何度も言っていることだが、振れやすいNFPが、単月の市場予想を上回るか下回るかは、経済のファンダメンタルズを分析するうえではたいして重要な観点ではない(伸びの趨勢を見ることが肝要である)。だが、短期のトレーディングにとっては非常に重要なカタリストなので、どうしても注目度が高くなるのは仕方がないことである。DeepMacroによれば12月の民間部門の雇用者数は、市場予想の中央値を上回り、24.4万人増となると予測される。上述の理由によってその予想自体に特段のコメントは付さないが、トレーディング推奨には異を唱えておこう。これは前回同様だ。DeepMacro のNFPトレーディング戦略は、金利(債券)の売り、米ドルの買い、S&P500の売りである。債券の売り、米ドルの買い、までは教科書通りで問題ないが、S&P500の売りはだめだ。前回、11月の雇用統計を受けてS&P500種株価指数とダウ工業株30種平均はともに過去最高値を更新した。無論、強すぎる指標が景気過熱⇒FEDの利上げペース加速という懸念を呼び、株式相場が下げることはじゅうぶんありえるが、昨日発表されたISM製造業景況指数に対するNY株の反応を見ても分かる通り、足元は強い景気指標に対して素直に順張りで動いている。おそらく今回のNFPについても同様の反応だろう。

気になるのはDeepMacro の分析で「労働市場に冷え込みの兆候あり」とされている点だ。12月に新規求人数と新規採用数が両方とも減速していることを確認したという。この点は昨日発表された強いISM製造業景況指数の内訳で、雇用が前回の59.7から57.0へと低下していることと整合的である。と、すれば、NFPは悪くないだろうが市場の予想を大幅に上回るかどうかは疑問である。振れやすいNFPが、市場予想を上回るか下回るかは、たいして重要ではないのだが。

12月の雇用統計(NFP)は市場予想を上回る見込み‐トレーディング戦略は金利の売り、米ドルの買い

●12月の民間部門の雇用者数は、市場予想の中央値(18.5万人増)を再び上回り、24.4万人増となると予測‐ただし、労働市場に冷え込みの兆候あり。
●米国企業の雇用活動に関するビッグデータによれば、12月は良い内容と悪い内容が混在。新規求人数と新規採用数の伸びはいずれも低下したが、高い水準は維持。
●米国のDeepMacro「成長ファクター」は強く、われわれの高めの予測を裏付けている。
●今月のDeepMacro予測は市場コンセンサスを上回っている。したがって、われわれのNFPトレーディング戦略は、金利(債券)の売り、米ドルの買い、S&P500の売り、となる。

雇用に関するわれわれの主要なデータソースは、3万社に及ぶ米国企業の人事ウェブサイトに掲載される求人情報である。企業が求人広告をウェブサイトに掲載した時点でわれわれはそれを新規の「求人」とカウントし、掲載が取り下げされた時点で求人が「埋まった」=「採用」された、と判断している。新たな求人は企業側の労働需要の増加を意味し、雇用の伸びの先行指標となる。また、これら新規求人データの総数は、DeepMacro「成長ファクター」によって計測される景気サイクルの全般的な強さなどの他の変数と合わせて分析することで、毎月のNFPに対する説明力を持つことがわかってきている。

米国雇用統計プレビュー
(画像=マネックス証券)

われわれは12月の民間NFP数を24.4万人増と予測している。エコノミストのコンセンサスである18.4万人増を大きく上回る数字だ。この予測が正しければ、直近3ヶ月平均の増加数は23万人を超えることになる。これは、労働市場のスラックをさらに吸収するのに必要とされる水準よりもはるかに高い。

DeepMacro予測は複数のファクターに基づいている。

第一に、新規求人数と新規採用数が継続して強い。Figure1は、3万社の米国企業の人事ウェブサイトをスクレイピングすることで取得した新規求人数と新規採用数を示している。グリーンの網掛け部分は12月分、グレーは11月分を表す。12月の雇用活動は軟調にスタートしたが、月後半に大きく反発した。総合すると、12月の予測は市場コンセンサスを上回る結果となったが、11月の予測結果よりも低い。

第二に、DeepMacroの「成長ファクター」が12月に大幅に上昇した。成長ファクターは、経済のあらゆる側面からのデータに基づいて算出されており、われわれのオンラインのビッグデータでは捉えることが難しい雇用活動についても捕捉することができる。この成長ファクターの上昇は、われわれの予測がコンセンサスを上回るに至った重要な理由の一つである。

賃金:引き続き低迷

われわれは、12月に新規求人数と新規採用数が両方とも減速していることを確認した。これは12月中の賃金の伸びに影響する可能性がある。なぜなら、新規求人数と採用数との間のギャップは、労働市場における供給(採用数)に対する需要(新規求人数)の強さを表す指標の一つだからだ。もし新規求人数が新規採用数を上回れば、過剰需要ということになり、賃金は上昇する可能性が高い。(逆も同様)

Figure2は、(新規求人数と新規採用数の差で表される)労働市場の過剰需要と時間当たり平均賃金(AHE)の伸びを比較したグラフである。近年この二つは概ね正の関係にある。過剰需要は時間当たり平均賃金の伸びの細かい変化にも反応している。12月に関しては、新規求人数の伸びが新規採用数よりも減速したため、労働の過剰需要は縮小した。これは、弱い賃金の伸びと一致している。賃金の伸びが前年比2.5%というすでに低い水準からさらに減速するとまでは言い難いが、大きく上昇することはないだろう。

米国雇用統計プレビュー
(画像=マネックス証券)

NFPトレーディング戦略:金利の売り、米ドルの買い

われわれはDeepMacro予測に基づくシンプルなトレーディング戦略を発表している。DeepMacro予測がブルームバーグ調査のエコノミスト予想中央値を上回った場合は、金利の売り、米ドルの買い、S&P500の売り、DeepMacro予測がエコノミスト予想値を下回った場合はその逆を行う、という戦略だ。

この戦略では、基本的で代表的な金利、通貨、株式を選んでいる。ここでの目的は、各市場の変数に対して有効なトレーディング戦略を開発することではなく、われわれのデータとDeepMacroの方法論に広い予測力があるかどうかを確かめることだ。これまでの結果を総合すると、この戦略の「ヒット率」(パフォーマンスがプラスとなった月の割合)は約70%で、これは平均すれば、1年のうちプラスの月が8ヶ月、マイナスの月が4ヶ月であったことを意味する。これは戦略にかなりの精度の予測力があることを示しており、したがってDeepMacro予測は、NFPイベントに関連してポジションを取ったり、リスクを管理したりする際に活用可能と言えるだろう。

Figure3は、この戦略のパフォーマンス結果を示している。戦略が9月の雇用統計の際に「発表」されて以来、パフォーマンスは横ばいである。発表以来、市場の動きもかなり少ない。

今月、DeepMacro予測はコンセンサス予想を上回っている。したがって、われわれのルールに従えば、金利の売り、米ドルの買い、S&P500の売り(金利上昇の影響が、潜在的な収益上昇の影響を上回ってしまっているため)となる。

今月の結果について別の見方をすれば、確かに、われわれは企業の雇用活動が全体的に減速している兆候を見つけている。これはわれわれの予測を市場コンセンサス以下にするほどではなかったが、金利の売り、米ドルの買いという見方に対する確信度を下げるには十分な内容である。

米国雇用統計プレビュー
(画像=マネックス証券)

広木隆(ひろき・たかし)
マネックス証券 チーフ・ストラテジスト

【関連リンク マネックス証券より】
2018年の投資環境  世界経済の拡大続く 死角はないが「もしもは起こる」と考える 市場の変動性自体がリスク
2018年は「3」がキーワード...来年の日本経済に注目
2018年株式相場の注目点
昨年活躍しながらもまだ上値余地がありそうな銘柄は
2017年のマーケットを振り返る ~2018年のヒントを探る~