「時はその使い方によって金にも鉛にもなる」--。フランスの小説家、アントワーヌ・フランソワ・プレヴォの言葉だ。時間の使い方によって、仕事の質は様々に変わる。その方法を紹介しよう。

(本記事は、午堂登紀雄氏の著書『僕が30代で5億円の資産をつくれたのは、誰でもできるシンプルなことを大切にしただけ。』=かんき出版、2013年8月5日=の中から一部を抜粋・編集しています)

僕が30代で5億円の資産をつくれたのは、誰でもできるシンプルなことを大切にしただけ。
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

「時間密度」を凝縮させる

私がコンサルティング会社に勤めていたときのことです。

クライアント企業のある部長は、毎朝定時に出社するものの、最初にやることは新聞を広げ、コーヒーを飲むことでした。それから30分から1時間経ったところで、ようやく仕事に取りかかります。

もちろん、それでやるべき仕事が片付くのなら問題ありません。でも彼は、毎日残業をしていたのです。

こういう人、実は多いのではないでしょうか。

これを防ぐために、「時間密度」という発想を持ってみましょう。

これは、「24時間すべてみっちり詰めこむ」のではなく、単位時間あたりの処理スピードを上げ、「集中できるときに、集中してやるべきことをやる」という意味です。

そのほかの時間は、適当に気を抜いて流していてもいい、というのが「時間密度」の考え方です。

「残業をしないで、サクッと帰ろう」と思えば、昼間の時間の密度が濃くなります。でも、夕方5時過ぎてから、「まだこれからひと仕事しよう」と思えば、どうしてもダラダラとした時間の使い方になってしまいがちです。とりあえず重要な仕事を片付けてしまえば、あとは別に明日に回しても構わないでしょう。

「時間密度」の高め方

長時間労働をしたからいい仕事ができるのか、いいアウトプットができるのかというと、実際にはそれほど相関関係はなさそうです。

私自身、原稿を執筆するときも、集中してワッと書いたほうが、ダラダラと時間をかけて書いたときより、まとまりのある文章が書けますし、講演のレジュメや企画書も、短時間でまとめたほうが、メッセージが凝縮されたものができ上がります。

つまり先ほどの「時間密度」という発想を導入すると、「スピード」と「クオリティ」が両立できます。「早かろう、まずかろう」ではなく、「早くて、うまい」が実現するわけです。

「クオリティ」を上げるためには、時間をかけてやろうとするよりも、「時間密度」を上げる方向にもっていくのです。

具体的には、たとえば「これからの1時間は伝票処理タイム」「このレポートは30分で終わらせる」と集中的にやるべきことを定めます。

次に、携帯電話やスマートフォンのタイマー機能を使って時間を設定します。そしてヨーイドンでスタートし、一気に片付けるのです。

睡眠時間は削らない

「時間密度」を考えるうえで重要なことがあります。

それは、「集中力」です。

「集中力」がなければ、時間の「密度」は濃くはできません。「時間密度」を上げるために欠かせないエンジンが、「集中力」といえるでしょう。

そのためにも、私は睡眠時間だけは削らないようにしています。

よほどの締め切りに追われているとか、遅れると多大なる損失や迷惑をかけるという場合には寝不足でもなんとかなります。

しかし平時であれば、睡眠不足ほど大敵はありません。寝不足で頭がぼんやりしているときは、どんなに強固な意志をもってしても、「集中力」は高まりません。午後などはむしろ、生産性が下がってしまいます。

また、睡眠不足は前向きな情熱が維持できず弱気になったりネガティブな発想をしがちだということにも気がつきました。

タイムマネジメントとは、睡眠時間を削ってまで仕事を詰め込むことではなく、同じ時間内でよりよいアウトプットをすることです。

「集中力」を上げて、「時間密度」を高める最も重要な鍵は、「睡眠」が握っています。そのため私は、1日7時間から8時間は寝るようにしています。

時間をつくりだすとは、優先順位を変えること

よく耳にする「忙しくてそんな時間がありません」という言葉。

「英語を勉強したいのですが、忙しくて勉強している暇がありません」「スキルアップのために読書をしたいのですが、仕事に追われて時間がありません」とか。

しかし、もし自分の親が病気で倒れたら?

「忙しくて、病院に行っている時間はない」と言うでしょうか。ほとんどの人はすぐに飛んで行くはずです。

あるいは、宝くじの1等が当たっていて、今日が交換の最終日だとしたら?

「忙しくてそんな時間はない」と言うでしょうか。

私ならすべての予定をキャンセルして、風邪で熱が40度あっても、はってでも行きます。

つまり時間が「ある」「なし」は物理的な問題ではなく、その人の心の中での優先順位が高いか低いかの問題だけなのです。

「本当にやりたい」のであれば、どんなことにも優先してやるはず。

「時間がなくて、英語を勉強している暇がない」のは、「必要性を感じていない」「優先順位が低い」「面倒くさい」「ホンネではやりたくない」ということです。

だったら、初めから別のことのために時間を使ったほうが良いと言えます。

緊急度が低いものほど、重要度が高いことがある

私たちは、重要で優先順位が高いことを意外にも、後回しにしてしまいがちです。実際、重要なことのほうがいろいろ考えなければならないので、面倒なものです。

もちろん、それを自分で認識していればよいのですが、無意識のうちに、実はどうでもいいことを先にしていることがあります。これは長時間労働が習慣になっている人によくありがちです。

それを防ぐために、いま抱えている課題を座標軸に当てはめる、有名な考え方があります。

座標軸の縦軸を「緊急度」として、高い、低いに分けます。横軸は「重要度」にして、やはり高い、低いに分けます。

まず「緊急度」が高くて、「重要度」も高いAゾーン。これは優先順位が最も高いことがわかるので、誰でも最初にやるべきだと認識できます。たとえば、「顧客からのクレームが来たからすぐ対応」などがここに当たります。

その次にやりがちなのは、とかく「緊急度」が高くて、「重要度」が低いCゾーン。これは、「メールが来たからすぐ返事」といったことなどです。

しかし、本当に優先順位の高いものは、「緊急度」は低くても「重要度」が高いBゾーンです。

Bゾーンには、たとえば自分の5年後、10年後を考えて、「自分の生き方やキャリアを考える」といったことが入ります。

「5年後に、自分は何をして稼いでいるのか」「今の仕事をそのままやっていて、将来、本当に幸せなのか」「家族が増えたとき、どのような環境をつくっておくべきか」ということは、優先順位が高いでしょう。

とはいえ、今日明日にどうこうしなければならない問題ではない。というか、別にやらなくても、とりあえずは困らない。

それゆえ私たちは、これらを後回しにして、「緊急度」の高い目先のこと、つまりBゾーンよりCゾーンを優先しがちです。

でも、こういうことが将来ボディーブローのように効いてきて、20年、30年経ったあとに「あ、しまった」「もう手遅れだ」ということになりかねません。

「自分は今、何をやるべきなのか」というBゾーンの事柄を、常に意識の片隅に置いておくだけでも、これからの人生が違ってきます。

そうすれば、日々の忙しさにまぎれていても、思い出すことができる。自分の描いた道から外れれば、それに気づくことができるはずです。

可処分時間を増やす「並列思考」

1日24時間をそれ以上に増やすには、「並列思考」で自分の行動を組み立てることです。

たとえば、家事をするとき、掃除機をかけてから洗濯機を回すか、洗濯機を回しながら掃除機をかけるかで、家事に要する時間が変わるでしょう。

これと同じで、業務日報を書いてから、明日の会議の資料をコピーすると、コピー機の前で待ち時間が発生しますが、コピーをかけてから業務日報を書けば、日報を書き終わったころにはコピーも終わっています。

自分の仕事を終えてから相手にメールで依頼するよりも、先にメールを投げておいて、返信を待っている間に自分の仕事に取り掛かれば、それが終わった頃に相手からの返事が来ますから、待ち時間が短縮されます。

これを私は「並列思考」と呼んでいますが、要するに“ながら”の技です。

移動時間はただ移動にだけ費やすのではなく、電車の中なら本を読む。タクシーなら携帯で打ち合わせをするなど、移動と他のことがセットででき、時間が2倍になります。自分の使える時間である「可処分時間」を増やすには、並列思考が有効です。

これに対して、一定の時間に同じことを集中してやるのは「直列思考」です。

たとえば、この時間は伝票入力を一生懸命やろうとか、この時間は原稿書きに集中しようとか、この時間はメール返信に費やそうなどと、あることを集中してやるのが「直列思考」です。

ノッているときは、「直列思考」でやること。就業時間を過ぎていても、休日であっても、締め切りがかなり先であっても、徹底的に「直列思考」でやりましょう。ノッているときに進めてしまえば、〝時間の貯金〟ができるので、あとがラクです。

コストパフォーマンスからタイムパフォーマンスへ

映画を観に行って、とてもつまらなかったとします。この場合、あなたが損した金額はいくらでしょうか?

映画代の1800円?

いえ、違います。1万2000円の損です。

年収500万円のサラリーマンの時給を約2500円とします。仮に自宅から映画館までの往復が約2時間なら、上映時間の2時間と合わせて、合計4時間を費やしていますから、2500円×4=1万円。それに往復の交通費を加えると、1万2000円以上の損というわけです。

私たちはお金を投下するとき、コストパフォーマンス(費用対効果)を重視します。

お金は減れば目に見えますが、時間は見えないので、どうしても軽視してしまうのでしょう。

もちろん、コストパフォーマンスとタイムパフォーマンスは、それぞれが置かれた立場や状況、社会的なステージによっても異なります。

たとえば収入が少ない人にとっては、相対的に時間よりお金の優先順位が高くなるし、収入が多い人にとっては相対的にお金より時間の優先順位が高くなる、ということはあるでしょう。

しかし、お金は失ってもまた稼げばいいだけですが、失われた時間は取り戻すことができません。

そこでこれからは、タイムパフォーマンス、つまり時間対効果についても意識してみることが大切です。

見切る勇気を持つことが大切

先のタイムパフォーマンスの考え方でいくと、「迷わない」「決断力の速さ」「見切る勇気」が重要になってきます。

とにかくあれこれ迷うよりも、まずやってみる。その場合、自分なりに判断基準というか、仮説を持っておくと意思決定スピードが上がります。

たとえば、食事する店を選ぶとき、メニューの写真がしっかりしていれば、すぐに入ります。というのも、飲食店にとっての商品は「料理」ですから、そのプレゼンテーション手段であるメニューの写真を丁寧に撮っているということは、自らの商品を大事にしているということ。そんな店の料理なら、きっと美味しいだろう、という仮説です。

それで入ってみて、雰囲気が悪かったり、味が美味しくなければ、すぐに店を出て別の店に行けばいいのです。そして自分の仮説を修正していく。

それを繰り返すと、瞬時でも、大きく外さない意思決定ができるようになります。

映画やレンタルDVDも、ちょっと観てつまらなそうだったら、見切ってパッとやめる。

「お金を払ったからもったいない」といって最後まで付き合うのは、お金と時間のダブル損になります。

であれば、損失はお金だけに食い止めるほうがトクというものです。

ビジネスは走りながら軌道修正する

仕事に、完璧な準備などありえません。

どんなに周到な準備をしていても、走り始めてみると、まったく別の方向に転換しなければならないことはよくあります。

軌道修正を迫られる可能性があるなら、準備や計画に必要以上に時間をかけるのではなく、見切り発車でもよしとする姿勢を持っておくことです。

新規事業はまさにその繰り返しで、計画どおりうまくいくほうが珍しいものです。

事業計画書の作成を推奨するコンサルタントや起業セミナーは、ほとんど当てにはなりません。だってそんなものは結果的にムダになるから。

だから私は新しいビジネスを立ち上げる時、事業計画書なんて作ったことはありません。キャッシュフローを把握して資金ショートさえ起こさなければ、走りながら軌道修正したほうが、結果として儲かるようになります。

1年間を調査と計画に費やして、次の1年で一巡させるようなのんびりとした時間軸ではなく、1日でプランニングし、1週間で一巡させる。それによって、前者の52倍の経験値が得られます。

たとえば、週の前半に新しいセミナーの企画を思いついたら、すぐに週末の貸し会議室を押さえ、告知文章を考える。その日の夜には集客用ウェブサイトをアップし、募集を開始。メールマガジンやブログでも告知する。そして土曜日にセミナーを開催して資金回収。終了後は課題を洗い出し、次の企画や集客のための参考とする、というふうに。

他人が1年間で経験することを、自分は1週間で経験する。他人が10年間で得られるノウハウを、自分は1年間で身に付けるのです。

自分にとって充実した時間を生みだす

私たちは「効率的」という言葉にとかく惑わされがちです。確かに「効率化」は重要。では、それをやった先には、自分が目指すものが手に入るのか?

私たちは、基本的には撒いた分しか刈り取ることができません。では自分は、何を撒いているのか?それは本当に刈り取りたいものなのか?

時間をムダにしないように動き回り、少しでも効率よく進めることを目的にしてしまうと、「目の前のこと」だけに振り回されて、忙しいだけで終わり、ということになりかねません。

また、面倒くさいことから避けるために、「それは非効率的だ」と主張してしまうことがあります。

本当はやるべきことはわかっているけれども、それは面倒だからやりたくない。自分が大変になるのがイヤだ。これ以上忙しいとか仕事が増えるのはイヤだ。もっとラクな方法がいい。

だから効率的じゃないと思ってしまう。

しかし面倒な方法を除外すると、効果のある方法は残らないものです。だから結果も出ない。

会社にとって効率的で生産性の高い従業員であることと、自分にとってそうであることとは必ずしもイコールでないということを意識したいものです。

午堂登紀雄
不動産コンサルタント。米国公認会計士。1971年、岡山県生まれ。中央大学経済学部卒業後、会計事務所を経て大手コンビニ企業に就職、経営コンサルタントとして活躍。2006年、不動産コンサルティングを行う株式会社プレミアム・インベストメント&パートナーズを設立。現在は、経営者兼個人投資家としての活動のほか、講演も多数行ない、資産は5億円を超える。