要旨

米国,長期金利
(画像=PIXTA)

米長期金利(10年)は、一時14年初以来となる3%台をつけるなど、足元で上昇基調が持続している。長期金利の上昇は、米国以外の主要国でもみられるものの、米国の金利上昇は他国と比べて顕著となっている。

長期金利を短期金利期待要因と期間プレミアム要因に分けてみると、16年夏場以降の上昇では両方の要因が金利上昇に寄与しており、14年に短期金利期待が長期金利を低下させる方向に働いていたのとは対照的な動きとなっている。

短期金利期待要因では、15年12月以降に政策金利の引き上げが持続しており、長期金利に相当程度織り込まれているものの、原油価格上昇などを背景に期待インフレ率が上昇しているため、政策金利の先高観測の強まりが引き続き金利押上げ要因となろう。

また、期間プレミアム要因に影響する国債需給についても、税制改革法に基づく減税や超党派で合意された拡張的な財政政策の影響から、国債発行額の大幅増加が見込まれる一方、中国やFRBなど国債の主要な買い手が国債保有残高を減少させているため、当面は、国債需給の悪化に伴い期間プレミアムは一段と拡大する可能性が高い。

当研究所では長期金利見通しを18年末3.3%、19年末3.6%と一段の上昇を見込んでいる。一方、インフレ加速に伴う政策金利引き上げペースの加速や、財政懸念が高まる場合には長期金利上昇幅は予想対比で上振れしよう。

はじめに

米国の長期金利(10年)は、一時14年初以来となる3%台をつけるなど、16年の夏場を底に上昇基調が持続している(前掲図表1)。長期金利の上昇は、日本や欧州など米国以外の主要国でもみられるものの、これらの長期金利の水準は14年初時点を大幅に下回っており、米国の長期金利上昇が他国と比べて顕著であることが分かる。

これは、米国では他先進国に先立ち15年12月に政策金利の引き上げを開始したほか、トランプ政権下で減税を中心とする税制改革法が成立したほか、2018年超党派予算法に基づく拡張的な財政政策の影響から米債務残高が増加することに対する懸念が背景にあるとみられる。

本稿では、米国の長期金利上昇の背景を政策金利の引き上げが続く金融政策の影響と、債務残高の増加などを通じた国債需給悪化の観点から検証し、今後の長期金利見通しについて説明している。

結論から言えば、当研究所の長期金利予想は18年末が3.3%、19年末が3.6%と今後も緩やかな上昇基調は持続するというものである。一方、インフレ加速に伴う政策金利引き上げスピードの加速や、国債需給の悪化による期間プレミアムの上昇は、長期金利を予想対比で上振れさせよう。

米国,長期金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

長期金利上昇要因

●長期金利成分分解):16年夏場以降は、短期金利期待、期間プレミアムともに長期金利を押上げ

長期金利は、短期金利期待要因と、期間プレミアム要因に成分分解できる。短期金利期待要因は主に今後の金融政策見通し、期間プレミアム要因は、長期債を保有することに伴う価格変動や流動性リスクなどを反映して変動する。

実際に、サンフランシスコ連銀が公表(1)する10年金利(ゼロクーポン債)の成分分解をみると、10年金利は16年夏場の1.4%から、18年4月初の2.7%にかけて+1.3%ポイント上昇したが、このうち、短期金利期待要因が+0.3%ポイント、期間プレミアム要因が+1.0%ポイントと、両要因ともに、長期金利を押上げたことが分かる(図表2)。

米国,長期金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

なお、前回10年金利が3%をつけた14年初では、短期金利期待が低下する一方、期間プレミアムの急激な上昇が長期金利を押上げており、両要因ともに金利を押上げている足元の状況とは異なっていた。

次に、短期金利期待に影響を与える金融政策の動向と、期間プレミアムに影響を与える米国債の需給状況について確認しよう。

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(1)ゼロクーポン債の金利(3ヵ月、6ヵ月、1年、2年、3年、5年、7年、10年)を用いて、無裁定条件を課したアフィン型Nelson-Siegelモデルを中心に構成された3ファクターアフィン型ガウシアン期間構造モデルから推計される。https://www.frbsf.org/economic-research/indicators-data/treasury-yield-premiums/

●(金融政策):政策金利の引き上げ継続、今後も政策金利先高観が長期金利を押上げ

FRBは15年12月に政策金利の引き上げを開始し、18年3月までに合計6回(1.5%)の利上げを実施した(図表3)。政策金利の引き上げ回数は15年および16年が年1回に留まっていたものの、労働市場の回復が持続していることに加え、17年夏場以降には漸く物価指標も増加基調に転じた(2)こともあって、17年は年3回と利上げスピードが大幅に加速した。

米国,長期金利
(画像=ニッセイ基礎研究所)

前述の短期金利期待要因は、今後10年間の短期金利見通しを反映しているため、当面政策金利の引き上げが継続されることは既に相当程度長期金利水準に織り込まれているとみられる。

しかしながら、原油価格が足元70ドルを上回るなど上昇が続いていることもあって、金融市場が織り込む期待インフレ率は17年後半以降に顕著に上昇するなど、インフレ評価が見直されている(図表4)。

当研究所は、インフレが加速していることなどを背景に、18年の政策金利予想を年4回の利上げと、FRBの予想(年3回)を上回る上昇幅を見込んでいる(後掲図表12)。一方、金融市場は年4回の利上げを未だ50%程度しか織り込んでいないため、当研究所の予想通り年4回に上方修正される場合には、短期金利要因は一段の長期金利押上げになることが見込まれる。

一方、今般の利上げ局面で長期金利は短期金利に連動して上昇しているものの、長短金利差(10年-2年)は、15年に利上げ開始した時点の1%ポイント台前半から、足元は0.5%ポイント程度に縮小している(図表5)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

また、変動金利と固定金利を交換するスワップレートで、将来の一時点からスワップ契約を開始する、フォワード・スワップレートから市場が織り込む1年後および2年後の10年金利をみると(3)、直近(5月8日時点)で1年後および2年後のフォワード・スワップレートは、いずれも3%近辺に留まっており長期金利の大幅な上昇を見込んでいない(前掲図表6)。また、フォワード・スワップレートと長期金利の乖離は、17年初から縮小しており、イールドカーブのフラット化と整合的な動きがみられる。

このように、一部市場は米経済のリセッション懸念などを背景に、イールドカーブのフラット化や逆イールドを予想する向きもあるようだ。しかしながら、当研究所は当面、米経済がリセッションに陥ることを想定していないため、逆イールドとなる可能性は低いと考えており、今後も長期金利の水準は短期金利を上回る状況が持続すると予想している。

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(2)物価指標が全般的にインフレ加速を示唆している状況については、Weeklyエコノミストレター(2018年4月20日)「インフレ加速の足音―物価指標はインフレ加速を示唆。今後も賃金上昇、GDPギャップ解消からインフレは加速しよう」を参照下さい。http://www.nli-research.co.jp/files/topics/58491_ext_18_0.pdf?site=nli
(3)オランダのCPB経済政策分析局が、今年から10年金利見通しの策定に当ってフォワード・スワップレートの活用を開始。https://www.cpb.nl/en/publication/forecasting-long-term-interest-rates

●(米国債需給):米国債供給増、FRBのバランスシート縮小などを受けて米国債需給は悪化

米国における「公共が保有する債務」(Debt Held by the Public)のうち、市場で取引されている市場性国債残高は、金融危機直後の08年度末の5.2兆ドルから18年4月末時点で14.8兆ドルに大幅に増加した(図表7)。

米国,長期金利
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このうち、償還期間が2~10年の中期債が2.6兆ドルから9.0兆ドルに増加したほか、償還期間10年超の長期債が0.6兆ドルから2.0兆ドルに増加した。この結果、市場性国債残高に対する中期債と長期債を合計したシェアは08年度末の61.5%から74.3%に増加しており、中長期国債には相対的に供給圧力が高まっていることが分かる。

一方、トランプ政権発足以降、17年12月に成立した税制改革法に基づく減税や、18年2月に超党派で決定した拡張的な財政政策によって、今後財政赤字および債務残高が大幅に増加する懸念が強まっている。

議会予算局(CBO)によれば、現在の予算関連法に基づく減税や拡張的な財政政策を前提にしたベースライン予想では、財政赤字は17年度実績の▲0.7兆ドル(GDP比▲3.7%)から28年度には▲1.5兆ドル(同▲5.1%)まで増加することが見込まれている(図表8)。

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もっとも、ベースライン予想が前提とする税制改革法や超党派予算法には、財政規律を維持するために、減税や歳出増加の一部が時限措置となっており、これらの時限措置は政治的に将来延長される可能性が高いとみられている。このため、将来の財政赤字はベースライン予想を上回る可能性が高い。実際、CBOはベースラインとは別に、これら時限措置が延長された場合を代替シナリオとして試算しており、同シナリオでは財政赤字が28年度には▲2.1兆ドル(同▲7.1%)と、ベースラインを大幅に上回る財政赤字を見込んでいる。

次に、これら財政状況を踏まえた債務残高は、17年度実績の14.7兆ドル(GDP比76.5%)からベースライン予想では、28年度に28.7兆ドル(同96.2%)への増加が見込まれている(図表9)。

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(画像=ニッセイ基礎研究所)

さらに、代替シナリオでは28年度に31.2兆ドル(同104.8%)まで増加する見込みである。

金融危機後の債務残高増加に対して、共和党議員は債務残高を減少させる必要性を訴えていたため、17年に共和党政権が誕生したことで、政権発足当初は債務残高が減少するとの期待があった。しかしながら、共和党政権下で減税を実現したこともあり、債務残高の増加スピードは寧ろ加速する状況となっている。

さらに、トランプ大統領は明確な財源を示さないまま、インフラ投資を増加させる方針を示していることから、それらの政策動向次第では一段の債務残高の増加が避けられない状況だ。

次に、中長期債の買い手として重要な役割を担っている中国および、FRBの残高保有状況を確認しよう。中国による国債保有残高は、13年末の1.3兆ドルをピークに頭打ちとなっているほか、海外保有残高に占めるシェアも11年の20%台後半をピークに10%後半まで低下している(図表10)。

今後も基軸通貨としての米ドルの地位や、米国債の流動性を考慮すれば、中国が米国債を一定程度保有することは予想されるものの、通商政策をはじめ米中関係が良好とは言えないため、中国が米国債保有シェアを増加させる可能性は低いだろう。

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次に、FRBについて確認する。FRBは、金融危機後の量的緩和政策で国債保有残高を大幅に拡大させたが、17年9月のバランスシート縮小開始に伴い保有残高を減少させてきている。実際、14年末には量的緩和政策に関連するシステム公開市場操作(SOMA)勘定で国債を2.5兆ドル保有し、市場性国債残高に占めるシェアも2割弱となっていたが、ニューヨーク連銀の試算では20年末にかけて1.8兆ドル弱まで低下するとしており、当研究所の試算(4)では市場性国債に占めるシェアも10%程度に低下する見込みだ(図表11)。

このため、債務残高の増加に伴い国債供給は大幅な増加が見込まれる一方、中国やFRBなどの国債需要は減退することが見込まれることから、今後国債需給は悪化する可能性が高いとみられる。

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(4)CBOのベースライン予想に基づき債務残高の増加分が全て市場性国債で調達されたと仮定。

長期金利見通し

これまでみたことを踏まえて、当研究所は、当研究所は長期金利予想を18年末に3.3%、19年末に3.6%と、予測期間である19年末にかけて緩やかな上昇基調の持続を見込んでいる(図表12)。

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短期金利期待要因は、今後の政策金利引き上げ継続を相当程度長期金利に織り込んでいるとみられるものの、18年末にむけては政策金利の上方修正に伴い、小幅ながら押上げ余地が残っていると判断している。

期間プレミアム要因については、足元では長期金利に対する押上げが非常に限定的に留まっているものの、国債需給の悪化から期間プレミアムの押上げ幅が拡大する可能性が高いと判断している。

一方、インフレ加速に伴い政策金利が想定より引き上げられる場合や、債務残高の増加に伴う財政懸念が顕在化する場合には期間プレミアムの上昇を通じて、長期金利が予想対比で上振れしよう。

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窪谷浩(くぼたに ひろし)
ニッセイ基礎研究所 経済研究部 主任研究員

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