猫人気がとどまる気配がない。2017年には猫の飼育頭数が犬を上回った。そんな人気者の「ねこ」は金融市場にも登場する。世界のマーケット(金融市場)において、「CAT(ねこ)」 といえば何を思い浮かべるだろうか?
株式市場の「ねこ」とは?
株式市場の世界で「CAT」といえば、ニューヨーク証券取引所に上場しているキャタピラー社だろう。「CAT」は、同社のティッカー・シンボル(銘柄コード)だ。
重機メーカーである同社は、1991年からアメリカを代表する企業で構成されるダウ平均株価の銘柄の一つとなっている。創業初期から業界1位の座を維持しており、足元でも業績は非常に良好だ。今年1月25日に発表された2017年10-12月期の決算では売上高が前年同期比35%増となり、市場予想を大きく上回った。北米と中国での売上が特に好調で、2018年もさらなる受注増を予想していた。
しかし株価の方は軟調な値動きとなっている。今も2017年10-12月期決算前の水準を下回ったままだ。2月初めの世界的な株価急落以降、株式市場が荒っぽい動きを続けている影響が大きいが、それとは別に気がかりな個別要因もあるだめだ。それは、トランプ政権が3月初めに発表し、3月23日に発動した鉄鋼とアルミニウムの輸入品に対する追加関税だ。当初は対象国に例外を設けないとしたが、発動時点ではEU加盟国やカナダ、ブラジル、メキシコなどが当面除外されることとなった。
正確な影響はもう少し様子を見ないとわからないが、鉄鋼とアルミを原材料に使うキャタピラーにとっては歓迎できる話ではもちろんない。さらにトランプ大統領は3月22日、中国が知的財産侵害をしているとして最大600億ドルの中国製品へ高関税をかける大統領令に署名した。
逆に4月2日には中国が米国からの輸入品に対して報復関税を発動するなど、まさに貿易戦争のような様相を帯びてきた。事態が何らかの形で収束するとしても時間はかかり、キャタピラーの株価も上値の重い展開が続く可能性が高いだろう。
富裕層が好む「債券市場のねこ」とは?
では、債券でCATといえば何だろうか?実は、CAT債(キャットボンド)というものがある。このCATは 「Catastrophe」の略で、日本語では「大災害」を意味する。主に保険会社などが発行する債券だが、利回りは同じ格付けの企業が発行する普通社債よりも高い。その代わり、投資家は保険会社に代わって自然災害のリスクを一部引き受けることになる。
どういうことかと言うと、そのCAT債が償還するまでの間に大きな自然災害がなければ、投資家は高めの金利を受け取り、償還時には投資元本の払い戻しを受けることができる。一方、自然災害によって一定以上の保険金支払いが発生した場合には、CAT債の元本は毀損することとなり、投資家に大きな損失が発生するという仕組みなのだ。
このCAT債は、1994年にドイツのハノーバー保険会社が発行したのが最初だと言われており、機関投資家や一部の富裕層の間では従来から人気がある。投資の主なリスクが自然災害であるだけに、経済状況や政治状況などにはほとんど左右されることがない。
いわゆる伝統資産と呼ばれる株式や普通債券、または不動産を金融商品化したREITなどとは全く違う値動きが期待できるのだ。また近年では目立った自然災害がない時期が続き、CAT債で投資家が大きな損失を被る例も余り見られなかった。このため、世界的な低金利で運用に頭を悩ます多くの機関投資家が、更に資金を振り向けていたようだ。
しかし、「天災は忘れたころにやってくる」もの。再保険世界大手のスイス再保険(スイス・リー)によると、2017年の災害による世界の損失額は3060億ドル(約34兆7000億円)に達した。カリブ海地域を襲った「イルマ」を初めとする一連のハリケーンや、カリフォルニア州での山火事、さらにメキシコでの大地震などが影響したとされる。損害額は2016年から63%の増加で、過去10年間の平均をはるかに上回ったという。
実際、3月4日付の日本経済新聞の記事によると、大手企業年金の3割前後が買うほどに人気化していた「保険リンク証券」のファンドの一つが、昨年4~12月にマイナス12%の成績に陥ったという。
「保険リンク証券」というのは、CAT債のように災害リスクを引き受ける一方で高めの利回りを受け取る種類の金融商品。こうした保険リンク商品は、それより前は年3%前後のリターンを出していたと記事は報じた。しかし、保険リンク証券の裏付けとなっている個別の保険契約の中には、まだ支払保険料が確定せず、そのため損失が固まらないものもあると思われる。まだ損失が膨らむ可能性もありそうだ。
為替市場の「ねこ」とは?
「NEKO」あるいは「CAT」という単位の法定通貨は、(私の知る限り)ない。しかし仮想通貨の世界では、「Catcoin」や「blockCAT」、「BitClave(CAT)」といったものがあるようだ。どうも仮想通貨の世界でも猫は人気らしい。しかし、まだどれも資産として認められるだけの安定性や流動性を備えたものは誕生していない。むしろ、仮想通貨に関しては世界的に規制強化を探る流れとなっているため、今後淘汰されるものも増えてくるだろう。
世の中は相変わらずの猫ブームで、猫グッズも大いに売れている。マーケットの猫たちにとっての2018年戌年の前半は、なかなかに厳しいようだ。
北垣愛
国内外の金融機関で、グローバルマーケットに関わる仕事に長らく従事。証券アナリストとしてマーケットの動向を追う一方、ファイナンシャルプランニング1級技能士として身近なお金の話も発信中。ブログでも情報発信中。