相対する人の心を読む「メンタリスト」としてテレビ番組等でも著名なDaiGo氏は、読書家で心理学の知見にも富んでいる。本書はこれまでモノを極限まで減らすミニマリストや断捨離の本を読んでも片づけが継続しなかった人にうってつけだろう。自分の豊かな理想の生活を分析し、そのために必要なモノを残すという「思想」を身に付けることができるからだ。
新聞を読む時に読まない記事に全部バツを付けて、残った記事を最期に読む人はいない。要らないモノを選別するのではなく、本当に必要なモノを選択するのだ。単なる片づけのテクニックの紹介ではない。片づけを通して満ち足りた空間を実現、迷う時間、探す時間、管理する時間を削減し、結果として豊かな人生を実現する「アドバイス書」である。
『人生を思い通りに操る 片づけの心理法則』
著者:メンタリストDaiGo
出版社:学研
発売日:2017年 11月 22日発売
片付けでモノを削減、時間を産み、時にアウトソース活用して豊かな人生造り
迷う時間、モノを探す時間、管理する時間を減らして、そのぶん自分がやりたいことを実現できるようにする。これが片づけの本当の目的だという。
仮に1日10分、片づけに費やしているならば、年間で3650分、丸2日半も費やしていることになる。またビジネスマンが探し物に費やす時間は年平均150時間だという。整理に手間がかかったり、メンテナンスが面倒なモノを減らすことで、大きな時間を生むことができるわけだ。
有料会員の動画配信を行い1回配信すると、20-50名の新規会員の加入があるDaiGo氏にとって、配信時間の効率化は重要だ。以前はパソコン起動、カメラ・マイク接続をしていたが、iPhoneを取り出すだけでいつでもどこでも気軽に配信できる環境に変えた。準備時間を最短にする目的のためにモノを減らして時間を得ることで、新規会員増加による収益を得る。また海外では配信可能なWi-fi環境が整った1泊10万円の部屋を使うという。
アウトソースの活用では時にプロへの良いサービスを支払い、時間や集中力、そこで自分が産み出す価値を計算すれば、かえって得になることもあるという。生産性の高いビジネスプロがパーソナルジェットを利用し「時間をお金で買う」メリットと共通する考え方を感じる。
片付くファッションのコツは「テーマ」、スーツと靴は4点に
アップル創業者のスティーブ・ジョブズは、普段からイッセイミヤケの黒いタートルネックばかりを着用し、何を着ようか迷う時間は無かったハズだ。我々ビジネスマンはファッションにテーマを持たせるとクローゼットが片づき衣服選択の時間短縮となる。同意見の筆者はモノトーンと紺・青をベースカラーに差し色を加えている。統一性があるので組み合わせを変えてもどれもマッチする。また自身のイメージ確立にも役立っていると考えている。
会社に着ていくスーツ、それに合わせる靴などは4点ずつ用意する。干すだけでシワが伸びる形態安定シャツを選ぶなど、メンテナンスの手間をなるべく省くモノをチョイスすべきという。
片づけの本で時々見られる、「ミニマリスト的思考」、服は一着、タオルも1枚で毎日洗濯、モノは減らせば減らすほどいい、という考え方に筆者は違和感を感じ、そのような片づけは長続きしないとかねてから思っていた。本書ではモノには適正な分量があり、モノが減ってもその分時間が減ったり、快適さが失われたりするのでは豊かな人生ではないと記されている。自分はいくつの数量の衣服を持っていれば幸せかを考えて、それに従うべきと説かれている。自分で決定した数量ならば無理なくスリム化ができると思う。
モノを捨てる2つの発想「大富豪思想」と「1イン2アウト」志向
自分が損をすることを恐れる「損失回避」や、一度保有したモノに価値を感じてしまう「保有効果」がある。それを回避する結果、モノが捨てられない「現状維持」に落ち着いてしまう。心理学的な裏付けから、モノが捨てられないメカニズムを紐解いている。
モノを減らす考え方のうち二つの方法は特に印象深い。一つは「大富豪思想」で、お金が無限にあったら本当にこれを買うか?もっといいモノを買うのではないかと考える。もうひとつは、1つモノを手に入れたら、入れ替わりに2つのモノを処分する「1イン2アウト」だ。この2つを実践すれば、自分の所有物を2つ手放しても新たに欲しいモノかどうか、お金持ちが一生モノを選ぶように、冷静な判断をすることで衝動買いが抑えられるだろう。
マニュアル本を試してみても付け焼刃で通用しない事例がある。例えば就職・転職活動では丸暗記して、面接に臨んでも人事担当者はお見通しである。対して自分自身を自己分析した者が語る言葉には重みがある。本書は自己分析を行い、自分自身にとって何が幸せか、何を選択すべきかを心に刻むためのアドバイスの書である。単なる片づけのテクニックではなく、自身で行動を決めるからこそ、劇的にモノが減り片づけに成功するのだ。「人生を切り拓くヒント」は過言ではない。
安東隆司(あんどう・りゅうじ)
RIA JAPANおカネ学株式会社代表取締役。CFP®ファイナンシャル・プランナー、元プライベート・バンカー。日米欧の銀行・証券・信託銀行に26年勤務後、独立。お客様サイドに立った助言を実践するためには高い手数料は弊害と考え、証券関連の手数料を受け取らない内閣総理大臣登録の「投資助言業」を経営。著書に『個人型確定拠出年金iDeCo プロの運用教えてあげる!』等がある。