シンカー: FEDとECBが金融引き締め方向に向かうとともに、金利上昇と流動性縮小によるグローバルな景気下押しへの懸念がある。一方、日銀は大規模な金融緩和策を維持し続け、流動性の供給元としてまだかなりの間残るとみられる。円がグローバルなファンディング通貨となり、そこからの流動性供給がグローバルな景気下押しへの懸念を和らげる可能性もある。しかし、その動きが生まれるためには、円の先安感が生まれなければならない。グローバルな金利上昇はいずれ円金利との差に現れ、円の先安感につながることを考えれば、グローバルな景気拡大が堅調な中でのグローバルな金利上昇はそれほど懸念すべきものだとは思われない。一方、貿易紛争などによる貿易総額の縮小が、生産性の低下と強いインフレにつながり、金融当局の金融引き締めの加速でグローバルな金利上昇が強くなった場合は別である。中立水準より高い政策金利が景気下押し圧力になるだけではなく、リスク・オフの状況が金利差にもかかわらず円の先高観につながれば、円がファンディング通貨としての役割をすることができず、グローバルな流動性縮小の不安を拡大させる懸念がある。

SG証券・会田氏の分析
(画像=PIXTA)

最新のSGグローバル・レポートと要約

●米国経済(6/14):6月FOMC:「誤った確信」

FFレート誘導目標が25BP引上げられたが、今後の金利パスは3月に比べてややタカ派的になったとみられる。とはいえ、2018年と2019年の(FOMC参加者の予測を示す)ドットが、1個下方に動く(戻る)だけで、3月時点の(ドットチャートが示していた)金利パスと全く同じになる。短く言うと、今後の金利パスを強く確信することはできず、ドットチャートはFOMC内で見方が非常に分かれていることを示している。だがこうした見方は、単に声明を読むだけでは得られないだろう。声明は、今後の追加利上げに対する(利上げが進むという)ある種の「確信」を含んでいるが、それはドットチャートとは相容れないとみられる。

●欧州経済(6/15):ECB理事会:フォワードガイダンス変更に疑問が残る

量的緩和(QE)が始まって3年以上経過したが、ECBは本日(14日)、2018年12月にQEを終了する方針を示した。ECBは、QEプログラム最後の3カ月に、月150億ユーロの資産買入れを行うことを「想定している」。(以下は、この決定に対するタカ派的な解釈を和らげるとみられるが)ECBはまた、初回利上げ時期のガイダンスを「2019年中頃の後」(「2019年夏の間は」金利を変更しない)に変えることに、満場一致で合意した。一部の政策担当者はすでに、この時期には満足と表明している。将来の金利パスに関する見方を示すという、リスクの多いコミュニケーションツールを使わずに、景気刺激策の縮小という問題を(再び)目立たなくできたことが、ECBには喜ばしいようだ。

弊社は、初回利上げ時期を15カ月のあいだ示しても情報としての価値はほとんど無く、過度に意欲的な策だとみている。それよりも期待できるのは、QE終了で、マイナスの中銀預金金利の「調整」を考慮する機会が得られることだ。弊社は依然として、これ(マイナスの中銀預金金利調整)が6月に実現すると見込んでいる(即ち、弊社が見込む米国景気減速の少し前に)。とはいえそれ以前に、政治的な不確実性の高まりや、ユーロ圏の景気軟調が2018年Q2まで長引くことに対処する必要がある。ECBがQE終了を急いだことから、困難が発生した時にもECBは、「最初に逃げ込む港」にはならないと考えられる。

●外国債券(6/19):タカ派への傾斜

米欧の中央銀行は先週、我先にと急ぐように職務を遂行した。マーケットは待ち続けていたもの全てを、あるいはそれ以上のものを手にした。米連邦準備制度理事会(FRB)は、2018年の予想利上げ回数を合計4回に増やして市場を驚かし、将来の政策指針であるフォワード・ガイダンスおよび米国経済見通しを上方修正した。欧州中央銀行(ECB)は、段階的に縮小してきた量的金融緩和にハト派的な形で終止符を打つ方針を表明した。2018年第4四半期末をもって資産買い入れ政策を終了することを発表すると同時に、「最初の利上げは早くても2019年夏を過ぎてから」というカレンダー・ガイダンスを提示し、量的緩和打ち切りの影響を和らげようとした。FRBの決定に対する市場の反応は、かなり落ち着いたものだった。原因はおそらく、米国の景気減速が前倒しされ、予想以上に早く後退局面入りするリスクの高まりが意識されたためとみられる。米国のイールドカーブは一段とフラット化していく傾向が鮮明になり、米10年国債利回りは3%近辺で膠着状態が続くだろうという弊社の予想に変わりはない。一方、ECBがハト派的な姿勢をにじませながら量的緩和政策を打ち切る方針を示したことへの市場の反応は、2017年10月に資産買い入れの段階的縮小が発表された後のそれと似通っており、投資家にショート・ポジション構築の魅力的な機会を与えることになった。

ソシエテ・ジェネラル証券株式会社 調査部
チーフエコノミスト
会田卓司