不動産投資に対して、そもそも人口が減少していく日本で賃貸市場はどうなの?という疑問がある方も多いと思います。その点を、収益不動産のプロはどう見ているかについてお話ししていきます。ひとくちに人口といっても、出生などの自然増減だけでなく、社会的な変化での人の動きなども含めて見ていく必要があります。こうした人の動きを「人口動態」と言いますが、国立社会保障・人口問題研究所が公表しているデータを見ていくと、あることがわかるのです。

(本記事は、成田 仁氏の著書『新税制対応 プライベートカンパニーを活用して、不動産投資をしよう!~不動産と会計のプロが教える法人化による資産運用の教科書~』クロスメディア・パブリッシング/インプレス=2017年7月14日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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新税制対応 プライベートカンパニーを活用して、不動産投資をしよう!
(画像=Webサイトより、※クリックするとAmazonに飛びます)

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2035年までには全国の人口増加率はマイナス16.2%と推計されています。(国立社会保障・人口問題研究所『日本の都道府県別将来推計人口』(平成25年3月推計))

中でも青森県や秋田県、和歌山県や山口県などは25%以上のマイナス。そのなかで、比較的マイナスが少ないのが東京都や神奈川県、滋賀県、そして沖縄県の4都県。

つまり、全国的には長期に渡って人口減少が進むことは間違いなく、当然人口が減少すれば賃貸市場の空室率も上がるということが予測されます。

そうした予測を踏まえると、やはり東京圏のエリアが投資先として重要になってきます。

収益不動産投資は中長期での安定した収益を得ることが目的なのですから、そもそも人口減少が止まらないエリアで物件を所有するのは、複数物件を所有してからのリスクヘッジという点では考えられますが、最初は避けたほうが無難だと思います。

不動産投資のポイントは物件の魅力だけではない

また、現状の空室率を見ると、約18%の全国平均に対して東京都は約13%。

実は、空室率は減少傾向なのですが、空室そのものは増加しています。

「相続税対策でアパートを建てましょう」といった広告をよく見かけますが、そういった物件の分母が増えているので空室も増えているというわけです。

そうした相続税対策物件が増えているエリアというのは、首都圏でも土地がある郊外。

いわゆる“地主さん”が土地を多く所有しているエリアです。

ただ、そうした郊外は人口も限られているので、やはり空室率も高い傾向があります。

つまり、首都圏であっても、今度はその中で投資すべきエリアを絞り込んでいく必要があるということです。

人口の社会移動推移図を見ても、首都圏だけが人口流入傾向にあるのがわかると思います。

いまだ東日本の被災地復興は長期に渡ることが予想され、放射能問題のめどが立たない状況なので、首都圏から関西方向への人口流出も考えられますが、雇用を求めて被災地から首都圏エリアへの人口流入も続くと考えられます。

不動産投資というと、どうしても立地や物件ばかりを見てしまいがちですが、いくらいい物件があっても賃借する「人」がいなければ意味がありません。

そういう意味でも、実は不動産投資の隠れた原資は「人」であり、プロは人の動きを常に分析しています。基本的に「雇用」のある所に人は集まります。

なぜマクドナルド1号店は銀座だったのか

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(画像=PIXTA ※画像は銀座、イメージです)

不動産投資において立地という要素は、切っても切り離せないものです。「立地だけは動かせない」。 私たちは、よくこう言います。

銀座のような街並みが魅力的だからといって、そっくりそのまま郊外に再現したとしても、本来の銀座が持つ価値や人の動きは再現させることができません。

だからこそ、収益不動産マーケティングでの「立地戦略」はとても重要です。

不動産のプロに限らず、成功する経営者は、みんな不動産マーケティングでいう「立地戦略」を持っているともいえます。

もともとアメリカの郊外型ロードサイトでしか成功しないといわれていたハンバーガービジネスを日本で展開するにあたり、反対を押し切ってあえて都会のど真ん中銀座に1号店を出店したという、あの、日本マクドナルド創業者の藤田氏の話は有名です。

なぜなら、当時日本で一番流行に敏感で、一番にぎわっている街でハンバーガーという新しい食べ物を話題にすることができれば、そこから全国に「銀座で流行っている食べ物」として広げることができると考えたからです。

賃貸市場に起こっている意外な変化とは

そして実は、この立地戦略で見逃せない変化が起こっているのです。そのキーワードは「コンパクトシティ」というものです。

これは何かというと、国土交通省が打ち出している重点政策の1つです。これまでの日本の都市開発は、都心から郊外へと向かっていました。

ところが、人口減少・高齢化社会で人の流れが変わったのです。

高度経済成長期に開発された郊外のニュータウンは高齢化が進み、人口減少で商店も減り、ゴーストタウンのようになっています。

さらに国や自治体の財政も厳しく、そうした場所に本来必要な公共交通機関や公共施設を維持できなくなっています。

そんな郊外の自宅はというと、駅から30分もバスに乗り、さらに坂道を登らなければなりません。その自宅も階段状で1階はガレージになっていて、高齢になると不便だし危険です。

そこで、国はこれまでの拡散型の都市づくりを見直し、集約型でコンパクトな都市計画を進めることを決定しました。

極端にいえば、駅前の半径数キロメートルで自転車で移動できるような町をつくろうとしているのです。

逆にいえば、そういうエリアにしか国の予算を使いません、都市整備はしませんというメッセージでもあるでしょう。

車が1日数台しか通らない道路の維持に税金が使われていくのも、今後の日本の姿から考えにくくなっています。

このコンパクトシティに関しては税制面での後押しも検討されはじめています。

それなのに、利回りがいいからという理由で郊外の駅から遠い物件を取得してしまうと、どんどん公共施設が閉鎖され、バスも廃止というようなことになり、不便さから空室が埋まらないようなことになりかねません。

毎年、マーケットに変化が起こる時代

「不動産」という言葉のイメージから、一般の消費財市場などに比べてマーケティング的な変化が少ないように思われるかもしれません。でも、実は、不動産マーケットは毎年、いろいろ変化しています。

たとえば、賃貸入居者の動き。以前は、入居者が動くのは春先の2月~3月と相場が決まっていました。ところが、ここ数年は、11月や1月、そして7月なども入居者が動くようになってきています。

要因はさまざまですが、ネット時代なので「いい部屋を見つけたら、スグ動く」という人が増えていることもあげられます。

さらに、入居者もネットなどを通して、有利に入居するための情報をよく勉強しています。

それなのに、オーナー側が昔ながらの「大家」感覚のまま、待ちの姿勢でいると、賃貸マーケットから置いてけぼりにされます。

たとえば、賃貸物件で、同じ間取りの部屋が複数あったとしても、全部同じ状態で入居者を募集するのでは工夫が足りません。

たとえば、半分は賃料を少しだけ上げたとしても家具付きにする、半分は賃料そのままでプレーンな部屋にする。

そうすることで、単身赴任など身軽にスグ入居したい人と通常の部屋探しをする人の両方のニーズに応えることができます。

また、実際に入居者を募集して契約の手続きまでを行う仲介業者(アパマン業者)に、どうやって所有する物件を入居者にお勧めしてもらうかといった、営業戦略も必要です。

不動産業界では「客付け」と呼ばれる部分ですが、ここがとても重要。なのに、収益不動産投資は儲かると書いてある本で、ほとんど触れられていないのが不思議です。

いくら利回りのいい物件を取得しても、入居者を自分ですべて見つけてくるのは困難です。

そこで、「この部屋の客付けが決まればディズニーチケット」といったインセンティブを与えたり、「今の時期なら、初期費用である敷金礼金をディスカウント」といった営業をしてもらうなどの施策を、マーケットの状況を見ながら常に手を打つ必要があるのです。

さきにも話した大家さんとしての“商売”の要素です。

たとえば、当社ではマーケットの「閑散期(通常4月~11月)」には、家賃の80%のみの契約金で入居できる「SOLIDパック」という商品をつくり、「閑散期」とは思えないお問い合わせをいただいています。

こういった要素も、競争市場の中のいろいろなビジネスを知っている読者の方なら「当然」と思われるのではないでしょうか。

個人では使えない「タックスメリット」

「入ってくるお金を最大化させる」ことについて、いかに収益の上がる物件に投資するかを、投資家自身の成功例をもとに書かれた本は多くあります。

けれど、「入ってきたお金をいかに減らさないか」について戦略的に書かれた本は、なぜかあまり見当たりません。

その理由の1つとして、個人による収益不動産投資では入ってきたお金を減らさないための「タックスメリット」の中で、あまり使えるものがないからということがいえます。

その逆で、法人による収益不動産投資では、使えるタックスメリットがたくさんあります。

個人であれば、税法上の優遇措置が少ない収益不動産投資が、法人化することで、やることは変わらないのにさまざまな税法上のメリットを享受できるようになるということです。

法人化の2大メリット「所得分散」「給与所得控除」

個人では、所得が増えると、累進課税制度により、実効税率が上がって負担税額が増額します。

その所得を分散することで、1人あたりの実効税率を低くすることも法人化による大きなメリット。

自分の配偶者や家族を役員や社員とし、給与を支払うことも法人であれば可能になります。

ただし、役員報酬や給与として支給するということは、相応の実態のある「経営責任」「役割」を担っていることが必要になります。

このことは税務上、過大な報酬や給与として否認されないためにも重要になってきますので意識しておいたほうがいいでしょう。

そして、所得の圧縮効果が大きいのが「給与所得控除」。個人では、収益不動産所得がそのまま課税所得になってしまうものが、法人から役員、社員に給与を支払うかたちにすることで、自動的に「給与所得控除」が受けられるようになります。

もちろん、この場合の法人とはみなさんのことなので、「自分の会社から個人である自分や親族に給与を支払う」ことで、法人の経理上も給与が経費計上でき、受け取る個人側でも「給与所得控除」が使えるのです。このように、入ってくる所得を再分配できるのが法人のメリットです。

法人化すると「経費が貯金になる」!?

個人の場合、事業をやめてリタイアしようと考えても、退職金というものがありません。

家族を専従者としていて退職金を支給したとしても、経費としては認められません。

これが法人になると、退職金の支給も不当に高額でなければ経費として認められます。

また、連鎖倒産などを防ぐための資金供給を受けられる点も、個人と法人の違い。

これらのセーフティネットを活用するときに、とても有利な制度として用意されているのが『独立行政法人中小企業基盤整備機構』が運営する中小企業向けの共済制度です。

共済という名前が付いていることで、少し面倒そうなイメージを持たれるかもしれませんが、手続きも簡単で「使わないと損」に思うくらい、メリットの多い制度です。もちろん、収益不動産保有会社であっても利用できます。

個人の場合、事業所得であれば共済掛け金は必要経費に算入できますが、不動産所得の場合には、必要経費として認められません。

一方、法人は共済掛け金を全額経費として計上できます。つまり、言い方を変えると「経費が貯金になる」ということなのです。

経営セーフティ共済制度が拡充!

平成23年10月1日に「経営セーフティ共済」は、関連法律が改正され内容が大幅に拡充されました。

同年10月分から、月額掛金をこれまでの上限額8万円から20万円に増額することができるようになり、さらに掛金の積立限度額についても、これまでの320万円から800万円までできるようになるなど大幅に拡充されました。

「経営セーフティ共済」は、退職金の支給原資の積立目的のほかにも、大規模修繕費用の積み立てとして活用することができます。

不動産オーナーにとって、中長期的に見ると必ず発生することになる大規模修繕費用は、物件規模にもよりますが、一時的に数百万~数千万円といった資金負担が生じることがあります。

そこで、あらかじめ大規模修繕費用が必要な時期と金額を見積もっておき、毎年共済掛け金として外部に積み立てておき、いざ大規模修繕が発生するときに共済契約を解約して、その解約共済金を工事代金に充当するというものです。

法人は、いろいろな「損」が損ではなくなる

不動産投資は基本的にリスクコントロールがしやすいことは、第1章でも説明しました。

しかし、ときには事業計画上、売却損が出ることを承知で物件を売却するケースなどもないとはいえません。

そのような場合でも、個人では投資用不動産売却での譲渡損は譲渡所得の金額上はなかったものとされ、不動産の売却益以外の他の所得との損益通算ができないのです。

平成16年度の税制改正以前は、個人でも他の所得と損益通算が可能でした。

たとえば、給与所得が600万、不動産所得が350万あるサラリーマンが、その年不動産を譲渡して1000万円の損失が出たとしても、所得と損失を通算(損益通算)した、差引50万円の損失とすることができ、所得税・住民税ともに抑えることができたのです。

これが平成16年度以降、損益通算できなくなったため、損失額の1000万円は何も控除されず、給与所得600万円、不動産所得350万円分の所得税・住民税がそのまま課税対象になってしまい、不動産の譲渡損は切り捨てられることになりました。

しかし法人の場合、投資用不動産売却での譲渡損は、その年度の不動産賃貸収益などの他の収益とぶつけることで節税が可能になります(法人の譲渡損を個人の所得(給与所得など)と通算することはできません)。

さらに損失の繰越期間も、個人では不動産事業で生じた純損失は青色申告の場合でも3年間しか繰り越せないのに対して、法人であれば、平成23年度の税制改正により、最大9年間(平成20年4月1日以後終了する事業年度分から)繰り越すことができます。

つまり、損をした翌年以降に法人の所得が上がっても、穴埋めとして繰越欠損金を使うことができるので、節税につなげやすくなるのです。

どのような投資でも共通することですが、「全戦全勝」というような投資家はおそらくいないはず。

法人で行う収益不動産投資は「事業」なので、もし損をする場合があっても、事業の継続性を重視して損失の繰越が長期に渡って認められます。

ですので、その期間を利用してリカバリーすることが可能です。

生命保険料の全額費用化が可能に

何かあったときのための生命保険料控除でも、個人と法人では違いがあります。

所得税・住民税の「生命保険料控除」は、個人の場合、年間どれだけ保険料をたくさん払っても所得税では一般の生命保険4万円、個人年金保険4万円、新設された介護医療保険4万円の合わせて12万円までしか控除を受けることができません。

住民税についても、所得控除を受けられるのは最高7万円まで。

平成22年度税制改正で、平成24年1月1日以降に締結した生命保険契約に関しては、「介護医療保険料控除」が創設され、これまでの2種類の控除と合わせて3種類となり、所得税の控除額は

2万円拡大されますが、それでも支払った保険料総額に比べると、控除額は低いのが現状です。

法人が生命保険の契約者となり、被保険者を役員または従業員、保険金受取人を法人とする生命保険契約を締結する場合は、法人が支払った保険料全額又は一部を必要経費に計上することができます。

解約返戻金のない定期保険の場合は保険料の全額、解約返戻金のある定期保険の場合は保険の種類や内容によって費用化できる金額が異なるので、その点は確認が必要です。

ただ、こうした法人ならではの生命保険を活用したメリットは、保険商品が多岐に渡っていたり、税法上の扱いの違いがあることから、一般の人には、わかりにくい部分もあります。

そのために私たちは、単に収益不動産投資のプロとしてのお手伝いだけでなく、こうした税務・会計のスペシャリストと一体となったチームを組み、物件運用後もキャッシュフローを最大化させる体制を持っていることが大事だと考えています。

「自分株式会社」とは?

欧米などでは、企業と個人で契約し成果報酬を自分の法人で受け取るようなスタイルも珍しくありません。

あなたがこのようになったときに、これまでどおり給与所得+個人の副収入というスタイルでは、先にお話ししたように「個人の課税強化」の流れにはまってしまい、最高税率での課税で手元に残らないのは目に見えています。

だからこそ、個人と法人のメリットをうまく組み合わせて手取りのキャッシュフローを最大化できる「自分株式会社」としての役割も持たせた、不動産保有会社を設立してみてはどうでしょう。

私たちが相談を受けたり、パートナーとしてお手伝いをさせていただいているケースでは「企業に勤めていて、趣味を活かしたバーを経営したい」という方や「自分もトレーニングするためにジムを経営したい」「まったくの趣味でいいのでダーツバーを開きたい」など、いろいろなケースがあります。

趣味のダーツバーのケースでは、ダーツバーの赤字を不動産所有会社の収益と通算することで、不動産保有会社のキャッシュフローに貢献(?)することもでき、オーナーは満足されていました。

まさに、趣味と実益を兼ねた一石二鳥が実現!といえるかもしれません。

丸裸の個人では「グローバルマネー」に立ち向かえない!?

お金に国境がない時代。

給与所得だけで会社に守られた生活をしていると、なかなか実感することがないのですが、今はお金の流れがボーダレスになり、いつ足元をすくわれるかもわからない時代です。

日本の不動産価格も、昔のバブル期のように国内の投資や需給だけで動くものではなくなりました。

震災がなければ、日本の不動産は、さらに海外投資家に買い進められていた、というのが私たちの見方です。

事実、リーマンショックのあとの金融危機後も、海外のファンドが日本の不動産に特化した投資ファンドを組成する動きが目立っていました。

そしてオリンピックが決まった現在、アベノミクス効果への期待もあってか、世界のお金が日本の不動産に向かいはじめています。

トータルで見た場合の安全度や収益性、そしてオリンピックをにらんでの将来性で、日本の不動産は底堅いというわけです。

ただし、日本の不動産と言ってもグローバルマネーは「TOKYO」を指しています。

バブル崩壊以降、上昇下落をくり返すのが不動産マーケットでも一般的になってきました。

私たちが、これからの収益不動産投資は「自分株式会社」や「不動産保有会社」などの法人でと強調するのは、そのほうがタックスメリットが大きいというのはもちろんですが、予測できないリスクの影響を最小限に抑えるということもあります。

法人であれば、損失のリカバリー手段がいろいろとあるからです。

成田仁(なりた・ひとし)
ソリッド株式会社代表取締役。1965年 秋田県生まれ。不動産コンサルタント。大学卒業後、投資マンションの企画販売会社、財閥系不動産仲介会社を経て、東京都にて共同経営による不動産会社を設立し、不動産の不良債権処理業務、外資系ファンドへの不動産投資アドバイス業務(デューデリジェンス)、上場企業に対する不動産コンサル業務などを中心とした、難易度の高い業務を手掛ける。2001年ソリッド株式会社を設立。主な事業は不動産に関する総合コンサルティング(投資マンション及び収益不動産全般、居住用不動産)、不動産売買業務(不動産の取得・管理・分譲販売・売買仲介業務)。