事業承継は経営者にとって頭の痛い問題だ。少子化と職業選択の自由を尊重する風潮の中で、子どもや親族への承継をためらう経営者も多い。また、後継者がいたとしても、事業承継時には自社株式や事業用資産の買い取りや相続税の納付のため、多額の資金が必要になる場合がある。スムーズなバトンタッチに向けて、事業承継に必要とされる資金について知っておこう。

事業承継のパターン別、必要資金

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(写真=ITTIGallery/Shutterstock.com)

事業承継のパターン別に、想定される必要資金について見ていこう。

<親族内承継の場合>
・相続などで分散した自社株式や事業用資産を買い取るための資金
・相続や贈与によって自社株式や事業用資産を取得した場合、相続税や贈与税を納税するための資金
・後継者や他の相続人等から会社が自社株式や事業用資産を買い取るための資金

<親族外承継(MBOやM&Aなど)>
・株式や事業を取得するための資金

後継者の税負担を減らす事業承継税制

親族内承継の際、頭痛の種となるのが相続税や贈与税だろう。中小企業であっても、業績が良い企業などは、自社株式の評価額が思いのほか高くなることがある。2013年の税制改正によって、遺産にかかる基礎控除額が引き下げられたため、相続税の対象者が増加している。実際、経済産業省の「2011年度版中小企業白書・小規模企業白書」によると、事業継承において後継者の贈与税・相続税負担が大きいと感じている人は64.5%にものぼっているのだ。

政府は2009年から、中小企業のスムーズな事業承継を支援するため、経営承継円滑化法を制定している。また、税制においても事業承継税制が設けて特例を認めているのだ。事業承継税制では、中小企業の後継者が現経営者から会社の株式を承継する際に、相続税・贈与税が軽減される。相続分については80%、贈与は全額、5年間にわたって納税猶予が受けられる。

事業承継税制は、2013年、2017年の税制改正によって要件の緩和・拡充や手続きの簡素化が進められたため、ずいぶん利用しやすくなったという声もある。親族内承継を選択するなら、ぜひ活用すべき制度だ。

政府系金融機関からの資金調達を活用する

事業承継にかかる資金調達方法としては、民間金融機関からの融資のほかに、政府系金融機関からの低利融資という選択肢もある。日本政策金融公庫では、以下の事業承継目的の融資には特別利率を適用している。

1.相続等による株式等の分散を防止するため自社株式等の取得を行う場合
2.後継者個人が自社株式や事業用資産の買い取り、相続税や贈与税の納税をする場合
3.親族外承継を行う場合、事業の買取資金を調達するための融資

親族内承継だけでなく、近年増えている事業譲渡や企業買収などM&Aによる事業承継に対しても、低利融資が用意されている点に注目だ。2015年にみずほ総合研究所株式会社が行った調査によると直近10年における従業員や社外の第三者といった親族外承継は約6割超に達している。また、商工組合中央金庫も、独自に事業承継のための融資制度を設けている。

さらに、2009年に制定された経営承継円滑化法に基づく認定を受けた中小企業は、信用保証協会の保証を活用することが可能だ。事業承継に関する資金を金融機関から借り入れる場合、通常の保証枠とは別枠(普通保険:2億円、無担保保険:8,000万円、特別小口保険:1,250万円)が用意されている。

こうした信用保証も資金調達手段として活用したい。加えて中小企業庁では、優れた技術を持ちながら事業承継問題で廃業を余儀なくされている企業などを支援するために、中小企業基盤整備機構によるファンド出資事業に取り組んでいる。事業承継に向けた資金調達にはぜひ、こうした政府系金融機関からの支援を活用すべきだ。

事業承継は数年がかり、早めに必要資金の目安を

2015年に株式会社帝国データバンクが行った「中小企業の成長と投資行動に関するアンケート調査」によると、直近の経営者の平均引退年齢は、中規模企業で67.7歳、小規模事業者では70.5歳。2020年ごろには、団塊世代の経営者が引退時期を迎えると予測されている。事業承継は、数年がかりの事業だ。また、ここまで見てきたように、親族内承継、第三者承継のいずれの手段を選択しても、ある程度の資金がかかる。いざというときに慌てないためにも、日ごろから事業承継に向けて資金調達のめぼしをつけておくべきだ。(提供:百計オンライン


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