政府の「働き方改革」の一環で、一躍「副業」が脚光を浴びています。本業のほかに収入を伴う仕事が副業です。代表的なパートタイムやアルバイト、業務委託などで、呼び方はサイドビジネスや兼業など多種多様といえます。大手企業を中心に副業を認めるケースが増えており、今後は中小企業にも波及するでしょう。働き方改革で「副業の位置づけ」について解説します。
副業に対する中小企業の捉え方
東京商工会議所は2016年12月に公表した東商けいきょう集計結果(中小企業の景況感に関する調査)2016年10-12月期で、付帯調査として「従業員の兼業・副業」を実施しました。回答は、東京23区内の中小企業2,509社中783社から(回答率31.2%)ありました。
この調査で、兼業や副業を「積極的に推進している」は15.2%に対し、「現在・将来共に認めない」は43.0%でした。積極的に副業をすすめている中小企業はまだ少ない傾向ですが、「人材の育成や従業員のスキル向上につながる」という潜在的で前向きな回答は半数近い46.2%で注目に値します。
反対に、兼業や副業に消極的や否定的な回答(やむを得ず認めている、現在は認めていない)の中小企業に「長時間労働や過重労働を助長する」という回答が56.2%ありました。長時間労働の是正が「働き方改革」の目的のひとつですので、これでは逆効果です。中小企業には現状では、副業や兼業に対する考え方にまだ大きな開きがあることが浮き彫りになっています。
副業が認められないケース
全面的に、就業規則などで副業や兼業を禁止するのは違法です。ただ例外的に副業や兼業を禁止できる場合はあります。2017年3月28日に発表された首相の私的諮問機関「働き方改革実現会議」が副業や兼業の普及を拡大するための「働き方改革実行計画概要(ガイドライン)」では、具体的には次のようなケースが想定されています。
・ 勤務時間中の副業や兼業
・ 本業に支障をきたす副業や兼業
・ 競合他社での副業や兼業
従業員が副業をする理由
中小企業庁の「経営支援部創業・新事業促進課の第1回兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する研究会説明資料」によれば、業務形態を問わず、副業や兼業をする理由のトップは「収入を増やしたい」でした。
2位以下は、正社員は「活躍できる場を広げたい」「さまざまな分野の人とつながりができる」が続きます。一方、非正規社員は「ひとつの仕事だけでは生活自体が営めない」、「時間にゆとりがある」でした。この結果から、副業や兼業を収入への補完策としている場合と、自己実現を目的とするケースが見受けられます。
「働き方改革」でなぜ副業なのか
「働き方改革実現会議」が2016年9月に発表した資料では、柔軟な働き方としてテレワーク(在宅勤務)のほか、副業や兼業もテーマになっています。経済産業省の「兼業・副業を通じた創業・新事業創出に関する調査事業研究会提言」で、政府が働き方改革の一環として兼業や副業を促進する姿勢が明らかになっています。
しかし「働き方改革実行計画概要(ガイドライン)」には、法的な拘束力はありません。政府が副業や兼業を明記したことで、企業に柔軟で多彩な働き方を促す意図が込められています。総務省によると、自治体では珍しく、神戸市が2017年4月から、副業を推進するために独自の許可基準を設定しました。
市職員が休日に一定の報酬を得ながらNPO法人など公共性のある組織で活動し、ソーシャルビジネスを起業するなど、職員の働き方を多様化します。外部での経験を公務に生かして市民サービス向上につなげるのが目的です。この基準では「社会性、公益性が高い」「市が補助金を出すなど特定団体の利益供与に当たらない」「勤務時間外」「常識的な報酬額」などが明記されたのです。中高年の職員が退職後の第2の人生に備え、在職中から地域貢献活動などに参加しやすくする狙いもあります。
副業を容認する企業と自治体
中小企業庁の委託事業「株式会社リクルートキャリアの平成26年度兼業・副業に係る取組み実態調査事業報告書」によれば、現状で認めているのは情報通信関連業に多く見られます。
・ロート製薬
休日や終業後に副業を認める「社外チャレンジワーク」と社内の各部門や部署の仕事も担う「社内ダブルジョブ」で、会社の許可が前提。副業を容認した理由は「もっと先の成長のため視野を広げ、自社の成長につなげたい」としています。
・サイボウズ
ソフトウェア開発会社で、副業の推進で社外の人脈が広がって、多彩な働き方や価値観を認め、社員の意欲向上や離職率の低下へつなげています。さらに、副業の解禁で全従業員が経営者感覚を身に付けるメリットがあるということです。
公務員にまで副業が波及し始めたことで、今後、中小企業などへも拡大する可能性が高くなるでしょう。
副業による課題やメリット
副業で労働時間が増えるのは、「長時間労働」の是正には本末転倒です。今後、従業員の副業や兼業に伴う健康管理をはじめ、労働時間や残業手当、過労や労災事故のほか、雇用保険や社会保険料などの諸課題を解決する必要に迫られます。「働き方改革」を推し進めるうえでは、多様な働き方で従業員の視野拡大や優秀な人材の流出防止などの効果も指摘されています。(提供:あしたの人事online)
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