貸出動向: 13ヶ月ぶりの低い伸び率に

貸出・マネタリー統計
(画像=PIXTA)

1月12日に発表された貸出・預金動向(速報)によると、12月の銀行貸出(平均残高)の伸び率は前年比2.44%と前月改定値(同2.72%)から大きく低下した(図表1)。75ヵ月連続でプラスを維持しているものの、伸び率は5ヵ月連続で低下し、13ヶ月ぶりの低水準となった。地銀(第2地銀を含む)の伸び率は前年比3.5%(前月も同じ)と高水準で横ばいを維持したが、都銀等の伸び率が同1.2%(前月は1.8%)と5ヵ月連続で低下した(図表2)。

ここ数ヵ月の大幅な伸び率低下は、前年にあったM&A資金など大口貸出による押し上げ効果一巡のほか、金融庁から問題視されたアパートローン・カードローンの鈍化、前年比で円高になった(平均ドル円レートは、11月には前年比4.4%の円安であったが、12月は2.6%の円高に)ことに伴う外貨建て貸出の円換算額減少などが影響しているとみられる(図表3・4)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

次に、為替変動等の影響を調整した実勢である「特殊要因調整後」の銀行貸出伸び率(図表1)(*1)を見ると、直近判明分である11月の伸び率は前年比2.73%と10月の2.61%から上昇している。見た目(特殊要因調整前)の銀行貸出の伸び率は10月(2.77%)から11月(2.72%)にかけて低下していたが、理由は前年比での円安幅が縮小したためであった。

12月の「特殊要因調整後」伸び率は未判明だが、12月におけるドル円レート(前年比)は既述の通り円高に転じており(図表5)、11月から12月にかけて、為替によるかなりの押し下げ効果が発生したとみられる。従って、12月の見た目の伸び率は前月から約0.3%低下したが、特殊要因調整後の伸び率はほぼ横ばいの前年比2.7%強になったと推測される。

「特殊要因調整後」の貸出で見ると、見た目(特殊要因調整前)ほど鈍化しているわけではないが、それでも3%台を継続していた昨年半ばほどの勢いはなくなっている。

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なお、11月の新規貸出金利については、短期(一年未満)が0.54%(10月は0.687%)と低下した一方、長期(1年以上)が0.917%(10月は0.817%)と持ち直した。短期は過去3番目の低水準であったが、長期は1年10ヵ月ぶりに0.9%台を回復している。日銀のイールドカーブ・コントロールによって市場金利は概ね横ばいで推移しているが、大企業向けよりも金利の高い中小企業向けが伸びていることが貸出金利持ち直しに寄与しているとみられる。また、銀行側が貸出期間の長期化によって貸出金利の確保を図っている可能性もある。

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(*1)特殊要因調整後の残高は、1カ月遅れで公表されるため、現在判明しているのは11月分まで。
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マネタリーベース: 増加ペースの減速止まらず

1月5日に発表された12月のマネタリーベースによると、日銀による資金供給量(日銀当座預金+市中に流通するお金)を示すマネタリーベースの前年比伸び率は11.2%と、前月(同13.2%)から低下した。伸び率の低下は4ヵ月連続。内訳のうち、日銀当座預金の伸び率が前年比13.5%と前月(15.9%)から低下したことが原因である(図表6・7)。

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また、11月末のマネタリーベース残高は480兆円となり、前月末から8.5兆円増加したが、近年の同月の増加額(15年12月は12.5兆円、16年12月は17.6兆円)を下回った。12月は例年日銀当座預金の増加に繋がる国債の償還が多く、マネタリーベースが増えやすいが、今年は償還が少なめであったほか、日銀の国債買入れペースが次第に縮小していることが、マネタリーベース増加ペースの鈍化に繋がっている。季節性が除外されるマネタリーベース(末残)の前年比増加額を見ると、12月は42.6兆円と前月(51.7兆円)から大きく縮小しており、異次元緩和が開始された13年4月(32.2兆円)以来の小幅に留まった。マネタリーベース増加ペースの減速は続いている。

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今後も、引き続き日銀の国債買入れによって市中に残存する国債残高が減少に向かうため、日銀の国債買入れペースはさらに縮小に向かうとみられ、マネタリーベースの増加ペースも減速していくと考えられる。

マネーストック: 通貨供給量の伸びが大幅に鈍化

1月15日に発表された12月のマネーストック統計によると、市中に供給された通貨量の代表的指標であるM2(現金、国内銀行などの預金)平均残高の伸び率は前年比3.6%(前月は4.0%)、M3(M2にゆうちょ銀など全預金取扱金融機関の預貯金を含む)の伸び率は同3.1%(前月は3.4%)とともに大きく低下した(図表9)。貸出の増加ペースが近頃鈍化していることが影響しているとみられる。

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M3の内訳を見ると、最大の項目であり、全体の約半分を占める預金通貨(普通預金など)の伸び率が前年比7.2%(前月改定値は7.8%)と大きく低下し(図表10)、M3全体の伸び率低下の主因となった。預金通貨の伸び率低下は3ヵ月連続となる。また、現金通貨の伸び率が前年比4.5%(前月改定値は4.8%)と低下したほか、CDの伸び率(前月改定値0.4%→当月▲0.2%)が再びマイナスに転じたことも、伸び率を押し下げた。なお、準通貨(定期預金など、前月改定値▲1.2%→当月▲1.2%)の伸び率は引き続きマイナスであった(図表10・11)。

M3に投信や外債といったリスク性資産等を含めた広義流動性の伸び率は前年比3.5%(前月は3.9%)とM3以上に低下した(図表9)。伸び率の低下は2ヵ月連続となる。

残高規模が大きい金銭の信託(前月改定値7.6%→当月6.9%)の伸びが低下したうえ(図表11)、為替の(前年比での)円高転換を背景に外債(前月13.6%→当月10.5%)の伸びも低下した。

さらに、家計が大半を保有し、注目度の高い投資信託(元本ベース)の伸び(前月0.5%→当月▲1.2%)がマイナスに転じたことも広義流動性の伸び率押し下げに繋がった(図表11)。投資信託(元本ベース)は前年比横ばい圏での推移が続いており、2015年に見られたような積極的な残高積み増しは確認できない。金融庁の批判を受けて、かつての大ヒット商品であった毎月分配型投信の販売が自粛されていることや、株価上昇に伴って株式投信での利益確定売りが出ている影響もあるが、基本的には家計の慎重な投資マインドを反映したものと考えられる。

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上野剛志(うえのつよし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 シニアエコノミスト

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