韓国政府は高い喫煙率に頭を抱えている。2000年前後には韓国人男性の7割から8割が喫煙していたという民間団体の調査報告があり、韓国保健福祉部の調査でも2005年の男性喫煙率は51.6%で、2007年以降40%台で増減を繰り返してきた。2015年に40%を切ったが、OECD加盟国のなかでギリシャに次ぐ2番目で、保健福祉部は2020年までに29%台に減らす目標を掲げている。
大幅値上げと禁煙場所の拡大
2015年1月、韓国政府はたばこを値上げすれば喫煙率が減るという考えからたばこ税の大幅な引き上げを行い、1箱2500ウォンだった紙巻きタバコは4500ウォン(約450円)になった。
たばこの値上げと同時に全国の自治体が運営する保健所で無料禁煙クリニックの運営を開始する。健康保険の加入者は無料でカウンセリングを受けられ、禁煙補助治療剤のニコチンガムやパッチも無料で提供される。保健福祉部によると、無料クリニックをはじめてから1週間で全国の保健所の登録者は3万人に達し、2015年2月からは民間病院にも対象を拡大して、国民健康保険公団が禁煙補助剤購入費を補助することになった。
2012年12月8日から店舗面積150平方メートル以上の飲食店を原則禁煙とし、分煙室を設けた店は喫煙可能だが、厳しい要件を課したため多くの店が禁煙となった。2015年1月からはすべての飲食店と公共施設が全面禁煙になっている。飲食店やホテルなど入口付近に室外喫煙コーナーを置くのは違法ではないが、通行人が多い場所には設置できない。
ソウル市も江南や明洞などの繁華街を中心に路上喫煙の禁止区域を拡大し、2016年5月から地下鉄の出入口付近も禁煙としている。
期待値とはほど遠い喫煙率の減少で増益も
たばこの値上げや禁煙範囲の拡大で、2014年に24.2%だった成年喫煙率は、2015年には22.6%まで低下した。男性喫煙率も43.2%から39.4%まで下がったが、政府が期待した数値には至らなかった。
2014年のたばこの販売数は43億5千万箱で、政府は増税に伴う値上げで34%減の28億7千万箱になると予測したが、実際の販売数は36億6千万箱で16%減にとどまった。たばこ関連の税収は6兆9千億ウォンから12兆3千億ウォンに増加し、たばこ販売最大手のKT&Gは純利益が2014年の7470億ウォン(約760億円)から1兆873億ウォン(約1110億円)に増えている。2014年度に96億ウォンの赤字を計上したブリティッシュ・アメリカン・タバココリアも純利益137億ウォンと黒字転換を果たした。
保健当局は「アイコス」など加熱式たばこの影響を注視する。2017年5月に韓国で販売を開始したフィリップ・モリスのアイコスは販売開始直後の同年7月に出荷量ベースで3%を占め、2018年2月には8.6%まで増加した。ブリティッシュ・アメリカン・タバココリアやKT&Gが参入し、今後の拡大が予想されている。
労働時間規制が喫煙率低下につながるワケ
2018年2月28日、韓国国会で勤労基準法改正案が可決、成立して以降、禁煙する会社員が増えはじめているという。労働時間の上限を68時間から52時間に短縮する内容が盛り込まれており、違反した事業主は2年以下の懲役または1000万ウォン以下の罰金が科される。従業員300人以上の事業所と公共機関は2018年7月1日から適用され、従業員50人から299人の事業所は20年1月1日から、従業員5人から49人の事業所は21年7月1日からの適用となる。
2015年1月に公共建物内での全面禁煙が実施されて以降、屋外に設置された喫煙スペースでのみ喫煙が可能となったが、近年、セキュリティ強化で出入りをカードでチェックするオフィスビルが増えており、この出入り記録を倦怠管理に利用する企業が増えている。
タイムカードなどによる管理を行っていない企業が多いが、セキュリティカードを見れば出退勤はもとより喫煙のための離席も把握できる。労働時間に無頓着だった企業が、52時間制の導入で労働生産性を厳しく見るようになると喫煙の離席時間は人事査定に影響する。結果として禁煙に踏み切るサラリーマンが増えるだろうとみられている。(佐々木和義、韓国在住CFP)