6月15日の住宅宿泊事業法(民泊新法)施行まで1カ月を切る中、地方自治体への届け出が低調なまま推移している。多数の届け出が予想された東京都港区や京都市は1~2件の受理件数で、東京都新宿区はゼロ。営業日数が180日までに制限され、自治体が条例で上乗せ規制することから、民泊施設を運営していた個人業者の多くが届け出に二の足を踏んでいる形だ。

これに対し、楽天など大手企業は民泊に相次いで参入の意向を示している。民泊の主役はグレイゾーンで稼いできた個人業者から大手企業へ交代する可能性が出てきた。

民泊, 自治体, 規制
(画像=PIXTA)

伸びない届け出件数に自治体がびっくり

「2000件ぐらいの届け出があると事前に考えていたが、業者の動きは予想外に鈍い」。届け出を受け付けている東京都新宿区衛生課の担当者は、伸びない届け出件数に首をかしげる。

民泊営業の受け付けは全国一斉に3月15日から始まった。しかし、区への届け出は11日現在でわずか17件にとどまっている。このうち、書類をチェックし、受理した件数はゼロ。日本を代表する繁華街を抱え、多数の届け出があると予測していた区は肩透かしを食った格好だ。

繁華街の六本木を抱える東京都港区も18日現在で届け出が10件しかない。このうち、受理したのはわずか1件。問い合わせは300件以上あったものの、ほとんどが具体的な動きに結びついていない。みなと保健所は「予想外に低調な出足」と驚きを隠さない。

観光地として訪日外国人に高い人気の京都市は、18日現在で1600件近い問い合わせがあったが、届け出たのは8件で、受理は2件だけ。市内には4000件近い違法民泊施設があると推定されるだけに、市医療衛生センターは「どうしたのだろう」と首をひねるばかり。

届け出が受理されたのは、北区と上京区にある家主居住型の民泊施設。大半を占めるとみられる家主不在型の施設にほとんど動きが見られない。今後、駆け込みで届け出するのか、このまま違法民泊を続けるのかは予測がつかない。

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京都市伏見区の伏見稲荷大社を訪れる外国人観光客。彼らを受け入れる民泊新法の届け出は低調な出足となっている(写真=筆者)

上乗せ規制で収益確保が困難に

これら自治体に共通するのは、民泊新法に条例で厳しい上乗せをしていることだ。新宿区は住居専用地区で平日の営業を制限した。港区は住居専用地域などで家主不在型の民泊事業を年間100日足らずに規制している。京都市は住居専用地域での家主不在型の民泊営業を1月15日から3月15日の間に限定した。

民泊紹介サイト最大手の米エアビーアンドビーには、約6万件の物件が掲載されているが、マンションなどを活用しようとする個人や零細企業が少なくない。大阪市で民泊営業をする業者は「民泊新法の180日でも利益を上げるのが難しいのに、上乗せ規制されたのでは採算が合わない」という。

このため、大阪市では民泊新法ではなく、営業日数が制限されない特区民泊の認定に流れる業者が相次いでいる。22日現在で民泊新法の届け出は44件で、うち受理が10件にとどまっているのに対し、特区民泊の認定は4月末現在で651件、1899室に上る。

民泊新法が成立し、営業日数の上限が180日と決まった2017年6月以降、特区の認定申請がぐんと増えた。市保健所は「日数制限を嫌う業者が特区民泊を選んだのではないか」とみている。

市は当初、民泊新法の営業日数を制限しない方針だったが、民泊を舞台にした犯罪が相次いだこともあり、議会から規制強化を求める声が続出した。このため、住居専用地域での営業を一切禁止するなど厳しい上乗せ規制に方針を転回した。この影響も特区民泊への移行を後押ししているとみられる。

大手企業が参入へ向け活発な動き

これに対し、大手企業の動きは活発だ。デベロッパーやマンション投資会社は相次いで民泊事業参入を始めている。全国10万戸のマンスリーマンション、7万戸のリゾートマンションなどの空室を活用、収益を上げようというわけだ。不動産のシノケングループは大阪市で民泊対応型のアパート開発に着手した。

不動産情報サイトを運営するリクルートグループのリクルート住まいカンパニーはエアビーアンドビーと提携、サイトに物件を掲載する管理会社やオーナーに民泊活用を提案する。中古マンション販売のスター・マイカは民泊とマンスリーマンションのハイブリッド運用ができる資産運用サービスを提供する方針を明らかにした。

楽天はブッキング・ドットコムと提携し、新法施行後に民泊サイト「バケーションステイ」を開設する。楽天ブランドで内装を統一する運用代行サービスに数千件の問い合わせがあり、中長期の視点で民泊ビジネスに取り組む考えも示している。

大手コンビニはそろって民泊ビジネスに参入する。ファミリーマートがエアビーアンドビーと提携し、利用者への鍵の受け渡しに店舗を使うほか、セブン‐イレブン・ジャパンはJTBと組み、店舗を民泊のチェックイン場所として利用する。ローソンは鍵の保管ボックスを置き、受け取りや返却に対応する店舗を2018年度中に100店に拡大する。

エアビーアンドビーは民泊新法の施行後、違法物件を掲載しない方針。このままの状態が続けば、民泊の主役の座は大手企業に移りそうだ。

高田泰 政治ジャーナリスト
関西学院大卒。地方新聞社で文化部、社会部、政経部記者を歴任したあと、編集委員として年間企画記事、子供新聞などを担当。2015年に独立し、フリージャーナリストとしてウェブニュースサイトなどで執筆中。マンション管理士としても活動している。