要旨
最近、政府が働き方改革を推進するとともに、テレワークに対する関心も高まっている。テレワークとは、遠いという意味のteleと仕事のworkを組み合わせた造語で、会社以外の遠く離れた場所等で働くという意味を持っている。
総務省の「平成28年通信利用動向調査」によると、テレワークを「導入している」と回答している企業の割合は13.3%であり、「導入を予定している」と答えた企業(3.3%)を合わせても16.6%に留まっていることが分かる。
企業がテレワークを導入した目的としては、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」(59.8%)、「勤務者の移動時間の短縮」(43.9%)、「顧客満足度の向上」(20.8%)等が挙げられる。
他方、テレワークを導入していない理由としては、「テレワークに適した仕事がないから」(74.2%)、「情報漏えいが心配だから」(22.6%)、「業務の進行が難しいから」(18.4%)が高い割合を占めている。
企業等に勤める15歳以上の個人のうち、テレワークを実施したことがあると答えた割合は8.2%であり、個人がテレワークを実施できない理由としては、「勤務先にテレワークできる制度がないため」(55.2%)と「テレワークに適した仕事ではないため」(50.6%)が挙げられた。
テレワーク制度等があると回答した雇用者の割合は、情報通信業(34.4%)、金融・保険(19.9%)、製造業(19.5%)が上位3位になっている(国土交通省の「平成28度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要」)
今後の労働力不足を解決するためには、女性や高齢者、そして外国人などより多様な人材が労働市場で活躍する必要があり、そのためにはテレワークの普及等によりワーク・ライフ・バランスが実現できる労働市場を構築することが大事である。
今まで労働市場に参加していなかった人が労働市場に参加できる環境と育児や介護などが原因で労働市場から離れない環境を構築すべきであり、今後テレワークがその重要な役割を果たすのではないかと思う。
テレワークの実現により柔軟な働き方を希望する人がより労働市場で活躍できることを期待する。また、長時間労働の解決策としても有効に活用できることを望むところである。
長時間労働に対する今までの取り組み
最近、政府が働き方改革を推進するとともに、テレワークに対する関心も高まっている。テレワークとは、遠いという意味のteleと仕事のworkを組み合わせた造語で、会社以外の遠く離れた場所等で働くという意味を持っている。最近は情報通信技術(ICT)を活用して、場所や時間にとらわれない柔軟な働き方が実現されることになった。
テレワーカーは、働く場所により、在宅型テレワーカー(自宅でテレワークを行うテレワーカー)、サテライト型テレワーカー(自社の他事業所、または複数の企業や個人で利用する共同利用型オフィスやコワーキングスペース等でテレワークを行うテレワーカー)、モバイル型テレワーカー(顧客先・訪問先・外回り先、喫茶店・図書館・出張先のホテル等、または移動中にテレワークを行うテレワーカー)に分類される。
内閣府が発表した「平成28年版情報通信白書」では、テレワークのメリットを「就労者にとっては、時間と場所を有効に活用できる柔軟な働き方が可能となるため、ワーク・ライフ・バランスの向上や通勤による疲労軽減、地方における就業機会の増加などが期待される。また、企業にとっては、従業員の生産性向上や災害時やパンデミック(*1)発生時における事業継続性の確保、人材流出の防止策として期待される。そして、社会全体にとっては、子育てや介護等を理由とした離職の抑制や、高齢者や障害者等の就業機会の拡大による、労働力の確保として期待される。」と説明している。
長時間労働の改善策としても期待されているテレワークは日本にどのぐらい普及しているだろうか。
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(*1)パンデミック(pandemic)とは、感染症が世界的規模で大流行すること、感染爆発。出所)『新明解国語辞典第七版』三省堂。
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テレワークの現状
テレワークが就労者、企業、社会全体に対して広く効果があると期待されているにもかかわらず、日本では企業での導入や就労者における認知が十分には進んでいないのが現状である。
日本でテレワークの現状が把握できる代表的な調査としては、総務省の「通信利用動向調査」と国土交通省の「テレワーク人口実態調査」が挙げられる。総務省の「通信利用動向調査」は、世帯、事業所、企業ごとの電気通信・放送サービス等の利用実態とその動向を把握することを目的に2000年から実施された調査であり、2009年からはテレワークの現状についても調査を実施している。一方、国土交通省の「テレワーク人口実態調査」は、就労者の働き方の実態をWEB調査により把握することで、今後のテレワークの普及促進策に役立てることを目的として、2002年から実施されている(*2)。2016年度の調査では、モバイルワークなど在宅以外も含めたテレワークの実施実態や、業種・職種等によるテレワークの普及度合い、勤務先におけるテレワーク制度等の有無別の実施状況や効果の違いなどについて聞いている。
まず、総務省の「平成28年通信利用動向調査、以下、通信利用動向調査」によると、テレワークを「導入している」と回答している企業の割合は13.3%であり、「導入を予定している」と答えた企業(3.3%)を合わせても16.6%に留まっていることが分かる(図表1)。導入しているテレワークの形態は、「モバイルワーク」が63.7%で最も高く、次いで、在宅勤務(22.2%)、「サテライトオフィス勤務」(13.8%)の順である。企業がテレワークを導入した目的としては、「定型的業務の効率性(生産性)の向上」(59.8%)、「勤務者の移動時間の短縮」(43.9%)、「顧客満足度の向上」(20.8%)等が挙げられる。他方、テレワークを導入していない理由としては、「テレワークに適した仕事がないから」(74.2%)、「情報漏えいが心配だから」(22.6%)、「業務の進行が難しいから」(18.4%)が高い割合を占めている。
企業等に勤める15歳以上の個人のうち、テレワークを実施したことがあると答えた割合は8.2%であり、個人がテレワークを実施できない理由としては、「勤務先にテレワークできる制度がないため」(55.2%)と「テレワークに適した仕事ではないため」(50.6%)が挙げられた。
一方、国土交通省の「平成28度テレワーク人口実態調査-調査結果の概要」によると、テレワークの場所として自宅以外にも、自社の他の事業所、共同利用型オフィス、喫茶店、図書館等が使われていることが分かった。このように自宅以外でテレワークをしている理由としては、「仕事に集中でき、業務効率が高まるから」が45.9%で最も高く、次いで、「外出中の空き時間を有効に活用できるから」(32.4%)、「移動中の時間を無駄にしたくないから」(31.9%)が上位3位を占めていた。
テレワーク制度等があると回答した雇用者の割合をみると、情報通信業(34.4%)、金融・保険(19.9%)、製造業(19.5%)が上位3位になっている(図表4)。
一方、職種別のテレワーカーの割合は、雇用型テレワーカー(3)の場合、研究開発・技術(ソフトウェア等)が35.8%、クリエイティブ・デザインが27.6%、営業が26.7%で高く、自営型テレワーカー(4)の場合は、ライティングが51.8%、プログラマーが51.3%、クリエイティブ・デザインが40.0%で高い割合を見せている。
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(2)2008年までは3年おきに、以降は毎年調査を実施。
(3)雇用型:民間会社、官公庁、その他の法人・団体の正社員・職員、及び派遣社員・職員、契約社員・職員、嘱託、パート、アル バイトを本業としていると回答した人。
(*4)自営型:自営業・自由業、及び家庭での内職を本業としていると回答した人。
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テレワークの拡大のために
政府は、2017年7月24日に「テレワーク・デイ」を開催した。テレワーク・デイは、2020年東京オリンピックの開会式にあたる7月24日を「テレワーク・デイ」と位置づけ、交通機関や道路が混雑する始業から10時半までの間、一斉テレワークを実施することを奨励する国民運動で、2012年に開催されたロンドンオリンピック・パラリンピックをベンチマーキングしたものである。ロンドンではテレワーク・デイを実施したことにより、オリンピック期間中の交通混雑を回避できたことに加え、テレワークを導入した企業では、事業継続体制の確立、生産性や従業員満足の向上、ワーク・ライフ・バランスの改善等の成果が得られたそうだ。今後日本でもテレワーク・デイが定着すると、今より多くの企業や労働者がテレワークを実施することが期待される。
テレワークは企業にとって、オフィスコストの削減、生産性の向上、人材の確保などの効果があると言われている。また、労働者にとっては、業務効率の向上、自由に使える時間の増加、通勤時間・移動時間の短縮というプラスの効果がある。しかしながら、「平成28年度 テレワーク人口実態調査」によると、テレワークを実施したことにより「仕事時間(残業時間)が増えた」(46.5%)、「業務の効率が下がった」(28.6%)、「職場に出勤している人に気兼ねした」(15.9%)というマイナス効果もあることが確認された。確かに、会社以外の場所で働くと、最初は自己管理が難しく、会社で働くより効率が下がるかも知れない。従って、働く時間とプライベートの時間を明確に分けて勤務する心構えとそのための環境を整備することが大事である。また、より多くの企業や労働者がテレワークの意義やメリットが理解できるように積極的な広報活動を取り組む必要もある。
総務省が2017年に発表した「ICT利活用と社会的課題解決に関する調査研究」によると、テレワークの導入率は、従業員数301人以上の企業が20.4%であることに比べて、20人以下の企業は3.1%で、従業員規模が大きい企業ほど、テレワークの導入率が高いという結果が出た。テレワークを実施するためには、情報通信技術の導入や労務管理の整備などが必要だが、中小企業の多くは、 資金や人材などに制約があるのが事実である。従って、今後テレワークをより普及させるためには中小企業に対する支援策をより講じる必要があると思われる。
また、テレワークを導入していない最も大きな理由として「テレワークに適した仕事がないから」が挙げられているが、実はテレワークは事務職、営業職、管理職など幅広い層のデスクワークに適用することが可能である。生産現場や、顔を合わせて仕事をする必要のある業務の場合はテレワークを実施することが難しいかも知れないが、業務やコミュニケーションの見える化、業務のペーパーレス化、分業化を推進するなど、仕事のやり方を改善していけば、テレワークでできる仕事はたくさん見つかると思う。
今後の労働力不足を解決するためには、女性や高齢者、そして外国人などより多様な人材が労働市場で活躍する必要があり、そのためにはテレワークの普及等によりワーク・ライフ・バランスが実現できる労働市場を構築することが大事である。つまり、今まで労働市場に参加していなかった人が労働市場に参加できる環境と育児や介護などが原因で労働市場から離れない環境を構築すべきであり、今後テレワークがその重要な役割を果たすのではないかと思う。テレワークの実現により柔軟な働き方を希望する人がより労働市場で活躍できることを期待する(*5)。また、長時間労働の解決策としても有効に活用できることを望むところである。
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(*5)本稿は、金 明中(2017)「テレワークの現状や課題」『福利厚生情報』2017年度Ⅵを引用・補完したものである。
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金 明中(きむ みょんじゅん)
ニッセイ基礎研究所 生活研究部 准主任研究員
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