老後でも安心できる「住まい方」を考えます。都心にマイホームを所有しつつも週末は郊外の田舎でのんびり暮らすというライフスタイルや将来的な都心のマイホーム売却、さらには親御さんの介護も見据えた「住まい方」を検討してみましょう。

(本記事は、洲浜 拓志氏の著書『貯蓄800万円「安心老後」』=ぱる出版、2018年1月11日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)

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貯蓄800万円「安心老後」
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

地方に住めば生活費は浮くし健康的

満員電車やごみごみした都会を離れ、健康的な田舎暮らしをしたいと思ったことはないでしょうか?

2つの生活拠点を持つ、「マルチハビテーション」という住まいの考え方があります。

「マルチ(multi)」は「多くの」、「ハビテーション(habitation)は「住居」という意味のドイツ語です。

「平日と週末」とか、「都会と田舎」といった複数のライフスタイルを選択する人が増えています。

日本人の価値観が多様化したことや、インターネットの普及によって自宅での仕事が可能になったことも大きな一因です。ここで提案があります。

例えば、老後の生活を視野に入れ、ウィークデーは都心で会社勤めをしながら生活し、週末は郊外の田舎でのんびり暮らすというライフスタイルを検討してはいかがでしょうか?

具体的には夫がサラリーマンの場合、ウィークデーは都心に通勤しやすい場所でワンルームに間借りします。そして、週末は郊外の夫婦用サイズの賃貸物件に住むのです。

メリットとして、職場とプライベートを切り分けてメリハリのある効率的な仕事ができます。田舎暮らしに慣れた上で老後を迎えれば、夫婦2人の身の丈に合った生活ができるでしょう。

すでにマイホームを都心に所有している場合、リタイア後は田舎ぐらしをして、マイホームを売るもよし、または他人に賃貸して家賃収入を得ることもできるのです。

田舎暮らしの最大のメリットは家賃が安いことです。土地付き戸建の家賃が5万円ぐらいから10万円以内のエリアもあります。都心よりも5万~10万円の節約になるでしょう。

食品も日用品も、大きなスーパーやドラッグストアがあれば安く買えます。反対に、増える費用はガソリン代や、山間部などではストーブの灯油代などです。

スマホ代は都心、田舎にかかわらず高いので、格安スマホに切り替えれば、毎月1万円から5000円程度に削減できます。

(住み替えた家が、夫婦のご両親の実家の近くであれば、なお良いと思います。将来の介護なども視野に入れた住み替えとなるわけです。)

週末は田舎暮らしに徐々に慣れていき、リタイアしたら田舎を主たる生活の場とします。そして子供達もいなくなった都心のマイホームは賃貸に回します。

そうすれば、都心のマイホームの家賃で郊外の2人暮らしの戸建ての家賃ぐらいは十分に賄えると思います。つまり生活資金が十分に繰り回せるわけです。

最近は老後の生活をフィリピンやタイなど東南アジアに求めて移住されるご夫婦も見かけますが、もっと身近なところに安住の地は見つけられるのではないでしょうか?

家族の人生サイクルと「マイホーム」

貯蓄800万円「安心老後」
(画像=PIXTA)

会社員は転勤や年齢などによって、ライフスタイルが変わります。子供の成長によって、家族のサイズも変わります。ですから、必要な家のサイズも変わります。

自宅が問題となるのは、お子さんが原因でしょう。

お子さんは小学校に行き始めると、友達の「家」がとても気になる頃があります。子供たちはお互いに比較しあっています。

また、賃貸マンションでも生活できますが、奥様は自己所有のマイホームに憧れます。

賃貸物件に住んでいると、奥様は「家賃を何十年も支払うくらいならローンにして買っちゃえば?」という発想になります。

ご主人も、「マイホームを買う」ことに疑いを持たず、住宅ローンを使って購入します。

ところが、本当にマイホームが必要な時期は、お子様たちの小学校から高校生の期間で、せいぜい15年程度でしょう。

子供たちが巣立った後は夫婦2人の生活になるので、大きな家は不要になります。そして、あなたが高齢になった時には、子供たちから「この家いらないよ」と言われる可能性もあるのです。

私はこう考えます。マイホームは最後に買えたら買えばいい、と。

「まず」不動産投資のために、40代までに預金2000万円を目指しましょう。

不動産投資が軌道に乗り、安定してきたら、マイホームの購入を検討します。

なぜなら、不動産投資を先に始めたほうが、給与所得と不動産所得で収入がダブルになりますし、その後に資金繰りが安定し、余裕が生まれるからです。

「マイホームは最後にでも十分買える」と考えてください。

介護と相続と資産活用

それでは50~60代のシニアライフの資産について考えてみましょう。この世代はそろそろ親御さんの資産の相続が気になる頃だと思います。

親御さんの年齢は、おそらく70代~80代以上でしょう。

ちなみに、70歳以上の世帯の平均的資産は4700万円という統計データがあります。このうち宅地・資産が2300万円、預貯金などが2000万円となっています。

この資産をもめずに相続して得るための対策は色々な専門家が述べていますし、私もセミナーなどでお伝えしていますが、それは別の機会に譲るとして、いかにうまく相続するかが大事です。

本来は買わなければならない資産を親からいただく時に相続税という税金を払うことで、市場価格よりも安く資産が手に入るわけです。ところが大問題があります。

相続問題を考える前に避けて通れないのが、親の介護の問題です。

そして、介護の費用をどう負担するかという問題も重要です。親が認知症になると、資産の処分や管理処分などが自由にできなくなり、非常に厄介な問題が起きてしまいます。

相続の前に起きる介護の問題をどう把握し、どう対処するかについて、あらかじめ押さえておきたいと思います。

介護のあるべき形について

まず、介護の実態についてデータを示します。在宅介護は、どの家庭でも最初に発生する介護の形態です。つまり、施設に送り込む前の段階ですね。

分析すると、外部の業者に委託しているのは15%で、残りの85%は介護される方の奥様や子供、そのお嫁さんといったご家族が行っています。

その家族のマンパワーですが、65歳以上の世帯の家族構成を見ると平均が2.49人となっています。

つまり、2.49人で高齢者を支えなければならず、介護力が非常に不足しているといえるでしょう。

家族の誰かが犠牲になって仕事を辞めたり、そういったストレスから高齢者を虐待したりといった問題がよく発生しているのは、こういう訳です。

そこで、先ほどの資産4700万円をいかに使って介護の施設などを利用するかという専門的なアドバイスが必要になってきます。

そこで、私のような介護以外の専門家が、施設施設に入居するための資金調達や、その後空き家となってしまう自宅の活用などのアドバイスでお役に立ているわけです。

介護と認知の仕組みと制度

認知症になると、その人の個人資産を勝手に処分できなくなります。このような場合は「成年後見人制度」という制度があり、成年後見人として指名された専門家(例えば弁護士など)がその人の資産を本人の利益を害さない範囲でしか処分できなくなります。

そして認知症の本人に代わって行う資産の処分(例えば自宅やアパートの売却、銀行預金の引き出し)が本人の利益を害さないか、という判断がつかないことが多く、せっかくある資産が使えないことになります。

昨今は、成年後見人がお金を使い込むような事件も多発したため、なおさら資産の処分はしにくくなっています。

私のお客様で「認知症の母を在宅介護していた長女が、母の預金から1000万円を生活費目的で使ったら、母の必要限度を超えているから、娘に贈与税がかかる」といった問題で、裁判になった例もありました。

認知症の方の資産を処分できる仕組みとして、「任意後見人制度」があります。これは、本人が元気なうちに指名した人に、自分の財産を任せる仕組みです。

そうすれば、その指名された人の判断で資産を処分できますので、預金を下ろして色々使ったりもできるわけです。

もう1つ方法があります。それは家族信託です。

例えば、アパートを経営する高齢者本人が長男に資産管理を委託し、長男は親が死んだらアパートの収入を受け取る権利をそのまま引き継ぎ、さらに、その家賃を次に誰が受け取れるようにするかを指示できるといった、信頼できる親族に権限を渡す仕組みです。

しかし、「任意後見」も「家族信託」も本人が元気なうちに利用できる制度なので、認知症になる前に色々手を打っておかなければダメだ、という結論は同じです。

介護発生の仕組み

介護の発生と家族への影響についてお話しします。

家族の誰かに介護が必要になった時、まず公的相談機関である地域包括支援センターで専門の資格者に相談することになります。

ここでは、ケアマネージャーさんや社会福祉士さん、保健師さんなどがいます。そして多くの場合、ケアマネージャーさんから自宅で介護するプランを指導されます。

平均介護期間は4年11ヵ月、つまり約5年です。ケアマネージャーさんはその期間のケアプランを立てて、そのプラン通りに介護サービスを受けることになります。

しかし、日本の場合、介護者の4人に1人がうつ病といわれています。つまり、外部の介護サービスを使ったとしても、居宅介護を担う家族の負担は大きく、介護者の発生は家庭に負の連鎖を引き起こします。

ここで、介護の身体的発生原因について考えてみます。

まず、一番多い原因は脳血管疾患で、全体の21.5%です。次に多いのが認知症で、15%です。その次に注目すべきなのが、骨折や関節に関する問題です。骨折や転倒が10.2%、関節の疾患が10.9%で、足すと20.1%が骨折や関節の問題で介護が必要になるのです。

そして、関節が思うように動かないとか、骨折が理由で寝たきりになったことで、認知症を併発するという大きな問題が起きているのです。

分かりやすくいうと、親御さんが転んで介護が必要になり入院したら、認知症の始まりと考えておくべきです。

認知症が始まると、相続問題も資産をどう扱うかという問題も全てストップしてしまうリスクが訪れるのです。恐ろしいですね。

介護のまとめ

ここまでをまとめましょう。

相続や資産をどうするかという問題の前に、まず介護の問題がやってきます。

認知症が介護状態を招き、その介護が新たな認知症を発生させたりすれば、相続対策が全てストップしてしまうリスクがあります。

ではどうしたら良いのでしょうか?

相続対策のために遺言書を書いてほしいと頼むのは、とてもストレスがあるのはよくわかります。

そこで、介護費用について相談があると親に切り出すのはいかがでしょうか。

介護費用を賄うには、認知症になっても大丈夫なように、親が元気なうちにその預金や不動産などを誰がどう管理していけばいいかを決めておく必要があるとわかってもらうことが先決だと思います。

あてにならない成年後見制度ではなく、任意後見制度や家族信託を元気なうちに使うのが最善です。

何よりも日頃からの家族のコミュニケーションが一番大事だと思います。

介護費用と住み替え費用の捻出

高齢者になると、それまで子供と一緒に住んでいた家が老夫婦2人となるため、家がとても広くなったりするものですよね。

そして、庭の掃除や老朽化した家の修繕リフォームなど、色々手直しをしているうちに転んでしまったり、怪我をしたり、骨折して入院したり、それが認知症などを引き起こして介護状態になっていくという流れが、非常によくあるケースです。

日本では、女性の3割が骨折か脳疾患が原因で介護が必要になり、入院しています。このようなリスクを考え、生活のダウンサイジング(規模を小さくする)をお勧めします。

特に自宅を持っていれば、それを担保にお金を借りられるリバースモーゲージという商品があります。

これを使えば、自宅を担保にお金を借りて、老人ホームや介護施設に移り住むことができます。

同じように考えると、自宅を担保にして、例えば長男夫婦の家の近くに老夫婦2人に丁度良いコンパクトなマンションを買い、そこに住むこともできます。

もちろん賃貸でも良いのですが、リバースモーゲージを使えば自宅を担保にして住み替えることが可能となるのです。

さらに、住み替えた後の実家は空き家としてタイミングを見て売ることも考えられますが、賃貸にすれば安定的な収入が得られます。

自宅を売る

それでは、親御さんの自宅の資産をいかに活用するかについてお話ししましょう。

親御さんが大きな家に住んでいて、管理や手間・コストがかかるのであれば、住み替えるのも1つの手だと思います。

住み替えるには資金が必要です。ダウンサイジングしてコンパクトなマンションに住むもよしですが、いくらか資金が必要になります。

従来であれば、そのために不動産を売却しましょうとなり、不動産業者に相談すれば当然ですが安く買い叩かれます。

どんなに親切そうでも、不動産業者が買う場合にはどうしても安くなってしまいます。ビジネスですから仕方ありません。

最近ではハウスリースバックという商品が非常に売れているようです。具体的にいうと、自宅を不動産会社に売却し、一時的にお金を得ます。

しかし、そのまま住み続けて家賃を払うというものです。

不動産会社と個別に売買価格と賃料を決められます。

将来、お亡くなりになった場合、すでに自宅の所有権は不動産会社に移っているので、家を誰に相続するのかといった問題は残りません。

リバースモーゲージとは異なる形で資金を生む方法にはなると思います。

ただし、このような不動産会社はごく限られています。最終的には納得のいく価格で自宅を売って現金を作り、介護施設などに移り住んでも良いでしょう。

その場合は自宅が空き家になりますが、その活用方法などについては後ほど述べます。

売らないで住み替える

次に、自宅を売らない住み替えのケースです。

リバースモーゲージを使います。

自宅の土地の値段の半額程度は融資が出ます。この商品の最大融資額は、最大2億円までの土地に対し、1億円程度です。

土地の値段が1000万以上あれば、この商品にはぴったりはまります。

例えば、自宅の土地に4000万円の価値があったとして、その半分の2000万62円をリバースモーゲージで借ります。そのお金で施設に移ったりすれば良いわけです。

まだお元気な場合は、長男夫婦や自分の子供の家族のそばに移り住むのも精神的に安心だと思います。

今、大きなお屋敷に夫婦2人で住んでいるとしたら、それを担保に融資を受けて、コンパクトなマンションなどに住み、自分の子供たちの住まいに近く、利便性の良い都心や駅近辺などで暮らす形がとてもオススメです。

慣れない土地かもしれませんが、家族が近くにいれば安心でしょう。

大きな家の庭の管理や建物の修理などの手間から解放されて、快適なマンション暮らしができるのではないでしょうか?

空き家の活用

今、日本国内には820万戸という膨大な量の空き家があります。

ところが新しい活用方法も出てきています。

一戸建てが空き家になった場合、その一戸建てをまるまる貸し出す戸建て賃貸という形態があります。ワンルームやマンションの賃貸とは違いますが、けっこうニーズはあるのです。

一戸建てを買うお金はないが、ファミリーで住みたいといった潜在ニーズはかなりありますが、なかなか知られていません。不動産業者もあまり取り扱っていないようです。

もう1つ、シェアハウスという方法があります。一戸建てをシェアハウスとして、家族のように住むのも面白いものです。ここ15年で、シェアハウスはかなり定着してきました。

多くの場合、シェアハウスの専門業者が建物を一括で借り上げて運営する形をとっています。

つまり、大家さんとしてその建物を業者に一任すれば、家賃の総額の何パーセント、または固定でいくらといった形で家賃が入ります。

入居者が自分たちで管理するため、空き家のように劣化が進むことはなく、建物も喜ぶわけです。

最後に、民泊について述べます。オリンピックを控えて、インバウンドによる観光ビジネスが盛んになっています。

かつて中国人が爆買いツアーに来ていました。大阪と東京を結ぶラインをゴールデンルートというそうですが、関西空港から入って富士山を見て東京の浅草や銀座を観光して成田から帰るルートで、その逆も然りです。

しかし、外国人観光客は、再度訪日刊行する場合、一度行った代表的な観光スポットを、再び訪れるでしょうか。

ここが問題です。2回目は体験をしたいという考えになるはずです。みんながまだ知らない場所とか、日本の文化を深く知りたいといった目的で、少しマニアックな田舎の方に足を伸ばすはずです。

今年、民泊に関する新しい法律も国会の法案を通りました。平成30年には施行される予定です。その法案を新民泊と呼ぶことにします。

新民泊のポイントは、一般の住宅も180日以内なら旅館業のように不特定のお客様を寝泊まりさせても良いという点です。

つまり、多少田舎でも面白い観光エリアなどがあれば、新民泊の可能性も十分に考えられるわけです。

この辺りのノウハウを持つ業者は最近多く出てきましたが、特に地方でも成功している業者に私は注目しています。

不動産業に毛の生えた程度の悪質な民泊業者もいるので、注意も必要です。

このように、自宅が空き家になった場合は色々な活用方法を考えて、収益を生むことを考えましょう。

そして最終的に「やっぱり売却」という結論になることもあると思いますが、最初から「売却しかない」という貧困な発想は避けたいものです。

洲浜拓志(すはま・たくし)
洲浜不動産鑑定士事務所代表。株式会社財務部代表取締役。昭和39年島根県生まれ。京都大学農学部卒業。昭和63年メガバンクに入行し、500社以上の中小企業向け融資に取り組む。金融経験(三井住友銀行と東京スター銀行)22年と、不動業界での経験(リノベーション、不動産鑑定、投資コンサルティング)を生かして、財務と不動産の専門家として独立。セミナー講師「不動産ドクター」(登録商標)として、「不動産投資」「相続」「空き家」などの課題の解決方法などを公開。自らの不動産投資及び大家業の経験から再現性のある投資手法を確立し、不動産投資家や大家さんのサポート業務も行う。最近は中小企業の財務部門の受け皿として、(株)財務部を設立。資金調達や財務改善などの経営コンサルティングも行っている。