● 米ドルLiborの上昇が続く。3/29時点で2.3%と、リーマンショック後最高。米政府の財政拡大に伴う短期国債増発や、日・欧の金融機関の米国拠点での短期資金調達等の影響とみられる。

● これは昨年比では1%、前々年比で2%もの上昇。銀行への影響は限定的だが、企業の利払い負担増は必至。日本企業の米ドル建て債務は約100兆円で、昨年比最大1兆円の利払い負担増。

● Libor基準の取引は世界合計で3京7千兆円。FRBは4/3からLiborに代わる指標SOFRの発表を開始、英BOEもこれに続くが、利用は進みそうにない。Liborが更に上昇した場合、日本企業の海外投資意欲や邦銀の外貨運用に水をかける可能性もあり、当面注意が必要。

米ドルLiborの上昇大

金融テーマ,米ドルLibor
(画像=Vintage Tone/Shutterstock.com)

企業が米ドル建てで借りる時の基準金利となるのが、「米ドルLibor」である。この上昇が始まったのは年始だったが、2月以降さらに上昇が加速した。3月29日時点で2.3%と、リーマンショック後で最高水準となっている(図表1)。

Liborを基準にして取引されている金額は、融資や、デリバティブ取引など、世界合計で350兆ドル=3京7,000兆円にも上ることから、さまざまな影響が懸念されている。

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(画像=マネックス証券)

Liborは、政策金利の上昇に影響を受ける以外に、需給要因で、ドル建ての資金調達ニーズが増えると上昇する。Libor上昇が続いているのは、財政拡大に伴い米政府が短期国債を増発していることや、欧州等の外国金融機関が米国拠点で資金調達を増やしていることなどが影響しているとされる。

米国では、連邦歳出の増大が見込まれるなか、国債発行の拡大が予想される。因みに、3月最終週は、2,940億ドルと過去最大規模の入札が行われた。

もう一つの理由が、金融機関による短期の資金調達の増加である。年初から、コマーシャル・ペーパー(CP)や譲渡性預金(CD)の発行額が急増している(図表2)。これは、米国が税制改革で1月からスタートした「BEAT」と呼ばれる特殊な税制の影響とも言われている。

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(画像=マネックス証券)

すなわち、これまでは、米国で営業する外国企業(例えば邦銀のNY支店など)が、海外(邦銀なら日本など)から資金を貸出した場合、その金利は経費となるため、米国内の税金を安くできた。こうした米国での税金回避を防止するため、新税制では、海外に支払う金利に対し、米国内で課税されることに変更された。税率は、支払い利息額に対し、初年度で5%(事業法人)から6%(金融機関)とされている。

もし、米国内で米ドルで調達すれば、その借入金利は、通常の扱い通り経費となるので、この新たな税金はかからない。このため、米国外からの送金に変えて、米国内でのCP発行を活発化したとみられている。

邦銀への影響は軽微

邦銀収益への影響は、総じて軽微と思われる。まず外貨建て貸出については、Liborは調達コストでもある一方、米ドル貸出のベース金利になっている。このため、Liborが上昇してもドルの市場調達と貸出の金利は概ねパラレルに動くので、さほど大きな影響はない。むしろ、三菱UFJフィナンシャルグループ <8306> のように、金利変動が少ないドル預金を比較的多く保有している場合、海外預貸利鞘に若干プラスと思われる。

また、外債投資については、固定利回りでの運用に対して調達コストが増加するため、マイナス影響がやや大きいが、期末にかけてかなり残高は落としたとみられる。

一方、企業の場合、Liborの上昇は、調達コストの増加が重石となりうる。日本企業の米ドル建て債務は約100兆円に上り(図表3)、昨年比1%の金利上昇で最大1兆円の利払い負担増となりうる(固定金利調達部分への影響は後ずれする)。Liborが更に上昇した場合、日本企業の海外M&Aや設備投資意欲に水をかける可能性もありうるだろう。海外事業を成長戦略の柱にしている企業については、計画の見直しにも注意が必要となろう。

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(画像=マネックス証券)

Liborに代わる指標の公表開始。しかし当面利用は進まない見込み

なお、Liborは、3年後の2021年に廃止となる。Liborは主要銀行から報告された自行の調達金利の平均を取って決められているが、2008年の金融危機時、銀行が不正操作を行っていたとして摘発された。これを受け、2017年7月、2021年にLiborを廃止し新しい指標に置き換えるという方針が当局から示された。

新しい指標として、ドル建て取引については米FRBがSOFR(Secured Overnight Financing Rate)を、ポンド建て取引については、英BoEがSONIA(Sterling Overnight Index Average)をそれぞれ発表する予定である。ユーロについても類似の指標を策定するとみられる。

FRBは、早くも4月3日からSOFRの発表(ニューヨークの毎朝8時)を開始する。SONIAも4月24日から発表(ロンドンの毎朝9時)する予定だ。これらは、いずれも翌日物であり、現在のLiborよりは低い金利となりそうだ。また、Liborのような3か月、6か月物などはないため、利用する金融機関がタームのプレミアムを上乗せする必要があるなど、利用方法も大きく変わってくるとみられる。

Liborからの別の指標へのシフトは、金融業界の最も大きな改革の一つになるだろう。逆に、大規模なであるだけに、SOFR、SONIAなどの新指標が発表されても、一足飛びにシフトするというわけにはいかない。当面、市場はLiborに振り回され続けるだろう。

新年度に入ればLiborの上昇ペースは落ち着くかもしれない。しおし、政策金利の引き上げが続く中、反落に転じるとも考えにくく、当面、企業の海外投資計画、銀行の資金運用方針等への影響を注視する必要があるだろう。

大槻 奈那(おおつき・なな)
マネックス証券 チーフ・アナリスト

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