ウォール街の平均賞与が2016年から2年連続で増え、金融危機以前(2006年)の最高水準に限りなく近い18.4万ドル(1940万円前後※)に達したことが、ニューヨーク州会計監査官室の報告から明らかになった。

※1ドル=105.4円換算、報告発表日である3/26の終値

証券会社全体の賞与総額も2017年は314億ドルと前年から17%増え、前金融危機以前の高水準にあと一歩のところまで回復しているほか、税引前利益は42%増の245億ドルと、2010年以来最大の伸びを記録した。

しかし一部からはこうした好調さを「所得格差の一因」として批判する声もあり、金融危機の引き金となったウォール街の報酬文化が、今なお健在であることに警鐘を鳴らしている。

手数料の増加、税制改革、テクノロジー人材の雇用が賞与増加の要因?

ウォール街,ボーナス,証券マン
(画像=Stuart Monk/shutterstock.com)

報告書はトーマス・ディナポリ会計監視官が作成したもので、2017年度の現金賞与や、2016年度から持ち越され現金化された賞与を含む個人所得税の傾向から、ウォール街の証券会社社員の賞与を見積もっている。

リーマンショックの影響で2007年から減少に転じていたウォール街の賞与に、本格的な回復の兆しがみられる。平均賞与は2016年に15%、2017年に17%増え、2006年の19.1万ドルに近い18.4万ドルまで回復した。賞与総額も314億ドルと、あと少しで2006~07年の33~34億ドルに手が届く。2017年の純収益は4.5%増で1530億ドルだった。

賞与増加の要因は複数考えられる。ウェルス・マネージメントやM&A(合併・買収)、証券引受業務などの手数料の増加が賞与の押し上げに貢献したほか、2018年1月以降、税制改革により業績ベースの報酬を法人税額から控除できなくなるため、企業が2017年内に賞与額を釣り上げたとニューヨーク州会計監査官室は推測している。

また近年、ウォール街は若い人材の確保に力を入れており、特に優秀なテクノロジー分野の人材を雇い入れる上で、高報酬は必須条件となる。人材採用担当者は、これらの若い層が株式よりも現金で報酬を受け取るケースが多いことも要因のひとつとして挙げている(フィナンシャルタイムズ紙2018年3月16日付記事 )。

投資銀行家はボーナス増額、債券トレーダーは減額

しかし同じウォール街でも明暗はきっぱり別れたようだ。

2017年、JPモルガン・チェースの投資銀行家の賞与総額は5%増えたが、確定利付債券トレーダーの賞与総額は12%減ったことが、事情に詳しい内部者の話から明らかになっている。同社は2017年、ウォール街で最大の収益を上げたものの、投資銀行部門の収益が12.4%増えたのに対し、債券部門の収益は11.8%減った。

投資銀行部門の収益が15.8%増を記録したバンク・オブ・アメリカも同様、投資銀行部門の賞与総額は5~10%増えたが、エクイティ部門の賞与総額は5%減。現物株を含むその他の部門ではさらに大きく減ったという。

モルガン・スタンレーの機関投資家向け事業の銀行家およびトレーダーの報酬費用は、給与、手当、一部の繰り延べ報酬費用を含め、2016年から6%増。ゴールドマン・サックスの前者の報酬費用は2%増との結果だった。

2018年は米国の税制改革効果で、企業合併が過去20年近くで最も活発なスタートを切ったことから、こうした格差はますます広がるものと予想される。(ブルームバーグ2018年1月30日付記事)。

証券企業の平均年収は他の業種の5倍、2割以上が最低年収25万ドル

しかし不調だった債券トレーダーの報酬でさえも、一般企業の従業員と比較すると、けた違いの数字である。

2016年のデータによると、ニューヨークの証券企業の平均年収は他の業種の5倍に値する37.5万ドル。最低25万ドルを得ている割合も証券企業は23%だが、他の業種では2%と大きく差が開く。

米シンクタンク、インスティテュート・フォー・ポリシー・スタディーズの国際経済プロジェクト・ディレクター、サラ・アンダーソン氏は、「2008年の金融危機につながった無謀なウォール街の報酬文化が、今なお健在であることを示している」とし、「それが米国における所得格差の原因にもなっている」とコメントした(USニュース2018年3月26日付記事)。

またウィリアム・ダドリーニューヨーク連邦準備銀行総裁は3月に演説を行った際、報奨制度が健全であるよう呼びかけている。不健全な報酬制度がウェルズ・ファーゴの不正口座開設問題を招いたことは記憶に新しい。「不健全な報酬制度は大規模なリスク・エクスポージャーおよび市場超過を引き起こすだけではなく、金融システムの信頼と自信をむしばむ」と警告を発した。

一方ディナポリ会計監視官は、「過去2年にわたる収益性の大幅な増加は、証券業界が金融危機後の規制強化に抑制されることなく繁栄できると証明している」と、自らの見解を述べた。

ニューヨーク州税の18%、市税の6%は証券業界から徴収

ウォール街の繁栄は、それを収入源とするニューヨーク全体が潤うことを意味する。2016年度 のニューヨーク州税の18%に値する135億ドル、2017年度の市税の6%に値する32億ドルが、証券セクターから徴収されたとディナポリ会計監視官は見積もっている。

ニューヨークの新規雇用の10%は、直接的あるいは間接的に証券業務に関連している。ウォール街での雇用は市全体のわずか5%にもかかわらず、市のプライベートセクターの給与の20%以上を占めているそうだ。

新規雇用率は3年連続で伸びを示した後、2017年は若干減少。金融危機前の水準よりも6%少ない。対照的にほかの業種の雇用は23%増えた。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)