予材管理の手法から、目標達成のために必要な組織の在り方を考える

企業が事業計画(目標)を達成し、成長し続けるための方法論に「予材管理」というものがあります。これは「白地・仕掛り・見込み」の3種類に分けた「予材(=受注の可能性がある案件)」を事業目標の2倍(業種によって変動)まで積み上げ、顧客との関係性を深めることで実績につなげていくとともに、継続的な会社の成長を目指す考え方です(下図参照)。

組織の在り方
予材管理の概念(『最強の経営を実現する「予材管理」のすべて』P.38より編集のうえ引用)

こうした「目標に対して余剰ともいえる“種”をまき、育てることで収穫につなげる」考え方は、企業経営におけるさまざまなシーンにも適用が可能です。その一例として「余剰人員&設備と会社の成長」に適用したケースを「予材管理」の提唱者・横山信弘さんの著書から見てみましょう。

※本記事は、『最強の経営を実現する「予材管理」のすべて』より一部を抜粋のうえ編集したものです。

「最小人数でフル稼働」する会社は、やがて疲弊する

組織を運営するにあたり、業績不振に陥ると、経営者はコスト削減の一環として、余剰人員を減らすといった考えを持つことがあります。しかし、それによって現場から余裕がなくなれば、到底、予材を増やすことはできません。ギリギリの人員でまわしていると、現存戦力にかかる負担も大きくなるからです。

私が経営する会社でも採用方針の転換を進めており、積極的にコンサルタントを増員しています。かつては、「2〜3年に1人」の採用ペースでしたが、現在は「1年に2~3人」のペースです。以前の私は、人員の補強・増員には慎重でした。なぜなら、営業コンサルタントの仕事には「波」があるからです。今が右肩上がりでも、いつ波が引いて、コンサル受注が減るかわかりません。

ですから、「最小人数」でフル稼働する。常に全力で走り続ける。そして、新規案件の受注など「今の人数では絶対にまわらない」ことがわかった場合に、人を補充していました。「仕事が増えたら、人を増やす」、あるいは「人を増やすのなら、仕事量も増やす」と考えていたのです。

ですが、「仕事を受注してから、人を採用する」やり方だと、コンサルタントはすぐには育たないので、どうしてもタイムラグが生じます。そこで現在は発想を変えて、次のように考えるようにしています。

  • 仕事がいつ来てもいいように、余剰人員を抱えて、備えておく
  • 人を増やして、余らせておいて、新規の仕事がきたときにはその人に任せる

これは予材管理の「先に予材を仕込んでおく」のと同じ発想です。「まだ確実に決まったわけではないけれど、受注の可能性があるかもしれない仕事」のために、あらかじめ人員を確保しておくわけです。

余剰人員がいても余剰設備があっても許される

「目標を絶対に達成する」という覚悟があるのなら、「余剰人員」がいても「余剰設備」があっても許されると私は考えています。むしろ、「余剰人員」や「余剰設備」がなければ、会社を成長させる(中長期的に会社を成長させる)ことは不可能です。

たとえば、製造業(メーカー)の場合、工場のフル稼働・フル操業が続いていると、既存商品の増産や新商品を開発する「余裕」がありません。

仮に、前期の売上が「40億円」で今期の売上目標が「45億円」だとします。工場で生産できる製品の量は、工場の稼働時間に比例して決まります。現状の人員と設備で「45億円」の目標を達成するには、工場の稼働率を引き上げることになるため、現場を疲弊させます。人員と設備を「先行投資」して余力を蓄えておかなければ、「プラス5億円」の目標を達成することはできません。

私どもが支援をしている飲料メーカー(E社とします)の社長から、「売上目標を下方修正したい」という相談を受けたことがあります。

昨年の実績は「27億円」で、今期の目標は「30億円」です。ですが、1月から3月までの実績が昨年対比割れしているので、「このままいくと30億円どころか前年割れする可能性がある。目標を28億円に下方修正し、28億円をなんとか達成させるために、死にもの狂いでやります」というのです。

今期の目標を下方修正するのがよいことかどうかという話もありますが、それ以上に社長が焦点を合わせるべきことはもっと先のことです。

E社の中長期の目標は、「5年後に50億円」「10年後に75億円」です。ということは、社長が考えなければならいのは「5年後、50億円の売上を達成するための足がかり」をつくることです。「今期の目標をどうするか」と、近視眼的な業績について頭を使うのは現場をまとめるマネジャーがすることで、社長が意識することではありません。

今期28億円の実績となったからといって、5年後の50億円、10年後の100億円を下方修正することはありません。将来の業績は今期の実績の延長線上にあるわけではなく、「戦略予材」から逆算して「種まき」「水まき」した行動の延長線上にあるからです。

長期的な視点で資産運用をしている方ならご理解いただけるでしょう。現在保有している資産価値(株や不動産など)がたとえ下がったとしても、5年後、10年後がどうなるかはわかりません。

そのときの時価に一喜一憂せず、淡々とやるべきことをやるのです。予材管理でいえば、質の高い予材資産を蓄え、お客様目線で定期的にメンテナンスしておけば、短期的な実績に動揺することはないでしょう。

ですから、E社の社長から「こんな調子じゃあ、将来のために人を増やそうと思っていたのですが、採用計画は見直したほうがいいですよね」といわれても、私はそれを聞き入れませんでした。資金繰りが苦しかったり、赤字続きだったりではいけませんが、E社はそんな不健全な企業ではありませんでした。直近の業績に左右されるべきではありません。人材や設備の投資計画は、「戦略予材」から判断して淡々とやっていくのです。

余剰人員や余剰設備を拒むのは、「本気ではない」から

E社は、予材を増やすために「海外マーケット」、とくに東南アジアに目を向けています。シンガポールを起点にして、マレーシア、タイ、ベトナムへと販路を拡大し、予材を増やしていくのが狙いです。海外進出の成否によって、目標が達成するかが決まるため、E社にとって重要なプロジェクトです。

ところが調査してみると、実際は「4か月に一度、営業マネジャー1人を現地に派遣している」だけでした。東南アジアのマーケットを「本気で」開拓、開墾するのであれば、海外専任の社員を少なくとも3人は置くべきと社長も認識しているのに、それができていないのです。

海外展開が本格化してから専任担当者を雇用するのでは、間に合いません。予材を積み上げるためには、あらかじめ、余剰人員や余剰設備(=余裕)を持っておく必要があります。目先の収益を優先し、余剰人員や余剰設備を持つことを拒むとしたら、それは経営計画に対して「本気ではない」からです。

経営者の本気度が低いと、社員がついていきません。本気度は、投下するコストによって指し示すことができるため、お金のみならず、時間をかけ、汗を流して「どんな戦略予材が必要か」「そのためにはどんな人材、設備、拠点、ビジネスパートナーをいつまでに用意しなければならないか」をしっかり考え、周囲を説得していくことです。

余剰人員というと聞こえは悪いかもしれませんが、余剰人員は予材を増やし、新しい仕事を創出し、「事業目標を達成する」ための「予備戦力」にほかなりません。だからこそ、予材管理には「余裕」が必要なのです。

予材を増やすためのコストは、「自分の手」でつくるしかない

雇用にも設備投資にも、経済的コストがかかります。では、「経済的コストをかけるだけの余裕がない」場合は、どうしたらいいでしょう? どうすれば初期コストを生み出すことができるのでしょうか?

答えは明快です。「一所懸命、汗をかく」ことです。短期間で、ラクをして、スマートに収益を上げる飛び道具も玉手箱も現実のビジネスには存在しません。予材を増やすためのコストは「自らの手」でつくる。余剰人員・余剰設備を備えておくだけの経済的コストがないのなら、「愚直に、泥臭く、粘り強く」手を動かし、足を動かすしかないのです。

(提供:日本実業出版社)

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