Appleが10億ドルを投じオリジナル動画配信サービスを本格的に始動させる。

ソニー・ピクチャーズ・テレビジョンのエクゼクティブや「ラ・ラ・ンド」のデイミアン・チャゼル監督、「シックス・センス」のナイト・シャマラン監督を迎えいれ、主演にはジェニファー・アニストン氏を含む人気ハリウッド女優を起用するなど、豪華なスタートとなりそうだ。

Appleという台風の目に対抗すべく、Netflixは年内に合計700本ものオリジナル番組配信を計画、ウォルト・ディズニーは21世紀フォックスやBAMTechを買収している。

「動画トラフィック(通信情報量)が2021年までに全インターネットトラフィックの82%を占める」と予想される今、動画配信でトップに躍り出るのはどの企業になるのだろう。

Apple、ライバルを圧倒する滑りだしとなりそう

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(画像=Shutterstock/Andrey_Popov)

2017年6月、ソニー・ピクチャーズ・テレビジョンで10年以上キャリアを積んだベテラン、ザック・ヴァン・アンバーグ氏とジェイミー・アーリック氏を引き抜いた時点で、Appleが動画配信サービス市場への参入を重要視していることは明白だった。

両者はケーブルチャンネルAMCの人気テレビシリーズ「ブレイキング・バッド(2008~13年放送)」、ソニー・ピクチャーズ・テレビジョンが製作したNetflixの「ザ・クラウン(2016年~)」の製作に携わった人物である。

Varietyが2018年2月27日に報じたとこによると、最新の動きとしては、「シックス・センス(1999年製作)」や「アンブレイカブル(2000年製作)」で知られるインド系米国人の映画監督M・ナイト・シャマラン氏を起用。英国アカデミー賞テレビ部門 ドラマ・シリーズ賞にノミネートされたことのある脚本家トニー・バスギャロップ氏とともに、心理スリラーシリーズの製作に着手する。

1本30分のテレビシリーズ10話分を製作する予定で、第1話ではシャマラン氏がエクゼクティブ・プロデューサーのほかディレクターも担当する。シャマラン氏は以前にもFoxのオリジナルコンテンツとして、「Wayward Pines」の製作を手掛けた。バスギャロップ氏は同じくFoxの「24:レガシー」などに脚本を提供している。質の高い番組が完成することが期待できそうだ。

Appleは、ほかにも「ラ・ラ・ランド」を大ヒットに導いたデイミアン・チャゼル氏を監督に、ジェニファー・アニストン氏、リース・ウィザースプーン氏を起用したドラマの製作を発表している。さらには1985 ~87年にかけて世界的なブームを巻き起こした、スティーヴン・スピルバーグ氏の「世にも不思議な物語」の新作版製作も検討中など(CNN2017年11月8日付記事)、ライバルを圧倒する滑りだしとなりそうだ。

Appleは「Netflix」の買収時期を逃した?

動画配信サービス市場では、すでにNetflixやウォルト・ディズニー、Hulu、Amazoなど大手が熾烈な戦いを繰り広げている。ライバルと互角に戦うために、強力な武器となる一流陣を勢揃いさせたのは間違いない。

AppleによるNetflix買収説は依然としてくすぶっているものの、最近は「時期を逃した」との見方が強まっている。世界中で視聴者が200万人に達したNetflixの時価総額は、2018年3月4日現在1260億ドルを突破。オリジナルコンテンツに本腰を入れ始める前―2014年頃が買い時だったのかもしれない。いくら海外に保有している総額2523億ドルの国内還流を計画しているAppleでも、巨大化したNetflixを買収するほどの余裕があるかと問われると疑問が残る。

Netflixは年内700本のオリジナルコンテンツを作成

Netflixの立場で考えても、身売りする理由が見当たらない。今年は80億ドルを投じ、世界各国で合計700本ものオリジナル番組の配信を予定している。かなり無謀な数字に思えるが、そのうち80本は英語以外の言語で製作されると聞くと納得がいく。多様な視聴者をターゲットにする意図だが、国内製作の負担も軽減されるはずだ。そのほかオリジナル映画の製作も80本予定していることが、テッド・サランドスCCOの発言から明らかになっている。

モルガン・スタンレーのテクノロジー・メディア・通信カンファレンスに参加したデヴィッド・ウェルスCEOは、「オリジナルコンテンツを充実させるという戦略が自社の成長を促している」とし、今後もさらに番組数を増やす意向を示した。

昨年夏には「グレイズ・アナトミー 恋の解剖学(2005年~放送)」などを手掛けたABCのベテランプロデューサー、ションダ・ライムズ氏と契約を結んだほか、今年2月には「glee/グリー(2009~15年放送)」のライアン・マーフィー氏から5年間の契約を獲得した。 しかしコンテンツ製作にのみ投資するのではなく、今年はマーケティングにも目を向ける。昨年から50%予算を引きあげ、20億ドルを投じる意気込みだ。

ディズニーは巨額を投じて21世紀フォックスやBAMTechを買収

昨年8月、2019年の動画配信サービス開始発表とともに、Netflixに提供してきた一部の映画の独占放送権の打ち切りに踏みきったウォルト・ディズニー。

動画配信市場へ本腰をいれるべく、16億ドルを投じてMLB のストリーミング会社BAMTechの保有株を33%から75%に増やした。年末には21世紀フォックスの大半の事業を総額540億ドルで買収している。これにより21世紀フォックス傘下にあるHuluの株も取得することとなった。

年内放送開始を予定しているESPNの新動画配信サービス「ESPN Plus」は、月額4.99ドルと手頃な価格でより多くの視聴者にアピールする狙いだ(CNN2018年2月6日付記事)。

Amazon Primeの存在も無視できない。会員数は昨年6月の時点で米国だけでも推定8500万人(コンシューマー・インテリジェンス・リサーチ・パートナーズ調査)。そのうち65%が定期的に動画配信サービスを利用している。ライバルほどストリーミングやオリジナルコンテンツに力を入れていないものの、大化けしないとは断言できない。Amazon はAppleと提携し、昨年末から世界100カ国・地域でPrimeの動画サービスをApple TV に提供している。

シスコは昨年9月に発表した報告書の中で、動画トラフィック(通信情報量)が2021年までに全インターネットトラフィックの82%を占めるようになると予想している。Appleの本格参入が、台風の目となりそうだ。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)