日本市場で急騰劇を演出した「外国人投資家」の行動と視点に迫る

外国人投資家,投資
2016年1月~17年12月中旬の期間における、日経平均とドル円の騰落推移(TradingView上で作成・キャプチャのうえ加筆したもの)

2017年も残すところあとわずか。相場格言で「申酉騒ぐ」と言われるように、酉年である今年の株式市場は非常に大きな動きに見舞われました。昨年11月の米大統領選を境に上昇に転じた日本市場は、北朝鮮による地政学リスクの顕在化で春先に一時大きく下げるも、マーケットは相次ぐミサイル報道に対する「耐性」を備えて小幅な値動きになり、秋口からは記録的な急騰劇が繰り広げられました(上図参照)。

ここで注目したいのは、上図における赤線(日経平均)と青線(ドル円)の乖離が今年に入ってから広がっている点です。従来は「輸出関連銘柄が大きな割合を占める日経平均は、為替に連動する」のが“常識”とされていましたが、それを決定的に打破したのは「外国人投資家」でした。米国10年債利回りの底打ちをはじめとするさまざまなマクロ要因により、海外マネーが一気に日本市場に流入したためです。

では、外国人投資家はどのようなスタンスで日本市場・銘柄に注目しているのか。外国人投資家と日本株に関する多数の著書がある菊地正俊さんの最新刊『日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』(以下、本書)の内容から、一部をみてみましょう。

外国人投資家が日本市場に注目する条件

外国人投資家は基本的に時価総額が大きい銘柄を好みますが、より関心を持ちやすいのが「新しい成長企業株(グロース株)」や「サービス業」です。

国内で時価総額が大きい業種というと、電気(例:キーエンス(6861.T))、輸送機(例:トヨタ(7203.T))、情報通信(例:NTT(9432.T))、銀行(例:三菱UFJ(8306.T))などがありますが、「電子部品などハードウェアに強いのは魅力的だが、アメリカのFANG(Facebook、Amazon、Netflix、Google)のようなネット株がない(電機)」、「EVの開発競争に後れを取っている(輸送機)」、「株主還元が欧米大手銀行に比べて見劣りするほか、日本の内需を表す業種なので先行きが政策次第で変わる(銀行・不動産など)」といった見方もあるため、必ずしも「日本株=好意的にみている」というわけではないといえます。

また、時価総額が大きいといっても国内最大のトヨタで約20兆円なのに対し、Amazonで約50兆円、中国のアリババでも約40兆円と大きな隔たりがあります。こうした事情に対し、菊地さんは日本市場に対する懸念を、次のように指摘しています。

時価総額という観点では、2017年7月に米国のテスラが時価総額でGMを抜いたことは、自動車業界の新旧覇権の交代とみなされました。テスラの時価総額は約7兆円と、ホンダ(7267.T)や日産自動車(7201.T)を上回ります。

米国ではアップル、アマゾン、フェイスブック的な新興企業が時価総額上位に並んでいるのに対して、日本の時価総額上位には依然として大手銀行に加えて、NTTや日本郵政(6178.T)など旧国営企業が多いことは、日本経済の新陳代謝の遅れの反映でしょう。

海外主要株式市場との比較で、日本の時価総額の相対的な比重が低下すると、「日本株は無視してもいい」という見方が外国人投資家のあいだで広がる忌々しき事態となります。

(本書P.30より)

一方、小売業のニトリHD(9843.T)や良品計画(7453.T)といった独自の経営戦略を持っている企業は高く評価されています。そのほか、サービス業は現時点の時価総額は小さい(東証1部における時価総額比重は4%、17年10月時点)ものの、旧来型産業より将来的な伸びしろが期待できるため、関心を寄せやすい状況があります。

外国人が注目する日本株の投資テーマとは?

市場には“旬”が存在します。ここ1~2年の流行り廃りでみると「ドローン」「マイナンバー」「AI(人工知能)」「仮想通貨」「EV(電気自動車)」などがあり、それぞれの関連銘柄は注目とともに株価が上昇し、利益確定とともに下落するといったサイクルを繰り返してきました。

こうした「テーマ株投資」と呼ばれる行動は、外国人投資家も同様に行います。では、外国人が現在注目しているテーマにはどのようなものがあり、それぞれの特徴はどうなってるのでしょうか。その一部を、菊地さんの所見を交えながら見てみましょう。

人材関連

安倍首相が掲げる「労働市場改革」には、外国人も注目しています。しかし、その着目点は残業時間削減に代表される「働き方改革」ではなく、「解雇規制の緩和」と「労働力人口の減少に伴う移民政策」についてです。

とりわけ移民政策について、 現在の安倍内閣は高度外国人材の拡充などは行っているものの、基本的には「生産性の向上」「女性および高齢者の労働支援」の方向で動いており、移民政策による労働力の拡充には否定的な立場をとっています。とはいえ、日本人の人口減を補う形で外国人の増加が進んでおり、こうした「静かな移民」の存在を指摘する声もあります。

菊地氏はこうした現状をふまえ、外国人投資家の視点を次のように解説しています。

一方、国家戦略特区の大都市圏で、外国人による家事支援が可能になりました。インバウンドの規制緩和で大きな役目を果たした菅義偉官房長官は、自らの選挙区である神奈川県の特区で、2017年2月から外国人による家事支援サービスが始まり、女性活躍を通じて経済成長につながると述べました(参考:官房長官、外国人による家事支援サービス「来月から神奈川県で開始」、17/1/5付日経新聞)。

パソナグループ(2168.T)やダスキン(4665.T)などが、外国人による家事支援事業に乗り出しました。東京在住の外国人投資家はこの制度を利用したいと思っている人が多いため、関連銘柄に関心を示しています。

2008年に自民党の外国人材交流推進議員連盟が、50年間で1000万人の移民受け入れを提言したことがありました。提案を中心的にまとめたのが当時の自民党幹事長だった中川秀直氏で、2006年に『上げ潮の時代  GDP1000兆円計画』(講談社)という著書を出しました。

安倍政権はGDP600兆円を目指していますが、それを実現する一策として、同様の外国人受入拡大策を策定すれば、ポジティブサプライズとなり、外国人投資家の日本株買いが急増するでしょう。ただ、現実的にはそうした政策は考えにくいところです。

(本書P.96-97より、一部編集により追記)

AI、ビッグデータ、IoT関連

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(画像= Petrovich12/fotolia)

これらのテーマは政府の成長戦略でも繰り返し掲げられていることもあり、多くの国内企業が関連事業に参画しています。国内でAI関連事業に積極的な投資を行っている大型銘柄といえば、ソフトバンク(9984.T)やリクルートHD(6098.T)がありますが、現状ではAI関連というよりも情報通信および人材関連銘柄として見るのが主流です。

また、AI関連で時価総額が小さい企業、あるいはビッグデータ・IoT関連企業で外国人が「これは!」と思うような銘柄は、今のところ国内にはないと菊地氏は述べています。

AIは企業の命運を左右する将来の成長分野だけに多くの企業が参入していますが、日本の場合、AI関連株で外国人投資家の投資基準を満たす大型株がほとんどありません。

時価総額が小さい企業ではFRONTEO(2158.T)、JIG-SAW(3914.T)、ホットリンク(3680.T)などが自らもAI企業と株式市場にアピールしていますが、外国人投資家に訴求できていません。

ビッグデータも、NTTデータ(9613.T)、富士通(6702.T)、日立製作所(6501.T)など多くの企業がやっていますが、コングロマリット的な事業構造に加えて、成長率が低いので、ビッグデータ関連の成長企業とはみなしにくい面があります。IoTの定義はさらに広いので、銘柄選択に困ります。

日本企業でIoT関連の大型株といえば、キーエンスや日本電産(6594.T)などを挙げざるを得ませんが、相対的に割安な三菱電機(6503.T)などもIoT関連株とみなす向きもあります。いずれにしてもIoTのど真ん中に当てはまる企業ではありません。

(本書P.117より、一部編集により追記)

その一方で、菊地氏は「ロボティクス(AIやIoTなども含めた、生産性向上に資する広義のロボット工学)」に関する外国人投資家への関心が強いと指摘しています。日興アセットマネジメントが販売する「グローバル・ロボティクス株式ファンド」を引き合いに、次のように述べています。

このファンドはグローバルに投資できるにもかかわらず、上位10組入銘柄のうち半分を日本株としているのは、日本がロボティクス分野に強みを持つからでしょう。安川電機(6506.T)はかつて地方(本社は北九州市)の重電企業とみなされていたことがありましたが、いまやグローバルなロボット企業とみなされるようになり、ブラックロックも大量保有報告書を2017年6月に出しました。

日興アセットマネジメントは、日本株だけのロボティクス株に投資する「ジャパン・ロボティクス株式ファンド」も運用していますが、2017年9月末に純資産が600億円を超えました。同ファンドの上位組入は、2位のキーエンスより上に、搬送機械を得意とするダイフク(6383.T)が1位となっています。

私は2017年7月に、工場敷地面積を2.5倍にしたばかりのダイフクの上海工場を見学したことがあります。4万平方メートルの新工場で稼働しているのは半分程度でしたが、2〜3年以内にフル稼働にしたいと聞きました。

ダイフクは、中国国有企業の液晶・半導体の積極投資から恩恵を受ける数少ない日本企業で、中国の空港建設の拡大や、Eコマースの普及からも中長期的に受注の拡大が見込めます。中国は生産性向上のために、日本の機械を必要としており、工作機械受注でも中国からの受注が高い伸びになっています。

(本書P.119より、一部編集により追記)

自動車・EV関連

かつては電子回路・家電製品と並んで日本の「お家芸」と呼ばれていた自動車産業。これまで競争相手として認識されていたのはGMをはじめとする海外自動車メーカーでしたが、近年はテスラ(EV)やGoogle・Apple(自動運転)など、異なるアプローチで参入してくる他業種との競争を余儀なくされており、国内自動車各社は危機感を募らせています(参考:(トヨタの未来)「生きるか死ぬか」破壊的変化迫る、17/12/5付日経新聞)

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愛知県・豊田市にあるトヨタ自動車本社(photo by 気ままに街歩き/photoAC)

こうした状況から、外国人投資家は「日本の自動車産業は海外メーカーの後塵を拝している」という見方をしているのに加え、経産省主導で進められている燃料電池車の拡充は世界の潮流と流れを異にするものとして冷ややかな視線をなげかけています。

対照的に、自動ブレーキをはじめとする各種部品メーカーに対する視線は好意的なものが多いと菊地さんは指摘しています。

外国人投資家も日本の自動車部品メーカーは国際競争力が高いのに割安だと思っており、日本の完成車以外の海外メーカーとの取引も増えていることを評価しています。自動運転関連の銘柄は幅広く、デンソー(6902.T)やスタンレー電気(6923.T)などの自動車部品から、日本電産や日本セラミック(6929.T)などの電子部品、ルネサスエレクトロニクス(6723.T)やローム(6963.T)などの半導体、日立化成(4217.T)や日清紡ホールディングス(3105.T)などの素材までもが関連銘柄です。

一方で、EV化でいらなくなるエンジン回りの部品メーカーなどの株は、ショートしたいニーズがヘッジファンドにはあります。

いずれにしてもこのテーマへの外国人投資家の関心は高く、みずほ証券では2017年7月に「Mizuho 自動運転プロジェクト 今世紀最大の産業イベント『自動運転車』が走り出す」という多くの関連アナリストが参加するレポートを出して好評を得ました。

(本書P.126より、一部編集により追記)

以上、菊地さんの著書をもとに「外国人投資家が日本市場、および各セクターに対する注目ポイント」を紹介してきました。下図に示すように、投資家別の日本株の売買シェアは6~7割が外国人投資家となっているため、投資で成功するには、その動向を強く意識する必要があります。

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画像=投資家別の日本株の売買シェア(本書P.36より引用)

本書ではこの記事で紹介した3つのテーマ以外についても解説されています。今後の日本市場の動向を左右する外国人投資家の実態と注目点を知るうえで、ぜひ参考にしてみてください。

  • 本記事は、2017年12月10日発行『日本株を動かす外国人投資家の儲け方と発想法』(菊地正俊著)の内容に基づいて執筆されたものであり、その判断は市況および外部環境次第で変わることにご留意ください。
  • 本記事は特定の株式および金融商品、投資戦略等への勧誘を目的としたものではありません。投資判断はご自身の判断で決定いただくよう、お願いいたします。

(提供:日本実業出版社)

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