5月21日、政府は経済財政諮問会議において『2040年を見据えた社会保障の将来見通し』を公表しました。それによると医療や介護などの社会保障費は2018年の121.3兆円から2040年には190兆円に増加し、GDP(国内総生産)の24%に達する見通しです。中でも「介護にかかる費用」の伸びが大きく、2018年度と比較すると60%も増加するそうです。
今回は「日本の社会保障制度」についてお届けしましょう。
「年金、医療、介護」で90%を占める
2018年の社会保障費(121.3兆円)の内訳を見ると年金が56.7兆円、医療39.2兆円、介護10.7兆円でこの3つの合計で106.6兆円と全体の約90%を占めます。これからの日本社会は高齢化が一段と進むことが予想されますので「年金、医療、介護」の費用はさらに増加する可能性が高いと考えられます。
ちなみに、121.3兆円は対GDP比で約20%となります。この社会保障費は医療や介護などに関連する企業活動を支えている側面があり、それに関わる雇用を生み出し、大きな産業となっています。先に述べた通り、政府は2040年にはGDPの24%に達すると予測していますが、それに伴って医療や介護関連の企業活動はさらに活発化することも予想されます。
しかし、忘れてならないのは社会保障制度は保険料や税金など「国民から集めたお金」で成り立っていることです。社会保障費が増大するということは、それだけ私たち国民の負担も大きくなることを意味しています。
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日本の医療制度が優れている理由とは?
ところで、社会保障の一つに医療制度があります。日本では誰でも平等に医療を受けることができますよね。「当たり前」「当然」との声が聞こえてきそうですが、世界的に見ると必ずしもそうとは言い切れないのです。
たとえば、米国では民間保険が中心で「加入している保険によって」受診できる医療の範囲が違ってきます。また、スウェーデンでは医療機関で受診する際には、まず自分が住んでいる地域の医療センターで予約をするのですが、ここで軽い病気と判断されると「経過観察」を指示されます。たとえ受診が必要であっても数日から数週間待たされることもあるそうです。社会福祉先進国のイメージがあるスウェーデンでさえこのような状況です。
そう考えると、日本の医療制度は非常に優れていると言っても差し支えないでしょう。病院の待合室で数時間待たされることはありますが、その日のうちに受診できますからね。一言でいうと「医療へのアクセスが簡単にできる」ことが日本の医療制度の特徴の一つなのです。
日本の社会保障制度は「時代が求めた制度」
もう一つ、日本の社会保障制度が優れているのは「国民皆保険・皆年金体制」であることです。これも当たり前と思われるかもしれませんが、世界的にはあまり例を見ない制度です。また、日本の社会保障制度は保険料と税金だけでなく、公費も投入して運営しているのも大きな特徴です。
日本の社会保障制度の根幹である「国民皆保険・皆年金体制」が確立されたのは戦後16年となる1961年のことでした。敗戦で日本の社会制度は崩壊し、すべてを失いました。文字通りまったくのゼロから立て直したのです。しかし、逆説的にいえばすべてが崩壊し、ゼロからスタートしたからこそ、この類例を見ない制度を確立できたのかもしれません。もちろん、崩壊したのは社会制度だけではありません。敗戦で経済的にも崩壊し、ほとんどの国民が貧しく、明日の食糧を確保することさえままならない時代でした。そんな時代だからこそ「国民皆保険・皆年金体制」が生まれたのではないでしょうか。これは「時代が求めた制度」とも考えられます。
たとえば、21世紀の現在の日本で「国民皆保険・皆年金体制」をつくろうと思っても、なかなか難しいように思います。格差社会と呼ばれて久しい状況では、所得の多い人から不満の声があがることが予想されるからです。そう考えると日本の社会保障制度は「時代のニーズ」に合わなくなっているのかもしれません。実際問題として「国民皆保険・皆年金体制」ができて半世紀が過ぎています。敗戦直後に比べると日本社会の有り様もずいぶんと変わりました。制度疲労を起こしても何ら不思議ではありません。
時代の変化とともに「柔軟な調整」が必要
「時代のニーズ」に合わないといえば、介護保険料も制度が始まった2000〜2002年度に比べほぼ2倍の水準になっています。介護や支援が必要だと認定された65歳以上の人は2017年末で629万人に達し、この3年間で41万人も増えているのです。今後もどんどん増えるのは間違いありません。
どんなに素晴らしい制度であっても、時代の変化とともに柔軟に調整する必要があります。「人生100年時代」を迎え、日本の社会保障制度は大きな転換期を迎えているのではないでしょうか。
これからの時代「高齢者がどんどん増えて、若い世代がどんどん減少する」ことを大前提に置いて社会保障制度を見直す必要があります。高齢者もできるだけ社会に参加して、若者の負担を軽くするように努めることが求められます。年齢に関係なく誰もができるだけ長く、楽しく働くためにはどうすれば良いか、「働き方」そのものも根本的に見直す必要もあるでしょう。日本の社会保障制度の課題は山積みで簡単に答えを見つけるのは難しいかもしれませんが、私たち国民一人ひとりが真剣に議論をする時を迎えているのです。
長尾 義弘 (ながお・よしひろ)
NEO企画代表。ファイナンシャル・プランナー、AFP。徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『お金に困らなくなる黄金の法則』『保険はこの5つから選びなさい』(河出書房新社)、『保険ぎらいは本当は正しい』(SBクリエイティブ)。監修には別冊宝島の年度版シリーズ『よい保険・悪い保険』など多数。
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