要旨

外国人就労,経済基盤
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政府は外国人労働者の就労拡大を検討中である。外国人労働者は少子高齢化によって人口減少の進む日本において、労働力を補う存在として注目される。足元ではベトナムやネパールからの労働者が増加しており、2017年10月末時点における外国人労働者数は127.9万人と過去最高を記録している。

外国人労働者の就労拡大を巡る議論は、高度外国人材とそれ以外の人材とで異なる。

高度外国人材については、国内に流入する人材が国際的に見ても少ないことが課題だ。日本の魅力度が63カ国中51位という衝撃的な調査結果もある。今後さらに高度外国人材を誘致していくためには、効果の高いこれまでの施策を強化していくことは勿論のこと、社会全体で高度外国人材を受け入れる国民の意思形成を具体的な取り組みへと昇華していくことが求められるのではないだろうか。

高度外国人材以外の人材については、基本的に就労が認められていない。しかし、人手不足の業種や規模の小さな中小零細企業、それらに依存する地域などでは、もはや外国人材抜きに経済活動を維持していくことが困難となっている。このような実態を踏まえれば、最近になって在留資格が創設された介護以外の領域についても、外国人就労の門戸を開くことを検討する必要があるのではないだろうか。

外国人就労の領域拡大は、労働経済学の視点から見ても日本経済に好ましい。人手不足に陥っている産業は、労働を資本で代替することが相対的に難しいからである。政府の取り組みは今後その真価を問われる。しかし、本丸となる取り組みが期待通りに進展しなかった場合に備えて、コンティンジェンシープランとして外国人就労の拡大を検討しておくことは必要なのではないだろうか。

外国人就労の拡大を検討中

2018年2月、外国人労働者の受入れを主要なテーマとして経済財政諮問会議が開催された。民間議員から人手不足に対する厳しい認識が示される中、制度改正に向けた具体的な検討を進めるとの政府方針が示された。政府は今秋の臨時国会に入国管理法改正案を提出し、2019年4月にも新制度を施行できるように対応する方針のようだ(1)。

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(1)2018年4月11日(日本経済新聞社)

外国人就労の実態

◆外国人就労は過去最大である

外国人労働者の現状は、厚生労働省のデータから確認できる。2017年10月末時点における外国人労働者数は127.9万人(前年比+18.0%)と過去最高を記録している(図表1)。在留資格別には、資格外活動、技能実習、特定活動で就労者数の伸びが大きい。外国人労働者に占める割合については中国が全体の29.1%を占めて最大である。一方、増加率で見るとベトナムが前年比+39.7%と最大だ(図表2)。産業別には製造業の就労者数が全体の30.2%を占めて最大である(図表3)。近年の傾向としては、建設業、運輸業、宿泊業などで就労者数の拡大が続いている(図表4)。また、外国人労働者を雇用している事業所数も過去最高の19.5万事業所を記録した。前年比+29.4%の伸び率を記録した建設業をはじめ卸売業および小売業でも同+13.6%と増加している。規模別には30人未満の事業所が11.2万事業所と最も多く、事業所数の増加率も同+14.2%と最大であった。

外国人就労,経済基盤
(画像=ニッセイ基礎研究所)
外国人就労,経済基盤
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◆外国人労働者が人手不足産業を支える

日本銀行(日銀)の全国企業短期経済観測調査によると各産業の雇用環境は、建設、運輸・郵便、宿泊・飲食サービスなどのサービス産業において人手不足感が強まっているようである(図表5)。

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これら人手不足感の強い産業と外国人就労が拡大している産業を比較すると、両者はぴったりと一致するように見える。実際、これらの産業には、近年増加の著しいベトナム人労働者やネパール人労働者が流入している。厚生労働省の統計データによると、各産業におけるベトナム人労働者の外国人労働者に占める割合は、建設業で42.5%、宿泊業・飲食サービス業で23.5%、各産業で主要な労働力となっている。また、ネパール人労働者については、外国人労働者に占める割合は5.4%に過ぎないものの、その半分近くが卸売業・小売業または宿泊業・飲食サービス業で就労している。両国の労働者が保有する就労資格のほとんどは、技能実習または資格外活動だ。その割合はベトナム人労働者で86.1%、ネパール人労働者で81.6%とそれぞれ8割強に達している。

◆在留資格で就労可能な範囲は異なる

外国人労働者が日本で働くためには、一定の条件を満たす必要がある。在留資格別の就労規制を図表6にまとめた。日本には在留資格が28種類あるが、そのうち就労目的で取得される資格(いわゆる就労ビザ)に該当するものは18種類ある。この就労ビザによる就労範囲は在留資格ごとに定められているため、それ以外の仕事に就くことはできない。就労制限の無い在留資格は、永住者や日本人の配偶者などの身分に基づく在留資格だけである。法務大臣が個々の外国人について特に指定する活動(外交官等の家事使用人やワーキングホリデー等)にだけ許可を与える特定活動という在留資格も存在する。留学や家族滞在など5種類の在留資格には、原則就労が認められていない。ただし、資格外活動の許可を受けることにより、アルバイトやパートとして就労することは可能である。なお、この資格外活動や技能実習の資格は、単純労働の実質的な受け皿になっているとも言われており、ベトナム人労働者やネパール人労働者の流入する人手不足産業において、両国の労働者が単純労働に従事している実態があることを示唆するものとなっている。

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外国人就労の拡大、「領域」の議論を

外国人就労の拡大を巡る議論は、高度外国人材とそれ以外の人材とで検討課題が異なる。

◆受入れ体制構築の具体化を

高度外国人材については、国内に流入する人材が国際的に見ても少ないことが課題である。厚生労働省所管の独立行政法人労働政策研究・研修機構の調査によると、17年における外国人労働者の日本の労働力人口総数に占める割合は1.9%と国際的にみても低い水準にある(図表7)。また、スイスのビジネススクール国際経営開発研究所(IMD)が発表した世界人材ランキング(IMD WORLD TALENT RANKING 2017)によると、世界の高度人材が魅力的と感じる国別ランキングでは、日本の順位は世界63カ国中51位と驚くほど低い(図表8)。そのような状況の中、日本に来て学びそのまま就職することを希望する留学生に対しては、雇用先の確保が十分ではなく、要望を満たすことができていない。

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日本学生支援機構の調査(2)によると、日本国内で就職を希望する留学生(大学および大学院に在籍)は6割超存在するにも関わらず、実際に就職できた留学生は3割弱に留まっているという。

足元では様々な取り組み施策の効果により、外国人労働者を雇用する事業所は直近5年間で+53.6%増加し、日本で働く外国人労働者も+78.2%と大きく増加している。しかし、増加率ではなくその水準となると国際比ではまだ低く、満足できるほどに高度外国人材を受入れることができているとは言えない。今後さらに高度外国人材を誘致していくためには、効果の高いこれまでの施策を強化していくことは勿論のこと、社会全体で高度外国人材を受け入れようとする国民の意思形成を促し、具体的な取り組みへと昇華していくことが求められるのではないだろうか。

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(2)外国人留学生進路状況・学位授与状況調査および私費外国人留学生生活実態調査。

◆外国人就労の門戸解放を

高度外国人材以外の人材については、基本的に就労が認められていないのが現状である(ただし、技能実習や資格外活動などでアルバイトやパートとして就労している)。しかし、人手不足の業種や規模の小さな中小零細企業、それらに依存する地域などでは、もはや外国人材抜きに経済活動を維持していくことが困難となっている実態がある。現実が外国人就労を前提としているにも関わらず、これらの領域における外国人就労の拡大を巡る議論は進んでいない。第9次雇用対策基本計画(3)では「国内の労働市場にかかわる問題を始めとして日本の経済社会と国民生活に多大な影響を及ぼすとともに、送出し国や外国人労働者本人にとっての影響も極めて大きいと予想されることから、国民のコンセンサスを踏まえつつ、十分慎重に対応することが不可欠」との慎重な姿勢が示されているものの、未来投資戦略2017(4)では「経済・社会基盤の持続可能性を確保していくため、真に必要な分野に着目しつつ、外国人材受入れの在り方について、総合的かつ具体的な検討を進める」と検討の必要性が認められている。しかし現状では、平成29年9月にようやく介護の在留資格が創設され施行されたところである。介護以外の領域でも外国人就労は拡大しており、これらの領域についても外国人就労の門戸を開くことを検討する必要があるだろう。

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(3)99年に閣議決定された第9次雇用対策基本計画は、日本における外国人労働者受入れに関する基本方針が示されている。
(4)17年に閣議決定された未来投資戦略2017は、安部政権における5度目の成長戦略である。Society5.0という新しい社会の実現に向けた取り組みがまとめられている。

おわりに

◆保護主義に駆り立てるもの

外国人就労の領域拡大は、労働経済学の視点から見ても日本経済に好ましい。それは労働と資本の代替の弾力性から理解することができる。労働と資本の代替の弾力性(σ)とは、労働(L)を資本(K)でどれだけ置き換えることができるのかを示した尺度である。この理論は、労働価格(w)が資本価格(r)に対して相対的に変化したとき、企業がコストを最小化するため、両者に対する需要を変化させるとする考え方に基づく。簡易的には、労働と資本の代替の弾力性(σ)が大きいほど労働と資本の置き換えが容易であると理解しても差し支えないだろう。日銀が算出した代替の弾力性(推計値)では、製造業と非製造業のそれぞれに対し、資本全体に対する代替の弾力性は0.30と0.22、IT資本のみに対する代替の弾力性は1.01と0.51となっている(図表9)。いずれの場合も非製造業が製造業に比べて小さく、その違いはIT資本のみに対する場合でより顕著に表れている。これは、非製造業において労働を資本で置き換えることが相対的に難しく、ITの技術進歩による恩恵が製造業と比較すると及びにくいことを示唆するものである。

外国人就労,経済基盤
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日本の労働市場において人手不足が深刻化している産業は、建設業、運輸業、宿泊業などである。労働と資本の代替の弾力性から見ると、この種の産業では労働を資本で代替することが相対的に難しい。現在実施されている政府の取り組みは、技術革新による生産性向上や女性および高齢者の就労促進という国内人材活用に関するものが中心だ。しかし、これらの取り組みは今ある人手不足産業を含む一部の非製造業において、限定的な効果に留まる可能性がある。建設業、運輸業、宿泊業などの人手不足が深刻になっている産業では、既に外国人労働者の受入れ拡大が待ったなしの課題となっているのである。

なお、政府のこれらの取り組みについては、今後その真価を問われることとなるが、仮にその取り組みが期待通りに進まなかった場合、外国人労働者を今まで以上に必要とする事態も想定される。そのような事態に陥ったとき、実態にそぐわない外国人就労の規制が残されたままであれば、柔軟な人材投入が妨げられ、日本経済の持続的な成長が損なわれてしまうことも懸念される。

以上から、本丸となる取り組みが期待通りに進展しなかった場合に備えて、コンティンジェンシープランとして建設業、運輸業、宿泊業などにおける外国人就労の拡大を、検討し始めておく必要があるのではないだろうか。

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鈴木智也(すずき ともや)
ニッセイ基礎研究所 総合政策研究 研究員・経済研究部兼任

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