景気ウォッチャー調査
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景気の現状判断DI(季節調整値):5ヵ月ぶりに悪化も、高水準を維持

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1月12日に内閣府から公表された2017年12月の景気ウォッチャー調査によると、景気の現状判断DI(季節調整値)は53.9(*1)と前月から0.2ポイント低下し、小幅ながら5ヵ月ぶりに悪化した。前月は2.1ポイントと大幅に上昇したため、その反動も影響したとみられる。水準は50を明確に上回り、高水準にある。家計動向関連、雇用関連は小幅に悪化、企業動向関連は小幅に改善した。なお、内閣府は、基調判断を「緩やかに回復している」と上方修正した前月から据え置いた。

今回の調査では、家計動向関連は、高価格帯の商品の売上が好調なものの低価格志向も根強く、消費者は選別消費の傾向を強めているようだ。また、企業動向関連では、引き続き受注が好調に推移しているが、原材料費の上昇や人件費の増加などにより受注が増えても利益に結び付かない企業もみられる。雇用関連では、企業の求人活動は活発だが、雇用はミスマッチの状況が続いている。

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(*1)季節調整値の改訂を行っている。
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単価が伸びるが低価格志向も根強く、家計動向関連は小幅ながら悪化

現状判断DI(季節調整値)の内訳をみると、企業動向関連(前月差+0.4ポイント)が改善したが、家計動向関連(同▲0.4ポイント)、雇用関連(同▲0.6ポイント)は悪化した。家計動向関連では、住宅関連(前月差+1.4ポイント)が改善したが、小売関連(同▲0.1ポイント)、飲食関連(同▲0.2ポイント)、サービス関連(同▲1.3ポイント)と業種で差が出た。

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コメントをみると、家計動向関連では、「この冬は例年になく寒いため、防寒用の重衣料の動きが良く、客単価が上昇している。インバウンドや富裕層を中心に、高額消費も伸びている」(東海・百貨店)や「天候の影響によって、冬物商材の売行きが好調である。セール前の買い控えが、例年に比べて余りみられない。定価品の販売が増えたことで、客単価が伸びている」(北陸・衣料品専門店)など、寒波の到来により、年明けのセールを待たずして冬物衣料の販売が好調だったようだ。また、「高額なコースメニューも迷うことなく予約が入り、飲料も高額なものが売れた」(九州・高級レストラン)や「正月を含めた春先まで、宿泊単価が前年より上昇している」(北関東・旅行代理店)など幅広い業種で単価の伸びを指摘するコメントが目立った。一方、「客1人当たりの単価が上がっている一方で、低価格の店舗に移る客も多くみられる」(北海道・美容室)や「今月も売上目標を上回る見込みである。インバウンドや防寒商品の好調な傾向は変わらないが、アイテムによる好不調の差が目立つ。国内客の所得が大きく増えていないため、消費は増えない。客は必要な商品に対する消費は積極的であるものの、そうでない商品に関しては消極的である」(近畿・百貨店)など、消費者が選別消費の傾向を強めていると指摘するコメントも目立った。

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住宅関連では、「短い検討期間で決める客は少なく、以前から住宅購入を計画していた客の契約が多い。候補を吟味した上での選定のためか、競合先があるケースは少ない」(東海・住宅販売会社)など、契約に慎重な消費者の姿勢に変化はみられないようだ。

企業動向関連では、製造業(前月差+2.1ポイント)は改善したが、非製造業(同▲1.3ポイント)は悪化し、業種によって大きく差がみられた。コメントをみると、「主要取引先の自動車、半導体向け新電力の生産が好調で、これに比例して原料の受注も増加基調にある」(中国・化学工業)など、製造業を中心に好調な受注に言及するコメントが目立った。ただし、「受注量は増加している。材料費は上昇し販売価格は相変わらず横ばいから下落傾向のため、利益水準は変わらない」(東海・金属製品製造業)や「受注量、販売量は増加しているが、原材料費の上昇分の製品価格への転嫁は進まず、収益面では苦戦している」(東海・パルプ・紙・紙加工品製造業)など、原材料費が上昇しても価格転嫁には追いつかず、売上高が伸びても利益に結び付いていないようだ。また、「工事発注量は増加傾向にあるが、人手不足によって施工能力が限界となり、受注困難な状況が起きている」(北陸・建設業)など、建設業や輸送業では人手不足によって受注に対応できないとするコメントがみられた。一方で、「運賃の値上げが順調に推移し、物量も前年をクリアする状況のため、利益を確保できている」(北陸・輸送業)や「原材料価格の高騰のため製品価格の値上げを客に要請しているが、依然として受注量は衰えず、高い状態を維持している」(中国・鉄鋼業)など着実に販売価格の値上げを行っている企業も一部にみられる。

雇用関連では、「12月の求人広告は前年を金額、件数共に上回り、根強い人手不足感がみられる。また、徐々に正社員募集の比率が高まっており、春に向けて再び正社員の補充を急ぎたい企業の状況がうかがえる」(北陸・新聞社[求人広告])など、積極的に正社員を募集する企業が増えているようだ。ただし、「人材不足の状況が続いているため、求人側では色々な方法で働く人を募集している。ただし、スキル不足の問題などからミスマッチの状況も続いている」(北海道・求人情報誌製作会社)など、企業の求人活動は活発だが、ミスマッチの状況が続いているようだ。

景気の先行き判断DI(季節調整値):家計・企業・雇用関連の全分野で悪化

先行き判断DI(季節調整値)は52.7(前月差▲0.7ポイント)と2ヵ月連続で悪化した。DIの内訳をみると、家計動向関連(前月差+▲0.6ポイント)、企業動向関連(同▲0.6ポイント)、雇用関連(同▲1.1ポイント)と全ての分野で悪化した。

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家計動向関連では、「客単価、購入点数の底堅い動きが続いている。また、高単価商材にも動きがあることから、消費者に若干の余裕が生まれているのではないか」(東北・コンビニ)など消費者の購買意欲の高まりに期待するコメントがみられた。一方、「ガソリン、灯油などの冬の暖房関連の価格上昇に加えて、青果物、水産物の価格上昇もあり、この冬の家計を圧迫する要因が強まっている。このため、今後の消費が上向くような状況にはない」(北海道・スーパー)など、エネルギー代や生鮮食品の価格上昇による消費の落ち込みが懸念されている。また、「中間層の需要の伸び悩みが懸念される。インバウンド需要、高額品の動きはみられるものの、ボリュームゾーンである中間層の購買が盛り上がりに欠ける。現在の景気が一過性のものに支えられている状況に鑑みると、今後の伸びは期待できず、厳しい状況が続く」(南関東・百貨店)など、消費の二極化が進んでいると指摘するコメントが目立った。

企業動向関連では、「欧州市場向けと東南アジア市場向けを中心に、オートバイ関連の受注が依然として堅調に推移している。当面は現状ベースの受注量となる見込みである。国内においても、産業機械分野からの受注が堅調であり、国内投資の好調さがうかがえる」(北陸・一般機械器具製造業)など、今後も好調な受注や設備投資の増加を見込む企業が目立った。一方で、「包装資材や小麦等原材料の値上がりを製品価格に転嫁することができず利益を圧迫すると推測する」(四国・食料品製造業)や「人手不足によってトラック配送の手配が難しく、他の運送会社への依頼費用も増えている。さらに、軽油価格も上昇しているため、厳しい状況に向かっている」(北陸・輸送業)など、コストの増加により収益が圧迫することを懸念するコメントが幅広い業種でみられた。また、「ますますトラック不足の影響が出てくると思われる。受注してもデリバリーの状況が悪ければ、今後の失注につながる」(近畿・金属製品製造業)や「売上が若干ではあるが増加傾向にあり、受注案件も増えているので出荷量は増加する。問題は搬送のトレーラー不足、特に運転手不足であり、出荷に影響が出る」(九州・鉄鋼業)など、輸送業の人手不足は、製造業の出荷が滞る原因にもなってきているようだ。

雇用関連では、「人手不足の改善傾向がみられないなか、賃金上昇に伴う人件費の増加と求人に掛かる経費の増加で求人意欲が低下している業種があり、今後の企業活動への影響が懸念される」(北海道・求人情報誌製作会社)と、採用活動や雇用後のコスト増加を懸念して求人活動に消極的になっている企業が存在するようだ。一方、「先行きの状況が大きく改善することは期待できない。ただし、以前から視野を広げて、高卒を含む新卒や、シニア、女性などの採用を模索する地場企業も少しずつ増えてきており、成果も出てきている」(東北・人材派遣会社)など、労働力確保のため採用に当たって門戸を広く開いている企業もみられる。

景況感は高水準で推移しているが、先行きは2ヵ月連続で悪化し、物価上昇に伴う消費の落ち込みやコスト上昇による収益悪化など、懸念が高まっている。企業の受注は好調だが、人手不足により十分に対応できない状況が続いている。特に、輸送業の人手不足は、製造業の出荷にも悪影響を与えている。雇用環境は改善しており、企業活動も活発なことから、景況感のD.I.が50を下回るほど悪化する可能性は低いが、一段と景況感が改善するハードルは高く、今後は横ばい圏での推移が続きそうだ。

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白波瀨康雄(しらはせやすお)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 研究員

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