「2013年に上場廃止したDellが再上場を検討中である」ことが、事情に詳しい関係者の証言などから明らかになった。

同社は2016年に完了したストレージ企業EMCの買収で推定460億ドルの負債を抱えており、IT株が絶好調の今、再上場によって現金をかき集める戦略ではないかとの見方が強い。実現すればIT産業で過去最大規模の案件となる可能性がある。

一方、VMwareがDellを「逆買収」する、あるいはDellがVMwareの残り株を買い取るといった証言も聞かれる。

2013年に上場廃止 再起を賭けてEMCを買収

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(画像=Dell Webサイトより)

ブルームバーグが2018年1月26日に報じたところでは、Dellは同月末の取締役会で再上場を含めた戦略的な選択肢について協議する予定だという。関係者が証言した時点では「再上場しない」という結論に落ち着く可能性もあるとのことだ。

1984年にテキサス州で設立されたDellは世界最大のパソコンメーカーとして君臨するも、モバイルデバイスへの消費者嗜好の移行から、ライバルパソコンメーカー同様、徐々に苦戦を強いられることとなった。2013年10月には経営再建手段として、マイケル・デルCEOらによるマネジメント・バイアウトの成立を受け、上場廃止を実施。買収価格は249億ドルだった。(ロイター2013年10月29日付記事)。

Dellは2015年10月存続を賭け、当時のIT産業最高額670億ドルでEMCを買収すると発表し、「世界最大の民間統合IT企業」を誕生させた。買収完了後、EMCはDell EMCと社名変更し、仮想化ソフトのVMwareとともにDell傘下の独立系子会社となった。

EMC買収の狙いだったVMware シスコやゴールドマン・サックスも出資

Dellが巨額を投じてEMC を買収した狙いはVMwareにあった。VMwareは1998年カリフォルニアで設立され、「仮想化分野の期待の新星」としてテクノロジー分野で注目を浴びていた。サーバー事業から撤退し、クラウドやストレージなど新たな領域での勢力拡大を目論んでいたDellにとっては、のどから手がでるほど魅力的な存在だったはずだ。

VMware は2003年、EMCが6.35億ドルで買収し、2004年にニューヨーク証券取引所に上場を果たしている。

Dellは2000年、VMwareのベンチャーラウンドのリード企業を務め、ゴールドマン・サックスやアジュア・キャピタル・パートナーなどとともに総額2000万ドルを出資。2007年にはインテルが2.18億ドル、シスコが1.5億ドルを出資している。

Dellはそれ以前にも買収に積極的で、ソフトウェア企業T.O.A.D.(1998年)から始まり、フォグライト(2000年)、ASAPソフトウェア(2007年)、メイク・テクノロジー(2012年)、スタットソフト(2014年)など1998~2015年にかけて34社を傘下に引き入れていた 。

数々の買収によってパソコンやPCサーバー、ストレージ、ネットワーク機器、セキュリティー、ソリューションまですでに事業範囲を多様化させていた上に、新生DellではVMwareを含め、RSAやVCE、ピボタル・ソフトウェア(Pivotal Software)などEMCの子会社を通して、クラウドソリューションや仮想化、データ関連分野にまで進出を遂げた。

VMwareによる「逆買収」が最も革命的、可能性は低い?

Dellの460億ドルの負債のうち、30億ドル分は今年満期をむかえる債券だ。来年にはさらに45.4億ドル分が満期となる上、貸付残高 もある。こうした背景から、負債の解消に向けて思い切った手段を講じる必要に迫られていると推測される。

最も有力な説は再上場で、市場のIT株熱に便乗し、巨額の資金集めに挑むのではないかと見られている。 ほかの関係者が明かしている「現在80%を保有するVMware株の残りを買いとる」という説もある。VMwareを完全に買収したところで直接的な負債解消にはつながらないものの、VMwareは上場企業であるだけではなく、「AWS」や「Microsoft Azure」といった大手クラウドサービスとの提携でパイプラインの強化に成功している。

最も大胆な戦略として、VMwareがDellを「逆買収」する可能性についても論じられている。実現した場合、VMwareはデルCEOやパートナーであるシルバーレイクに株を発行し、両者はこの株を公開市場で売りだして、Dellへの投資を収益化することができる(CNBC2018年1月29日付記事 )。しかしDellが安易に身売りするとは想像しがたいため、実現の可能性は低そうだ。

これら3つの証言はあくまで「匿名関係者」が情報源であり、現時点で正式な発表は行われていない。VMwareの売上は毎年伸び続けているが、成長速度には若干のかげりが見える。2015年までは6年連続で2桁の売上成長率を記録していたが、2016年は6.7%にとどまった。しかし純収益は過去最高の120億ドルで、2017年はさらに記録を更新すると予想されている。

Dell、VMwareの株価は下落 市場には歓迎されない戦略?

この報道が市場に歓迎されなかったことは、株価の急落を見れば分かる。Dellの株価は2018年1月25日の88.44ドルを境に、30日には69.99ドルへ下落。26日150ドルだったVMwareの株価は30日、119.42ドルに大きく値を下げた(ロイター2018年1月30日データ)。

こうした市場の反応を目の当たりにすると、Dellの「戦略的選択」にどれほどの効果が期待できるのか、疑問の念を感じなくもない。しかしなんらかの大きな動きがでた場合、まったく違った反応や結果がでる可能性も考えられる。いずれにせよDellの将来を左右する重大な決定となりそうだ。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)