政府が掲げる「働き方改革」で、長時間労働の是正や残業時間の削減が大きな課題になっています。背景には大手広告代理店やマスメディアでの過労死や自殺などがあります。日本の企業ではこれまで、長時間働いたり、残業したりしていると「頑張っている」という精神論的な間違った評価が現実にありました。日本型雇用システムの終身雇用や年功序列が制度的に崩壊し、働き方に対する考え方も変わってきています。残業しない社員が評価されることが新しい社会の流れとなりつつありますが、いち早く実践している企業と、その考え方をご紹介します。
残業削減には意識改革が必須
時間外労働や残業の削減に抜本的に取組むには、まず労使双方が悪しき慣習への意識を変える必要があります。具体的には次の通りです。
・残業削減は経営者の決断次第
これまで時間外手当が付かない「サービス残業」が至る所で行われてきました。労働基準法では原則として1日8時間、週40時間を超える労働を認めず、時間外労働を命じる場合は一般的には届け出が必要なのです。しかし、現実には社員は会社に残業申請をせずに働くサービス残業がいまだに横行しています。
時間外手当を支給せずに残業を見込んでいた企業は今後、大きな出費を覚悟しなければなりません。しかし、残業の削減は経営者が決断しないと改善しません。業務の見直しや改善には経営者の決断次第であり、残業時間の削減は経営者の意識によるところが大きいのです。
・残業は緊急時または臨時的に
本来時間外労働や残業は例外であり、緊急時または臨時的に必要な場合にだけ行うようにすべきです。
これも経営者や上司の判断で、一定の残業削減は実現可能です。残業は例外という意識が組織内に定着すれば、削減は不可能ではありません。
・時間外労働や残業は評価しない
会社に遅くまで残って働いていると、社員もよく働いたという間違った充足感を覚え、上司から見れば仕事熱心と捉えてしまいがちです。こういう日本的な旧習を改めるために、時間外労働や残業という事実だけで評価しないことが、今後はさらに重要になってきます。
日常的な残業は悪として、残業した社員や残業をさせた上司は査定でマイナス評価にすることも有効です。ただ、裏をかいてマイナス査定を掻い潜る「隠れ残業」を防ぐ手立ても必要となります。
・絶対に過労死させない決意
近年、メディアで相次いで話題となった大手広告代理店やマスメディアでの過労死や自殺。背景に月残業80時間や100時間を超える過酷な労働や超過勤務があったことが明らかになりました。社員が過労死するという労働環境は異常ですが、現実にはいまだに過酷な労働環境下で働かせているブラック企業はたくさんあります。
厚生労働省による過労死の認定基準は、毎月の残業時間が45時間を超えると業務との関連性は「徐々に強まり」、80時間を超えると「強い」としています。つまり、月80時間以上の残業をさせて死亡した場合、過労死認定される可能性が極めて高いと言えます。
残業削減への対策とアイデア例
社員の働き方を改善して業務の効率化を図り、働く意欲を高くキープできるシステムがあれば、残業の削減に直結します。
社員と企業への負担やリスクを解消できる主な残業削減の対策やアイデアは、すでに導入されているケースでは以下の通りです。
・ノー残業デーの導入
・終業時間後は強制的に退社
・業務のローテーション化
・残業の事前申請制度
・残業させないシステムづくり
残業の削減を実践する企業例
社員の過労死や自殺が社会問題化したことで、様々な企業が残業削減への取組みを始めています。ここでは代表的な例を2社ご紹介します。
・ニッセイ情報テクノロジー
保険や金融、医療、介護に関するシステムサービスを提供する会社。リサーチサイト「ヴォーカーズ」で、2016年「残業時間が減った企業ランキング」の1位に輝きました。2013年から16年までの3年間で、月43時間の残業削減を成し遂げています。業務の生産性を向上させるためにはリフレッシュが重要という発想で、毎週水曜日は午後6時までの退社を勧めています。また、月1回の有給休暇取得も推し進めています。
・伊藤忠テクノソリューションズ – 朝型勤務制度
午前5時から8時にかけて早朝勤務をすると、深夜残業と同じ割り増し賃金を支給。また、午前8 時前から働く社員には無料の軽食も提供しています。夜10時から早朝5時までの深夜勤務の禁止を2013年10月から採り入れ、導入後3年で1人当たりの時間外労働は15%ダウンを達成しました。
時間外労働や残業の根本的な原因を踏まえ、積極的に残業削減を図っている企業では、ワークライフバランスが実現でき、労働の効率化も進んでいます。残業しない社員が評価されるような健全な社会の到来が待たれます。(提供:あしたの人事online)
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