相場観は多様だ。強気の見方もあれば、弱気の見方もある。しかし、結局のところどちらが正解なのかは「現段階」では誰にも分からないはずだ(未来人でもない限り…)。

もっとも、強気であれ、弱気であれ多様な意見に触れることは大切である。自分の考えと異なる意見に出会うことで多くの気づきを得られることもあるし、それによって相場観が養われることだってある。

そこで今回は、ウォール街で代表的な為替見通しの「強気派」と「弱気派」を紹介したうえで、筆者自身の見解も述べたいと思う。

バンカメは上半期のドル高を予想、1ユーロ=1.1ドルへ

為替,見通し
(画像=Thinkstock/GettyImages)

バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチ(BAML)はウォール街にあって「ドル強気派」の代表格と呼べる存在だ。BAMLは2018年上半期のユーロドルの見通しについて、1ユーロ=1.1ドルまでドル高(ユーロ安)が進むと予想している。

筆者はウォール街で多くの市場関係者に取材しているが、どちらかといえばドルに対して慎重な見方が多いのが最近の傾向である。そうした中にあってBAMLの強気予想は際立っている。

BAMLがドル高を予想する理由は2つ、減税とレパトリだ。

それによると、まず減税により2018年の米GDP(国内総生産)成長率は2.4%と昨年の2.2%から加速する。米国は完全雇用の状態にあり、成長の加速によりインフレ率も上昇することから、FRB(米連邦準備制度理事会)は現在見込まれている3回ではなく4回の利上げを実施すると見込んでいる。

レパトリに関しては海外資産は既にドルに転換されているので、米国に戻したところで為替への影響はないとの見方も少なくない。とはいえ、米企業の海外資産のドル建て比率は20%から90%と幅広く推計されており、意外と大きい可能性もある。BAMLは海外資産を3兆5000億ドル、そのうち40%がドル建てと推計しており、レパトリ減税で海外から米国へと資本が還流すれば為替へも大きなインパクトを及ぼすと考えている。

最大手のシティは5%のドル安、国際収支の不均衡を懸念

他方、外国為替市場で世界最大のディーリング規模を誇るシティバンクは、2018年のドルを5%下落と予想している。具体的には、ドル円は昨年末の1ドル=114円から2018年末は111円、同様にユーロドルは1ユーロ=1.19ドルから1.24ドルへそれぞれ下落する見通しだ。

シティバンクが重視しているのは国際収支の不均衡だ。やや小難しい話になるが、米経常赤字が膨らんでおり、その影響で米国が海外に持つ資産に比べ「海外が米国内に持つ資産の規模」のほうが圧倒的に大きくなっている。簡単にいうと、米国は国全体でみると借金を抱えており、その借金が膨らんでいるイメージだ。

お金をどんどん貸してくれるのなら問題ないのであるだが、シティの見解では借金が大きくなり過ぎたことから、海外の貸し手が資金回収に動くインセンティブが強まっている。要するに、米国に投資した資金を海外に戻す動きが活発化し、その影響でドルが売られるというわけだ。

また、ドル金利の上昇がドルの魅力を増すことは認めながらも、相対的なドルの魅力は低くなるとみている。特に、ユーロ圏は金融政策の正常化の過程で米国に大きく遅れを取っており、2018年はキャッチアップする年となる。世界を米国と米国以外に分けた場合、金利サイクルは米国以外の国が米国に追いつく過程にあり、この過程では相対的にドルは弱含むだろうと指摘している。

2018年のドル円はステルス・テーパリングを警戒

2017年のドルは対主要通貨で前年比7.0%下落と2009年以来、8年ぶりの大幅安となった。ちょうど1年前は、金融政策の方向性の違いからドル高を見込む声が優勢であり、ユーロドルは1ユーロ=1ドルのパリティもありうると見る向きも少なくなかったが、結果はまったく逆となった。

ドル円をみても、1ドル=117円台でスタートしたが年間を通じてこの「安値」を越えることができず、結局112円台で終了。一時107円台を付けるなど、円高ぎみで推移した1年となった。

2017年の反省を踏まえるなら、BAMLには申し訳ないが「米利上げ=円安」との見方には距離を置くべきかもしれない。シティが指摘しているように、米利上げは織り込まれているが、米国以外の国の金融正常化はまだ十分に織り込まれていない可能性があるからだ。

たとえば、日銀のステルス・テーパリングが挙げられる。日銀は2017年中に一度も金融政策を変更していない。しかし、これは表面的にであって、国債の購入ペースは目標である80兆円を大きく下回り、実際には50兆円程度まで縮小している。

9日には国債購入の減額で円が急伸しており、これまで実施していた事実上のテーパリングがまったく織り込まれていなかったことを示唆している。インフレ圧力が強まって金利が上昇しない限り、日銀の国債購入減額は続く見通しであり、市場の注目が集まるようだと円高要因として警戒が必要かもしれない。

米貿易赤字の拡大は政治リスク、中国が米国債の購入停止も?

11月の米貿易赤字は前月比3.2%増の505億ドルとなり、2012年1月以来、5年ぶりの高水準となっている。好調な国内景気を背景に輸入が拡大しており、減税で景気がさらに拡大するようだと貿易赤字も一段と膨らむことになりそうだ。

トランプ大統領は大統領選挙中から貿易赤字が国内の雇用を奪っていると主張しており、中国、ドイツ、日本に対しては為替操作の疑いの目を向けている。

その一方で、中国からはこうした政治的圧力に対抗して米国債の購入を低下もしくは停止する動きが出ている。中国からの発言が伝わった10日のニューヨーク市場では一時米国債が急落、金利が上昇している。

米金利の上昇は通常なら円安要因であるが、この日はドル・株・債券のトリプル安、すなわち「米国売り」の展開となり、円も上昇している。

仮に、中国が米国債の購入を停止した場合、米金利の上昇はドル高要因となる公算大だが、米国債の購入停止はドル買い需要の減少でもある。したがって、金利面からはドル高要因となるが、ドルの需給面ではドル安要因となることに注意されたい。

いずれにしても、2018年は米中貿易摩擦が激しさを増す恐れがあり、リスクオフの円高を警戒したほうがよさそうだ。(NY在住ジャーナリスト スーザン・グリーン)