情報通信技術の発達により様々なデータを収集できるようになり、データ分析が意思決定や改善のプロセスに利用されている。ただ、データから得られた相関関係を利用しても、望むような結果を得られない事は多い。因果関係を理解することこそが重要でありデータ分析の核心となる。

著者は国際的な研究成果を数多く発表している第一線の若手研究者で、本書には自身の研究も収録されている。本書はデータ分析の具体例と分析により分かった興味深い事実を、数式や統計の難解な概念は省略し、初心者にも分かりやすく論じている。データ分析の醍醐味を堪能できる、計量経済学の入口にベストな一冊である。

データ分析の力 因果関係に迫る思考法
著者:伊藤公一朗
出版社:光文社新書
発売日:2017年4月18日

データから因果関係を導き出す方法

「広告は売上アップに貢献したか?」「ある政策が期待するような良い影響をもたらしたのか?」などの判断には因果関係を見極めなければできないが、どのようにして単なる相関関係ではなく因果関係に迫ることができるのかが本書のテーマである。

ビッグデータや統計ソフトの利用により相関関係の計測は容易になっているが、一方で怪しい相関データが世に溢れるようにもなっている。「マンションの高層階に住む女性の不妊率が高い」という相関関係が示されたとしても、高層階に住むことが要因でそのようになっているかは定かではない。また、「電気をつけたまま寝ている家の子供に近視が多い」という相関関係を「電気をつけたまま寝かせると子供が近視になる」という誤った因果関係として捉えられた例は有名かもしれない。

因果関係を見極めるためには、統計の精度を上げるためにデータの観測数を増やすだけでなく、ほかの要因の影響や逆の因果関係などのノイズを除去したうえで、優れた分析をするためのデータを用意する必要がある。そのような理想的なデータを取得する方法として、ランダム化比較実験(RCT)やパネル・データ分析といった手法の具体例を紹介している。

因果関係を捉えることで物事を着実に改善できる