Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOがニュースフィードの表示変更を発表した翌日(2018年1月12日)、Facebookの株価は187.66ドルから178.00ドルまで急落(ナスダックデータ)。その結果、CEOであるザッカーバーグ氏の資産が一瞬にして33億ドル(約3652億円)減った」と報じられている。

Facebookにとって最大の収入源が広告であることは周知の事実だ。2017年第3四半期だけでも約21億ドルを記録している。これほどのリスクを冒してまで変更を加えた真相は、ザッカーバーグCEOがアピールしている「Facebookの改善」という単純なものではなさそうだ。

新システムでは「ユーザー間の会話に役立つニュースが優先される」

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(画像=Facebookサイトより)

ザッカーバーグCEOは以前から、ニュースフィード表示変更の必要性について明らかにしていた。今回発表された変更は、アルゴリズムを変更することで、表示されるニュースの優先順位を見直し、ユーザー間のコミュニケーションを深めるというもの。ここでいうニュースは、メディアやブランドから発信されるニュースや広告だけではなく、家族・友人などからの投稿も含まれる。

現在のシステムでは、コメントや共有が多いニュースが優先的に表示される。しかし「どんなニュースに興味があるか、共感するか」は個人によって大きく差がでる。まったく興味がない、接点がないニュースが表示されても、Facebookが目指す「ユーザー間の会話」にはつながらない。

新たなシステムでは、アルゴリズムが「実際にユーザー間のやりとりに役立つ(会話が生まれる、やりとりの回数が増えるなど)」と判断したニュースが優先されるようになる。つまり広告よりも、家族・友人などによる個人的な投稿が優先される。

ザッカーバーグCEOはこれを「Facebookの新たなゴール」とし、Facebookをもっと有意義なものへと作り変える意気込みを示している。

数々の批判にさらされるFacebook イメージアップは必須?

近年、偽ニュースやヘイトスピーチ、プライバシー保護問題などをめぐり、Facebookへの批判が急速に高まっている 。コミュニケーションを重視していた「原点回帰」を思わせる動きは、こうした現状を懸念してのことかと推測される。FacebookはGoogleやTwitterとともに、2016年に行われた米国大統領選の際、結果に影響をあたえかねないロシア発の偽ニュースが大量にSNSで出回っていたにも関わらず、それを取り締まらなかったとの非難も受けている。

ザッカーバーグCEO自身、イメージ改善を意識した行動や言動が目立つ。しかしそのひとつひとつが裏目にでているという印象はぬぐえない。

世界中を驚かせた「保有する資産の99%を慈善団体に寄付する」という美談も、ふたを開ければ「単なるおいしい投資手段を見つけただけ」「慈善団体ではなく有限会社」などとたたかれ、ハリケーン被災地の復興支援という名目で自社製作した「VRツアー動画」も、結局は「VRのすごさをアピールするために被災地を利用する心ない大富豪」と猛烈な批判を受けた。

しかしザッカーバーグCEOが今年の抱負としてアピールしている「改善」は、最大の収入源である広告をリスクにかけてまでイメージアップを図る―という単純なものではなさそうだ。

「ニュースフィードには広告スペースが残っていない」

「Facebookのニュースフィードに広告用のスペースがもうほとんど残っていない」ことは、2016年頃から報じられていた 。

Facebookはメッセンジャーへの広告導入を検討すると同時に、無料広告の廃止を実験的に行うなど対応に努めてきたが、今後の広告戦略については「量より質を重視する=成長速度が鈍化する」という警告を投資家に発していた(ブルームバーグより )。

つまりイメージアップ云々をぬきにしても、これ以上ニュースフィードの広告を拡大することは物理的に不可能ということになる。そう考えると、ザッカーバーグCEOの唱える「より有意義なものへと生まれ変わる」の真意がどこに根差すのか、勘ぐらざるを得ない。極端に解釈すると、スペース問題がなければ、ニュースフィード表示変更も行われなかったかも知れない。

33億ドルもザッカーバーグCEOにとっては微々たるもの?

株価の急落は、広告収入への影響に対する懸念を見事に表している。広告主にとっては、広告代の大幅な値上げの可能性だけではなく、ターゲットである消費者に宣伝する機会が減るということになりかねない。現時点ではけっして、歓迎すべき変化として受け入れられていないだろう。

しかし「長期的には、ユーザーにとっても企業にとっても有益」とのポジティブな見方もある。Facebookが主張しているように、ニュースフィードが量より質重視に生まれ変われば、様々な意味で持続的成長に貢献するのではないだろうか。

33億ドルを失ったとされるザッカーバーグCEOに関しても、痛恨の一撃といったわけではなさそうだ。33億ドルというと一般庶民にはとてつもない数字だが、純資産724億ドル(フォーブス、2018年1月15日データ) という当の本人にとっては、わずか21分の1にも満たない金額である。

それならば限界を迎えたニュースフィードの広告に執着するよりも、この転機を最大限に活用して新たな利益創出源につなげる方がよほど有益ーというのが、ザッカーバーグCEOの真意ではないだろうか。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)