2017年はAmazonとWhole Foods、IntelとMobileye、米国薬局チェーンCVSヘルスと医療保険会社エトナなど大手のM&Aが世間を騒がせたが、今年もその波は続くとの見方が強い。

実現の可能性はさておき、現時点では「AppleによるNetflix買収」「Amazonによるターゲット買収」「タイムワーナーとコムキャストによるHulu株買い増し」などが予想されている。

売上10億ドル規模の米国企業エクゼクティブの4割が「M&Aを強化する」との意向を示しているなど、昨年に引き続き大手M&Aが活発化するのは間違いなさそうだ。

エクゼクティブやリーダーの 6割が「M&A規模が拡大する」と予想

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(画像= NicoElNino/Shutterstock)

デロイトがM&Aの傾向を予測・分析した最新の報告書 によると、米国の本社に勤めるエクゼクティブの68%、地方の未公開株式投資会社のリーダーの76%が、「今後1年にわたり、M&A件数が増える」と予測している。また63%が「(2017年と比べて)規模も拡大する」、34%が「少なくとも同じぐらいの規模になる」と答えた。

M&Aが今後も増え続けると予想されている背景には、長引く経済成長の低迷や政治的不確実性が指摘されているほか、大手企業の現預金水準が高まっていることから、設備投資やM&Aの原資として使う機会が増えている。

売上が10億ドル以上の企業の35%、それ以下の企業の22%は「M&Aをより加速させる」意向を示している。また売上が10億ドル以上の未公開株式投資会社の29%は、「M&Aが飛躍的に伸びる」と確信している。

Apple、Netflix買収の確率は40%?

ナスダックはAmazonやCVSヘルス、Intelなど昨年の大手M&Aを挙げ、今年も同じように大規模なM&Aが実現すると予測している(2018年1月3日付記事 )。

その中でも最も話題性に富んでいるのは、「AppleがNetflixを買収する」というものだろう。Appleの現金保有高が過去最高水準に膨らんでいたるから、買収を予想する報道が絶え間なく流れている。同社は今年に入り、国外に保有している現金2520億ドルのほぼ全額を国内に還流し、380億ドルを納税、今後5年で300億ドルを国内に投資する計画を発表している(ロイター2018年1月17日付記事 )。

国内投資300億ドルの一部は第2本社の建設や開発・教育支援の拡大・強化に使われる予定だが、買収の加速も視野に入れているだろう。Appleはこれまで、Netflix買収の可能性について否定し続けてきたが、トランプ政権による「一度限りの優遇税制」により状況は大きく様変わりしている。

その一方で1月にはシティグループのアナリストによる、「Appleが自動車、ビデオゲームあるいはエンターテイメント企業の立ち上げ準備中」というメモが流出。アナリストはメモの中で「近いうちにNetflixを買収する確率は40%」とした。

Amazonはターゲット買収で実店舗販売を拡大?

AmazonがWhole Foodsに続き、ディスカウント百貨店チェーン、ターゲットの買収を検討中だという説もある。発信源はルー・ベンチャーの設立者、ジーン・ミュンスター氏で、Amazonにとってターゲットが「理想の間接的な提携先」になると、自身が発表した報告書の中で断言している。

両社の狙う顧客層が共通しており、ターゲットの店舗数も多すぎず少なすぎず容易に管理可能な規模というのがその理由だ。ミュンスター氏いわく「Amazonは未来の小売店がオンラインと実際の店舗の複合になると確信している」ことから、「実現のタイミングは難しいだろうが、価値あるM&Aになることは間違いない」との見方である(CNBC2018年1月2日付記事) 。

Amazonが昨年、137億ドルを投じてWhole Foods470店舗を買いとった事実を考慮すると、実店舗市場への関心の高さが並みならぬものではないことが分かる。ミュンスター氏の予言が的中しても不思議ではないだろう。

タイムワーナーとコムキャストが、ディズニーから「Hulu」の株を買い増す?

タイムワーナーとコムキャストが、動画配信サービス「Hulu」の持ち株を増やす可能性も考えられる。ウォルトディズニー・カンパニーは昨年、FOXをメディア買収史上最高額の660億ドルで買いあげた。この買収により、ディズニーは「Hulu」の株の60%を取得することとなった。

しかしタイムワーナーやコムキャストも一部の株を保有しており、動画配信サービスの拡大を狙っている。ディズニーに株の買いとりを申しでても不自然ではないが、動画配信市場を重視しているのはディズニーも同様だ。そもそもFOXを買収した理由はそこにある(ナスダック2018年1月3日付記事)。 そう考えると、この買収予想は実現の可能性が低いと判断せざるを得ない。

医療分野でもM&Aが活性化

M&AはIT分野だけではなく、医療分野でも活発化している。

米国のバイオ医薬品企業セルジーンは今年に入り、70億ドルでインパクト・バイオメディシンズの買収を成立させたほか、ジュノ・セラピューティクスも90億ドル で買いとると発表している。

またデンマークに本社を置くノボ ・ノルディスクはベルギーのバイオ製薬企業、Ablynxに31億ドルで買収を申しでている。武田薬品工業はベルギーのTiGenixを6.3億ドル で買収する予定だ(ロイター2018年1月8日付記事)。

様々な企業が事業多角化や弱点強化、新たな市場開拓などを視野に入れている近年、こうしたM&Aの活性化がほかの分野にも飛び火していくことは十分にあり得るだろう。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)