改善状況等を踏まえ、標準生命表の改定案が作成され、2017年5月に金融庁に提出された。
これを受け、金融庁において検証を行い、2018年4月から「標準生命表2018」が適用されることとなった。
2018年4月には再び保険料率の改定が行われる予定である。
今後の各社の動向を引き続き注視していきたい。
小林雅史(こばやし まさし)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 上席研究員
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