雇用主を対象とした調査から、2018年にMBA取得者を雇う予定の雇用主が7割を超えていることが分かった。ビジネス経験の豊富な者やバカロレア取得者を求める雇用主は8割を超えた。

その一方で「一流のMBAを取得していない限り、あまり恩恵を受けられない」「MBAよりも短期間集中コースの方が効果的」との報告もある。MBAを含むスキルの他に企業が重視する5つの能力を身に付けることが、取得後のキャリアアップに必要となりそうだ。

バカロレア取得者の需要は変動なし MBAが追い上げる?

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世界の経営大学による非営利組織Graduate Management Admission Council(GMAC)は、2017年11月に93人の雇用主を対象とした調査を行った。その結果、雇用主の83%が「2018年はビジネススクール生を雇用する」ことを計画していることがわかった。

2017年にMBA取得者を採用した雇用主は69%、2018年の新規雇用を予定しているのは72%。経験者(2017年採用86%、2018年予定92%)およびバカロレア取得者(各88%)を下回るが、成長率では変動なしのバカロレア取得者を上回っている。

調査に協力した人材採用担当者は「修士取得者の需要は拡大するが、バカロレア取得者の需要は縮小する」と予想している。

2017年には一般的な人材と専門的な知識や技術を持った人材を求める割合が均等だったが、2018年は専門的な知識や技術を持った人材(40%)の需要が、一般的な人材(28%)を超えている。MBA取得者への需要が3ポイント増えた要因は、この辺りにあるのだろう。

その一方で国外からの人材確保を予定している雇用主は28%と、2017年から9ポイントも減った。トランプ政権誕生後の移民規制の影響が、色濃く表れているものかと思われる。

技術とリーダーの素質育成を提供するMBA

MBAがキャリアアップに役立つことは、多数の経験談で立証されている。例えばHEC経営大学院のMBA取得者の約80%は、大手企業に就職している。

これらの企業は革命的な商品を開発する上で戦力となる、経営スキルを身に付けた人材を常に探している。

技術面だけを重視するのであれば専門的な修士号者を雇用するだけで十分だが、HEC経営大学院MBAプログラム責任者アンドレア・マジーニ氏は「技術だけではなくリーダーの素質も重視されている」と指摘。「技術とリーダーの素質の両方を備えたプログラムを提供しているのはMBAのみ」と強調している。(フィナンシャルタイムズ2018年3 月26日付記事)。

一流のMBAしか価値はない?2割が「所得に変化なし」

企業が最も強く求めているのは依然として経験者やバカロレアだが、MBAがそれを追い越す日は来るのだろうか。

「MBAを重視する企業が減っている」という反対派の意見もある。南アフリカに拠点を置く国際的ヘッドハンティング会社Jack Hammer の責任者デビー・グッドマン氏は、多くの求職者がより高度な資格を取得しようとしているが、「一流の国際ビジネススクールのMBAでない限り、有利な要素はない」と述べている(Economist2016年6月13日付記事)。MBAプログラムを提供する経営大学が増えたほか、オンラインでもMBAを手軽に取得出来る近年、MBAの真の価値が問われている。米国では、MBA プログラムを提供する経営大学の数は1970年代の7倍に増えており、2010年以降は年間約20万人がビジネスの修士号を取得している。

選択肢が増えた分、価値が下がったということだろうか。「履歴書にMBA取得と書いただけでは、企業に好印象を与えることは出来ない」というのが、グッドマン氏の経験に基づく意見だが実施した調査では、MBA取得者の20%が「取得後も所得が変わらない」と回答している。

1カ月の短期集中コースでMBAと同等の効果?

米コンサルティング企業Xeric Corporation のマーク・シェッド社長は、自身もハーバード卒という高学歴にも関わらず、MBA取得者の雇用反対派のひとりだ。シェッド社長は「MBAを取得しているかいないかに惑わされるのではなく、求めている人材そのものに目を向けるべき」 と、近年のMBAという資格のみに価値を与える風潮を批判している。

MBA取得には通常2年を要するが、シェッド社長いわく「MBAで学ぶあらゆる知識を1カ月で直接教え込む方法があれば、MBA取得者は重宝されないのではないか」という。

またボストン・コンサルティング・グループを含む複数の大手コンサルティング企業がMBAを取得していない新人を雇い、短期集中ビジネスコースを提供した結果、MBA取得者と同じ、あるいはそれより高い水準の成果があったことを一例として挙げている(Productivity501より)。

MBAだけでは不足?企業が求める5つの能力

フィナンシャルタイムズ2017年8月31日付記事によると、企業はMBAの他に「幅広い層の人々と仕事が出来る能力」「時間の管理・優先順位付けが出来る能力」「デジタル化が事業に与える影響への理解力」「人間関係を築き、維持し、広げる能力」「複雑な問題を解決する能力」なども求めている。これからMBA取得を目指す人は、プラスアルファの能力を身に付けることも意識するとよいかもしれない。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)