はじめに

厚生労働省
(画像=PIXTA)

団塊世代全員が75歳以上の後期高齢者となる2025年に向けて医療・介護分野における改革が進められている。

2018年は、診療報酬・介護報酬の同時改定(1)、第7次医療計画、第7期介護保険事業(支援)計画、第3期医療費適正化計画の策定、国保の財政基盤の都道府県への移行が同時に行われる予定だったため、制度をまたぐ改革が行いやすいことで注目された。

今回の改定等は、2013年に「社会保障制度改革国民会議」で示された医療と介護の提供体制の改革に基づいて行われた。すなわち、寿命が延び、高齢期の慢性疾患が増加した現在に必要な医療体制は、これまでの青壮年期の疾患に対して、救命・延命、治癒・社会復帰を前提とする「病院完結型」のものではなく、病気と共存しながらQOLを維持することと、それを支える地域体制づくりといった「地域完結型」に移行すべきであるという考え方に従ったものになる。

本稿では、前稿「医療・介護分野における2018年に向けた制度改革の動向(2)」に続き、「社会保障制度改革国民会議(3)」で示された医療・介護分野における改定の2017年度下期の動きを紹介する。

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(1)診療報酬改定は2年おきに、介護報酬改定は3年おきに改定されており、6年に1回同時改定となる。
(2)村松容子「医療・介護分野における2018年に向けた制度改革の動向」保険・年金フォーカス、2017年9月26日
(3)社会保障制度改革国民会議は、社会保障・税一体改革を契機に創設された。

2017年度の主な改定

◆診療報酬改定

2018年度における診療報酬改定幅は、診療報酬本体+0.55%、薬価▲1.65%、材料価格▲0.09%となった。今回の改定は、以下4点を推進するものである。

(1)地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進
かかりつけ医、かかりつけ薬局の推進、病床機能や患者の状態に応じた入院評価等を推進する。

かかりつけ医の普及を進める方策や外来時の定額負担のあり方については、選定療養による定額負担の対象の見直しのみが診療報酬改定に組み込まれ、残りの論点は引き続き検討される(2018年度までに検討予定)。争点となっていた紹介状なしの受診における定額負担の対象医療機関は、これまでの「500床以上」から「400床以上」に拡大された。(経済・財政再生計画改革工程表の項目番号②、⑨、㉒iii、㊲に対応)

(2)新しいニーズにも対応でき、安心・安全で納得できる質の高い医療の実現・充実
小児医療、周産期医療、がんの緩和ケア、認知症、精神疾患等の重点的な対応が求められる医療分野の充実を図る、遠隔診療時のオンライン診療に対する報酬を新設した。

(3)医療従事者の負担軽減、働き方改革の推進
2018年2月に厚生労働省で「医師の働き方改革に関する検討会 中間的な論点整理」がまとめられた。労働時間管理の適正化、既存の産業保健の仕組み(労働安全衛生法に定める衛生委員や産業医等)の活用、他職種への一部業務の移管、出産・育児や介護等のライフイベントでキャリア形成の継続性が阻害されないよう柔軟な働き方を推進することなどが緊急的な取組としてあげられている。

(4) 制度の安定性・持続可能性の強化に向けた効率化・適正化
「オプジーボ(抗がん剤)」等の高額薬剤の登場により、医薬品の適応拡大によって大幅に患者が増加しても薬価を引き下げられない等、薬価算定ルールの不備が明らかとなっていた。そのため、2016年12月に「薬価制度の抜本改革に向けた基本方針」がまとめられ、2018年3月5日に、2018年薬価基準改定が告示された。

主な改定は、効能追加等による市場拡大への対応、毎年薬価調整・薬価改定、イノベーションの適切な評価(新薬創出・適応外薬解消等促進加算制度の見直し、費用対効果評価の導入)、長期収載品の薬価見直しである(同㉙、㉝)。

◆介護報酬改定

2018年度における介護報酬改定幅は、診療報酬本体+0.54%となった。今回の改定は、以下4点を推進するもので、新たな加算項目が新設された。

(1)地域包括ケアシステムの推進
中重度の在宅要介護者等の医療ニーズへの対応を充実し、医療・介護サービスを切れ目なく受けることができる体制の整備のため、訪問看護や居宅介護支援で加算が新設された。

(2)自立支援・重度化防止に資する質の高い介護サービスの実現
リハビリテーションに関する医師の関与の強化とアウトカム評価の拡充などが自立支援に向けたサービスを推進する。

一方、訪問介護の生活援助は引き下げられた。軽度者に対する生活援助サービス等の給付のあり方については、引き続き検討される(2019年度までに検討予定)。(同㉗i)

(3)多様な人材の確保と生産性の向上
ICTや介護ロボットの活用による負担軽減や人材の有効活用に向けた基準の緩和などが行われる。

(4) 制度の安定性・持続可能性の確保に向けた介護サービスの適正化・重点化
制度の安定性・持続可能性の確保のため、事業所と同一の敷地内の建物に住居する者への訪問サービスに関する減算が拡大された。

2018年度の予定

「経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)」で計画された医療・介護関係の社会保障制度改革項目のうち、以下3点は、2016年度から継続して検討が行われており、2018年度までに結論が出される。

かかりつけ医の普及を進める方策や外来時の定額負担のあり方(同⑨) 金融資産等の医療保険制度における負担(同㉖)
薬剤自己負担の引き上げについて幅広い観点からの検討(同㉗iv)   上記のほか、2018年度までに検討し、結論を得る予定の項目は、
後期高齢者窓口負担のあり方(同㉔ii)
現役被用者の報酬水準に応じた保険料負担の公平を図るためのその他の課題(同25ii)(介護納付金の総報酬割は既に導入決定済み) である。

村松容子(むらまつ ようこ)
ニッセイ基礎研究所 保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

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