経済ニュースサイト「界面」は、2018年からAIに取って替わられそうな職業10選、あなたの職種は入っていますか?と題するいう記事を掲載した。中国経済紙の描く近未来の中国社会の輪郭が垣間見えるかもしれない。
2017年を通じ、AIの波は全世界を席捲した。中国でも、工業和信息化部(工業情報部)の公布した“新一代人工智能発展規劃”以来、各業界にAI熱が広がった。その熱はAI関連銘柄の上昇にも火を付けた、と記事は始まる。
スウェーデンのテレビドラマ「リアル・ヒューマンズ(2012~)」のロボット主人公は人間的だ。仕事上の失敗もする。しかしドラマ上でも、ロボットの方が生産効率に優れ、重複する仕事から人間は退いていく。ただし同ドラマでは、ロボットが人間たちの心肝を寒からしめる状況は、かなり先として描かれている。しかし本当にそうだろうか。
2017年にはAIの影響を受けていないが、2018年以降、影響を受けそうな職業は何か整理してみた。以下はそうして界面新聞の記者がピックアップした10職種である。
10~5位、配達員、運転手のほか金融系資格が必要な職業も
第10位 会計士
会計は、人工智能(以下AI)に取って替わられそうとの呼び声が高い職業である。一般の人たちは、会計帳簿やデータ処理などAIの最も得意とする領域と思っているだろう。しかし記者が会計のプロたちを取材した限りでは、2017年段階における会計業務のAI化は、基礎的な段階にとどまっている。
国際銀行業務をこなす会計士は記者に対し、毎四半期の会計書類作成ではコンピューター化が実現している。ただし人間によるデータ入力が必要だ。コンピュータは、それに反応しているだけである。会計のすべてをAIで描くのは極めて難しい。一つ一つのデータの具体的内容を、正確に類推するのは不可能だ。また銀行ではエラーのチェックが必要だが、コンピューターはノーミスという前提に立っている。
優秀会計士は、伝統的な記帳という部分は、歴史の流れに淘汰されるだろう。しかしAIは、重複作業は減らしてくれるだろうが、会計業務簡略化の解決策とはならない、とも思っている。2018年、会計人員の削減は、基礎的な部分だけにとどまりそうだ。
第9位 宅配便配達員
ネット通販と物流業は、高度成長の真っ只中にある。すでに宅配便は、生活の不可欠なツールとなった。アリババ集団旗下の物流会社、菜鳥物流では2017年、お掃除ロボットのような、運搬ロボットを100台稼働させた。倉庫内の自動ピッキングを実現し、人間によるピッキングの3倍の効率を達成した。京東(JD)蘇寧などのネット通販大手も、自前の新システムを導入している。
自動ピッキングの次にやって来るのは、自動運送と自動配達である。2017年6月中旬、京東の無人配送ロボットが正式に運用を開始した。中国人民大学構内における配達業務を順調にこなしている。もう配達員は必要ないのである。
大量の物流需要の中で、AIが解決するのは、まだほんの一部に過ぎない。しかしネット通販巨頭は、この領域を大きく変革しようとしている。新しい状況が出現するのは必然だ。
第8位 運転手
2017年12月末、百度(パイドゥ)ApolloというAIを搭載した無人運転車が、国家プロジェクトの“雄安新区”内を進行した。All in AIを標ぼうする百度が、内外多くのハイテク企業と研究開発を重ねた無人運転技術である。
同じ12月末、米アップル社は、申請していた自動運転に関する特許を承認された。ブルームバーグの報道によれば、2016年にテストを行った自動運転関連のシステムに関するものである。
自動運転技術は、次の発展段階へ進んでいる。AIが人間の運転手職を奪うのは、決定しているのだ。
第7位 税関
大規模の国際空港では、すでに“虹彩認証”による入出国が実現している。やがて入国手続きは、国際航空便の機上で行うということになるのだろう。
欧州各国では、税関の電子自動通関も大規模に運用されている。ただし対象はEU市民に限られる。自動通関はパスポートに埋め込まれたICチップと、虹彩認証のダブルチェックで行われる。
こうした技術が拡散していければ、その行きつくところは、人間との業務重複である。中国でも各空港の旅客が急増する以前から、税関のAI導入は進み、通関スピードは上がっていた。AIだけが税関職員の仕事を奪う要素というのは当たらないが、重要な要素には間違いない。
第6位 ネット通販の顧客サービス係
銀行のテラー(窓口係)たちの立場とよく似ている。ネット通販の顧客サービス部門は、顧客の問合せに解決策を示さなければならない。内容は配達に関するもの、商品の細目に関わるもの、優待関連などさまざまだ。これはネット通販会社の主要業務の一つであった。
ところがアリババでは、天猫(B2Cショッピングサイト)の顧客サービスを大部分“阿里小蜜”というスマホアプリに移すことに成功している。音声認識も可能で、すでに1億人がダウンロードしているという。
ネット通販は、さらに発展が見込まれる。2018年は、AIによる顧客サービスの範囲が大きく拡大する1年となる。
5~1位 1位はまさかの……
第5位 銀行テラー
近日、自称銀行員が微博(ミニブログサービス)上で、次のような発信をした。
この人は全国3位の大銀行に勤めている。最近本店からの通達を受け取った。2018年から試行される支店改革の内容が記されていた。それによると、いずれ窓口業務に人間は残らず、すべてをAI窓口に変更する。支店には40台の機械(アクセスポイント)を置き、行員は5人もいれば十分、となっていた。
銀行の支店業務はモデル化され、提供する金融サービスは、逐次AI化されていく。まだそうした“スマート窓口”の全貌が、すべて明らかになっているわけではない。しかし2018年の金融業界は、最初の人員“変動”に見舞われることになるだろう。
第4位 販売員
同じように売場の販売員もAIに取って替わられる。米国のハンバーガーチェーン「CaliBurger」は12月末、最新の虹彩認証装置を公開した。この機械で自分の好みを登録し、loyalty account を作成すれば、来店の都度、自動的にこれまでの注文履歴が出てくる。それをタッチするだけで、店員がわざわざ注文を取る必要はない。
中国のケンタッキーにも似たようなシステムが登場した。モデル店では2016年末から、顔識別の技術によって、消費者の年齢や心情を判断し、メニューを提案している。最終的に虹彩による注文の実現を目指す。
AIがさらに人間の望む注文を理解できるか、そしてAI販売員がどの領域まで踏み込むかは、まだ考慮すべき問題である。
第3位 レジ係
無人小売店の出店がブームとなっている。レジ係はどうなってしまうのか。
2017年7月上旬、アリババ集団の創作祭(Creation Festival)において披露された無人小売店は、QRコードをスキャンして店内へ入る。そして購入から支払いまですべてセルフで完結する。
現在運営している無人便利店の大部分は、RFIDというICタグ技術によって支えられている。これは非接触型でいちいちスキャンする必要はない。こうした単発の技術の進化だけでは、AI化というには遠いかもしれない。しかし無人小売の技術と効率は、2017年中に大きな飛躍を遂げた。2018年には、無人小売店の情景が大規模に広がり、多くのデータによって支えられていることだろう。
第2位 翻訳者
AIスマート言語市場は既に長足の進歩を遂げている。文字翻訳、音声識別、音声自動翻訳などである。現在マイクロソフト、百度、科大訊飛 などが自主AI翻訳機の開発に取り組んでいる。
2017年、翻訳の正確性、識別率、語彙バンクの充実などハードウエアの進化は、隔絶した領域に踏み込んでいる。AIが人に替わって通訳を務める時代はそう遠くない。
第1位 記者
最も取って替わられそうな職業は、モノ書きとしての新聞記者たちである。2015年9月、騰訊財経に掲載された「8月のCPIは2%増、ここ12カ月の最高を記録した。」という文章は、各メディアの見出しを占領した。この抑揚のない文章の作者は、記事作成ロボットのような役割を果たした。
この後、ニュースサイト「今日頭条」の研究開発になる記事作成ロボットxiaomingboは、2016年のリオオリンピックでニュース原稿の作成に当たった。2017年の初め「南方都市報」は、自社の記事作成ロボット“小南”の作成記事を自社媒体へ出稿した。しかしロボットが書いた痕跡を発見するのは難しかった。
また騰訊の“Dream writer”は、すでに自動学習機能が備わっており、ジャンルを超えた記事作成が可能になっているという。AI記事作成が、人間の書く記事に完全に取って替わられるには、まだ長い距離がありそうだ。しかしAI記事の発展速度は、我々の予測を超えるだろう。2018年には、速報記事のほとんどがAI作成のものになると予測されている。
中国の変革が参考になる時代?
中国の変革はドラスティックである。また中国人はそれに慣れっこになっている。昔を懐かしむ情緒は入らない。すでにさまざまな人たちが、変革とその後のビジネスチャンスを見据えて行動を起こしている。それに比べれば、日本は平穏である。時間の進み方が違ってきたようだ。例えば小売業の変革など、日本では何も起こっていないに等しい。カタログ通販から、ネット通販とテレビ通販へ変化したことぐらいではないか。大型小売店も、インバウンド需要がなければどうなっていたかわからない。O2O統合の取組みが毎日のようにニュースとなっている中国とは、大変な違いである。
とにかく2018年の中国は、じっくりウオッチしなければならない。そうしているうちに、日本が中国の改革事例を参考にするときが、いつやってくるか、判断がつきそうである。(高野悠介、中国貿易コンサルタント)