世界中で37億回ダウンロードされた大人気モバイルゲーム「アングリーバード」で、一躍脚光を浴びたフィンランドのスタートアップ、ロビオ・エンターテイメント。2017年9月に上場を果たしたのもつかの間、同社が示した予想売上高・利益が前回の予想を大幅に下回ったことで、落胆した投資家の投げ売りが殺到。わずか1日で株価が50%以上も暴落する事態となった。

また「Star Wars バトルフロントII」の課金システムをめぐる論争で、エレクトロニック・アーツ、アクティビジョン・ブリザード、テイクツー・インタラクティブ・ソフトウェアの株価も一時的に下落に傾いたものの、「課金システムの見直しがゲーム産業全体にポジティブな影響をあたえるのではないか」との見方もでている。

予想売上高、前利益マージン下方修正で「大いに失望した」投資家

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(画像=ROVIOサイトより)

ロビオ株暴落の兆候は昨年下旬から徐々に表面化していた。株価は昨年11月中旬まで11ドル台を維持してたものの、その後10ドルを下回る水準で低迷。今年2月16日には9.73ドルまでわずかながらも値を上げ、窮地を脱出したかのように見えた。

しかし23日、同社が予想売上高・利益を下方修正した直後、一気に4.49ドルへと急落(ブルームバーグ2018年2月23日データ )。ロビオの発表には投資家に歓迎される要素が見当たらなかった。「今年の予想売上高は前回の予想を3700万〜3300万ユーロ下回る2.6億〜3億ユーロに留まる」ほか、クラウドベースのゲームサービス開発に1000万〜1500万ドル投資していることを挙げ、「金利税引き前利益のマージンも予想を3.3〜5.3ポイント下回る9〜11%に縮小する」と弱気だ。

第3四半期決済報告後から尾を引いていた投資家の猜疑心が、一気に噴きだしたのも不思議ではない。ロビオ株を保有しているフィンランドのプライベートバンクFIM は、「(ロビオの予想発表に)大いに失望した」と述べた(ブルームバーグ2018年2月22日付記事 )。

「アングリーバード」に依存し過ぎた結果?

ロビオは2003年、フィンランド南部のエスポーで設立された。元々はナムコやEAなど大手ゲーム企業の下請けとして開発を手掛けていたが、経営難に見舞われていた2009年、「手元に著作権が残るゲーム」として開発した「アングリーバード 」が爆発的なヒットを記録。絶頂期に突入した2011年には「モバイル史上最も売れた有料アプリ」となり、関連商品を含めた総売上が5000万ユーロを突破した(WIRED2011年3月7日付記事 )。

続々と同シリーズを展開する中、昨年9月にはヘルシンキ証券取引所に上場。時価総額が10億ドルに跳ね上がるなど、まさに「飛ぶ鳥落とす勢い」という言葉がぴったりだった。しかし裏を返せば「アングリーバード」以外の人気作を生みだしていない—ということになる。表面的には順風満帆に見えたものの、水面下で投資家の懸念が強まっていたようだ。

ロビオの公表しているデータによると、引き続き好調だった2017年前半の調節後EBITDA(償却前利益)は総額4180万ユーロ(約54.8億円)。そのうちゲーム事業は前年比33.9%増の2250万ユーロ(約29.5億円)、ライセンス事業が24.3%増の2430万ユーロ(約31.8億円)だった。

FIMのアナリスト、アーロン・カーティネン氏は、「ゲーム市場の経済が情勢を変えた」点を指摘し、「アングリーバード」1本に依存するのでは数字が伸びるはずもないと冷静に分析している(フィナンシャルタイムズ紙2018年2月22日付記事 )。

投資家間でロビオへの猜疑心が強まった原因はもうひとつある。同社はIPO以降「沈黙期」と称して表立った動きを見せていなかった。これを「IPO以来コミュニケーションが悪くなった」と受けとめ、非難する声も一部から挙がっていた。しかし今回の株価暴落がロビオの「沈黙期」を打ち破り、同社は同日中に株主総会を開くとの声明を発表した。

課金システム採用をめぐりゲーム大手3社株が下落

ロビオの例ほど衝撃的ではないもの、一部のゲーム関連株は下落方向に傾いている。

「コール・オブ・デューティ」や「スタークラフト」「ギターヒーロー」を代表作にもつアクティビジョン・ブリザード、「ザ・シムズ」「メダル・オブ・オナー」で知られるエレクトロニック・アーツ(EA)、「グランド・セフト・オート」シリーズのテイクツー・インタラクティブ・ソフトウェアの株価が昨年11月、軒並み6%、3.6%、4%値を下げた。

「Star Wars バトルフロントII」自体がほかのEAのヒット作ほど消費者に受け入れられるかという疑問、 EAの新作アクションRPG「Anthem」のリリースが延期になったこと、テイクツー・インタラクティブ・ソフトウェアの第3四半期の売上高が予想を下回ったこと なども要因として挙げられている。

しかしEAが同月に発売を予定していた「Star Wars バトルフロントII」をめぐる論争が、投資家の懸念をあおったとの見方が最も強いようだ。「Star Wars バトルフロントII」に採用される予定だった課金システムには、広範囲から猛烈な非難の声が上がっていた。

課金要素はゲームの発売に合わせ、一時的に取り下げされることとなった。「スター・ウォーズの著作権を所有するウォルト・ディズニーからの圧力があった」と報じられている。

ハワイ州議員「子どもにギャンブルの悪習を教えこむカジノ」

課金システムそのものに関しては賛否両論が分かれるところだが、「Star Wars バトルフロントII」で採用される予定だった課金要素は、「より高額を支払ったプレーヤーが有利になる」と不公平さが指摘されていた。採用されれば、勝つためにお金を費やす子どもが増えるのは目に見えている—との懸念が強かった。

ハワイ州では民主党のクリス・リー議員などが「子どもにギャンブルの悪習を教えこむ、スターウォーズをテーマにしたカジノ」 と見なし阻止に立ち上がったほか、ウォールストリートもこうした「ゲーム産業の小口取引モデル」に対する懸念をあらわにしていた。ベンチマークアナリストのマイク・ヒッキー氏は、「ライブサービスによるゲームを販売するのであれば、まずはゲームにそれだけの価値があるかどうかを証明すべき」とコメントした。

ウェッドブッシュ・セキュリティーズのリサーチアナリスト、マイケル・パックター氏は、「EAが課金要素を取り下げたという事実は、ゲーム産業全体が産業挙動を見直すきっかけとなるだろう」とポジティブに受けとめている。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)