オランダの首都アムステルダムから南東へ15キロ程度、ヴェースプ市内にある「ホグウェイ」。敷地面積は1万2,000平方メートルで、その中で150人程度が暮らす小さな街が注目されている。実はこの街の住民は全員が認知症患者だというのだ。

高齢の認知症患者ばかりだからといって何も閉鎖的な施設ではない。住民はその中で自由に生活でき、患者の尊厳は最大限尊重されている。

2013年にガーディアン紙が「認知症者のためのテーマパーク」などと報じて注目され、今ではなかなか視察もできなくなっているというホグウェイだが、高齢者の増加につれて認知症患者も増えている日本にとって、高齢者ケアのヒントとなる事例といえそうだ。

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(写真=Photographee.eu/Shutterstock.com)

日本でも認知症患者は増えている

厚生労働省の推計によると、2012年に462万人だった日本の認知症患者数は2015年には500万人を超え、2025年には最大で730万人まで増加すると見込まれている。高齢者人口に占める認知症患者の割合は2012年の15%から、2025年には20%を超え、高齢者の5人に1人が認知症患者であるという時代が迫っている。推計によると、その後も患者数は増加を続け、2060年には高齢者の3人に1人が認知症となる可能性もあるという。

認知症患者の受け入れ施設として、グループホームなどのニーズも高まっているが、施設への入居には自由の制限や社会からの隔離といったネガティブな印象がもたれることもある。認知症患者の尊厳を尊重した社会全体でのケアが求められている中で、ホグウェイのような取り組みが注視されているのだろう。

認知症患者が尊厳を維持して暮らす街

ホグウェイを経営するのは、オランダで介護事業を行うヴィヴィウム・ケアグループ。2009年に運営を開始したという。

ここでは広場や噴水が設けられているだけでなく、スーパーやカフェ、レストラン、美容院から劇場と日常生活に困らない施設が用意されている。多くの草木も植えられ、自然も感じられるようになっており、まさにホグウェイは一つの街となっている。住民は、買い物から娯楽まで自由に楽しむ事ができる。

住民は23戸の住居でグループに分かれて生活している。グループ分けにも特徴がある。社会的、外交的な「都会派」、家事も楽しむ生活を好む「家庭派」、芸術や文化に関心の高い「文化派」、伝統を重んじる「伝統派」、ハイクラスな生活を送っていた「上流階級派」、信仰心のあつい「クリスチャン派」、オランダの植民地であったインドネシアの伝統を重んじる「インドネシア派」といった具合だ。

価値観やライフスタイルが近い人が集まって生活する事で、インテリアの好みをそろえる事ができたり、共通の話題が生まれたりといった利点がある。こうした点も認知症患者の尊厳を守る工夫の一つといえる。

スーパーやカフェの従業員は介護資格を持った職員

とはいえ、完全に認知症患者のみで独立した街というわけではない。街の中のスーパーやカフェで働く従業員はすべて介護資格を持った職員で行っている。他にも多くの介護職員がおり、街の住民の生活を見守っている。

ただ基本的には街の中での生活は自由で、介護職員はあくまでも補助の意味合いが強い。街の住民はこれまで通りの自由な生活を送れるのだ。

認知症患者の尊厳と安全を同時に守るといった観点で見れば、非常に珍しく、重要な取り組みだ。入居費用は月額5,800ユーロ(約70万円)と高額だが、認知症患者が尊厳を守られながら自由に生活できるという利点はお金に変えられない価値がありそうだ。

厚生労働省も認知症患者の増加を社会問題ととらえ、対応策の検討を行っている。その骨格となるのが、「認知症になっても安心して暮らせる地域」をつくること。まさに社会全体でのケアだ。

社会全体で認知症患者の支援体制をつくることが重要だが、課題は多い。オランダの地方都市で進む、認知症患者の尊厳を守った社会を作り上げるという画期的なこの取り組み。日本にも参考にすべき点は多いといえるだろう。(提供:The Watch


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