信用取引ではリスク管理が非常に重要となる。保証金等のルールを理解すると同時に、相場加熱時等に適用される規制についても正しく理解し、イレギュラーなケースにも慌てない心構えが必要だ。信用取引に関する規制の内容について説明する。

規制の目的は「相場加熱の抑制」

信用取引,規制
(画像=PIXTA)

規制の内容に入る前に、そもそも規制はなぜ行われるのかを説明しよう。信用取引におけるさまざまな規制は、相場の過熱感を抑えるために行われる。この大前提を抑えておくことは非常に重要だ。

信用取引とは、証券会社に担保を預けることによって、資金や株式を借りて売買を行う取引である。借りた資金や株式はいずれ返さなければならないため、信用取引の建玉は将来の反対売買圧力となり、建玉が積み上がると、その決済取引が株価に大きな影響を及ぼす可能性がある。特に建玉が一方向に偏った場合、その影響は顕著となる。信用取引の建玉決済で株価の急変動が起こらないようにすることが、規制の目的といえる。

信用取引の規制は、相場の過熱を防ぎ、投資家保護につながるものである。こうした意味では、信用取引における規制の果たす役割は大きい。一方で、すでに信用取引を行っている場合等では、規制の実施によって投資計画の変更を余儀なくされることもあるので注意したい。また、規制の実施自体が株価に影響を及ぼす点も理解しておきたい。

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規制の主体は大きく3つに分けられる

規制の内容について説明していこう。信用取引における規制では、規制の内容はもちろんだが、規制の実施主体も意識する必要がある。規制の実施主体は大きく3つに分けられる。

1つ目は証券取引所による規制である。市場を司る取引所が定める規制であり、大きな意味を持つ。

2つ目は、信用取引において、資金や株式の貸し手となる証券金融会社が定める規制である。信用取引のインフラを構築しているともいえる証券金融会社からの規制も意識する必要がある。証券取引所と証券金融会社等が定める規制は「公的規制」と呼ばれることもあり、信用取引を行う上では、これらの規制を正しく理解する必要がある。「公的規制」は制度信用取引を対象としたものであるが、一般信用取引のルール形成にも大きな影響を与えることとなる。

3つ目は各証券会社が定める自主規制である。投資化保護や証券会社のリスク管理の観点から独自に定められる。証券会社ごとに内容や規制対象も異なるため、取引を行う証券会社の情報には注意を払うべきであろう。

証券取引所による注意喚起 「日々公表銘柄」

次に具体的な規制の内容を実施主体別にみていこう。

証券取引所や証券金融会社等による公的規制では、実際の規制が行われる前に注意喚起が成される。

証券取引所の行う注意喚起は「日々公表銘柄」への指定であり、規制の前段階と取ることもできる。「日々公表銘柄」への指定は、証券取引所のガイドラインに則って運用されており、上場株式数に対しての建玉残高を見る残高基準や、売買の偏りを見る信用取引売買比率基準、上場株式数に対する信用取引売買高を見る売買回転率基準等の観点で判断される。

「日々公表銘柄」への指定は規制ではないものの、相場加熱への警鐘と規制への注意喚起を促す意味をもち、これらの銘柄は、通常週1回である信用取引残高の公表が毎営業日行われることとなる。

「日々公表銘柄」へ指定されると、規制の警戒感が強まるため基本的に株価の下落圧力となる。

証券取引所による規制 「増担保規制」

証券取引所では注意喚起として「日々公表銘柄」への指定を行っているが、それでも相場加熱が収まらない場合には、規制が実施されることとなる。その規制は「増担保規制」と呼ばれる。

信用取引では委託保証金を差し入れる必要がある。「増担保規制」とは、通常だと30%である委託保証金率を引き上げる規制を指す。信用取引の新規建て時に、通常より多くの委託保証金を求められることとなり、信用の新規建玉を減少させる効果がある。求められる委託保証金率は銘柄ごとに異なるが、その状況に応じて20%ずつ引き上げられる。また、委託保証金の一部を現金で差し入れる必要も生じる。

「増担保規制」の実施判断も証券取引所のガイドラインに則って運用されており、相場加熱を判断する基本的な観点は「日々公表銘柄」への指定と同様である。基本的に、「日々公表銘柄」への指定をもっても、相場加熱が収まらず、反対に悪化するようなケースにおいて「増担保規制」が実施される。

「増担保規制」の実施は、信用の新規建玉減少を目的としたものであり、株価の下落圧力となる。なお、「増担保規制」の実施前に建てられている玉に関しては、委託保証金の引き上げ対象とはならない。あくまでも新規建玉に対しての規制である。

証券金融会社による注意喚起 「貸株注意喚起銘柄」

証券金融会社による公的規制でも、実際の規制が行われる前の注意喚起が行われる。それが「貸株注意喚起銘柄」への指定である。

信用取引において、証券金融会社は資金や株式の貸し手となる。特に貸株については、貸付のできる株数に限りがあるため、特定銘柄の調達が困難となる可能性もある。そうした恐れがある場合、当該銘柄を「貸株注意喚起銘柄」へ指定し、注意喚起を行うのである。「貸株注意喚起銘柄」への指定は、当該銘柄の調達状況で決まる。証券金融会社は上場株式数や買建玉等に対する売建玉の比率を基にした残高基準等の観点で判断を行う。

「貸株注意喚起銘柄」への指定も規制ではない。ただ、今後の規制や証券金融会社での株式不足時に発生する逆日歩への注意喚起の意味をもつため、十分に注意したい。

また、「貸株注意喚起銘柄」への指定は、一見すると、新規売建玉の減少により、株価へプラスの影響を与えるように感じられる。ただ、株式が調達困難な理由が相場加熱による場合、同時に証券取引所による「増担保規制」の対象となり、信用取引自体が抑制される可能性もある。一方で、調達困難な理由が買い集めや公開買付け等によるケースもある。「貸株注意喚起銘柄」をみる場合、その背景を読み解くことが重要だ。

証券金融会社の規制 「貸借取引の利用制限」

「貸株注意喚起銘柄」への指定後もその要因となった状況が改善せず、さらに悪化した場合には、「貸借取引の利用制限」と呼ばれる規制が実施される。

「貸借取引の利用制限」は新規売建ての制限や禁止が行われる。調達状況が厳しい銘柄の新規売建てを禁止することで、調達困難や高額な逆日歩の発生を回避するのが目的である。また、買い方の現引きや転売が制限、禁止されるケースもある。これも、当該銘柄を証券会社が調達することが難しいためである。

「貸株注意喚起銘柄」への指定と同様、「貸借取引の利用制限」による新規売建ての制限や禁止は当面の売り圧力の減少という一面がある。ケースによっては、新規売建ての禁止が買いを呼び、踏み上げ相場と呼ばれる現象を生むこともある。ただし、「増担保規制」による、過熱抑制の可能性があるだけでなく、そもそも、そこまで売りが集中していた理由を冷静に判断しなければならない。「貸借取引の利用制限」を安直に買い材料とするのは危険である。

公的規制以外に各証券会社の独自規制も非常に重要

証券会社の独自規制は、相場の過熱感抑制や投資家保護の観点のほか、証券会社のリスク管理の面から行われるケースもある。

相場に過熱感が見られる銘柄に対し、新規の買建て・売建ての制限や増担保規制を独自に行うことも多い。また、委託保証金となる代用有価証券の掛目について、値動きの大きな銘柄の掛目を引き下げる等の対応を行うこともある。ほかにも、買建て玉と同一銘柄を代用有価証券として差し入れる二階建て取引を制限や禁止している証券会社も多い。独自規制は証券会社ごとに大きく異なるため、自身が取引する証券会社の規制は常に意識するようにしておきたい。

また、公的規制は制度信用取引に用いられる規制であるため、一般信用取引を行う場合には、証券会社ごとの規則が全てとなる点も理解しておこう。

相場全体の過熱感を抑制する全面規制とは?

証券取引所や証券金融会社の公的規制は、原則として、銘柄ごとに取引の過熱感を判断し、個別に適用される。ただ、証券取引所は相場全体の状況によっては、全銘柄の取引条件を変更する全面規制を行うこともある。

全面規制は相場全体の状況をみて、制度信用取引全体に係るルールを変更することである。過去には、バブル期の相場上昇時に委託保証金率の引き上げや代用有価証券の掛目の引き下げによる規制が行われた。

しかし、全面規制はバブル期以降、ほとんど行われていない。最後に実施されたのは、2007年であるが、これは代用有価証券の掛目を全銘柄80%に定めたものであり、相場全体での過熱感の抑制とはやや目的が異なる。全面規制は極端なケースでなければ発動されないと認識しても問題はないだろう。

信用取引の規制は株価形成に大きな影響を与える

信用取引に係る規制について説明を行ってきた。信用取引への規制は相場の過熱感が引き金となるケースがほとんどである。規制は信用取引の動向に大きな影響を及ぼし、株価へ与えるインパクトも大きなものとなる。規制銘柄の取引には十分注意を払うべきであり、自身の取引銘柄が「日々公表銘柄」や「貸株注意喚起銘柄」へ指定された時点で、一度冷静に投資戦略を練り直す必要がある。

信用取引への規制によって、市場が大きく混乱したケースは往々にしてある。2006年にライブドアの証券取引法違反の疑いを受け、ある証券会社が同社株の代用有価証券掛目をゼロとしたことがあった。同社株を委託保証金の代用有価証券としていた投資家は、多額の追証を求められることとなった。また、他の証券会社も同様の措置を取るのではないかとの思惑が市場の売りを加速させた。これは極端な例だが、規制によって、信用取引の投資戦略は大きく変わり得る。信用取引を行うにあたっては、十分なリスク管理を常日頃から行うべきだろう。(ZUU online編集部)

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