5月30日の日経平均が一時2万2000円を割り込んだ背景は、イタリアの財政不安をきっかけとした世界的な株安=「イタリア・ショック」だった。イタリアでは3月4日の総選挙で過半数を獲得した政党がなく、連立協議が続いていたが、5月14日 にポピュリズム(大衆迎合主義)政党「五つ星運動」と極右「同盟」が連立政権をつくることで合意する見通しとなった。しかし、両党の政策は「ばらまき」色が強く、新政権が歳出拡大に傾く可能性が高いとの懸念から、5 月中旬以降イタリアの10 年国債利回りの上昇基調が強まった。さらに、間近とみられていた新政権誕生が白紙に戻ったことが世界的な株安につながったが、6月1日に新政権が誕生したことによって「イタリア・ショック」は短期間で収束した。ただし、今後新政権が歳出拡大を実行することによってイタリアの財政不安が再び高まる可能性には注意が必要だろう。

日経平均は一時2万3000円台を回復したが…

日本株,見通し
(画像=PIXTA)

イタリアで新政権が発足する前日の5月31日、トランプ米政権は、3月に発動した中国や日本などから輸入する鉄鋼とアルミニウムへの追加関税を、6月1日からEUやカナダなどにも発動すると発表した。この結果、日本を含むG7参加国はすべてトランプ大統領が仕掛ける「貿易戦争」の相手国となった。すると、5月31日~6月2日に開かれたG7財務相会議は、米国以外の6カ国の財務相が米国のムニューシン財務長官を「WTO(世界貿易機関)ルール違反だ」と1時間以上責め立てるなど、「これほど意見が一致しなかったG7は歴史上例がない」(ドイツのショルツ財務相)ほど荒れたという。

また、6月8~9日に開かれたG7首脳会議では、米国以外の6カ国の首脳がトランプ大統領に鉄鋼輸入制限の撤回を迫ったが、トランプ大統領は応じなかった。一方、6月上旬に発表された米国の経済指標に良好なものが目立つと、米国の景気に対する安心感が世界的な貿易戦争に対する不安感を上回り、日米株式相場は戻りを試す展開となった。その結果、6月11日のNYダウは2万5300ドル台の戻り高値を付け、翌12日の日経平均は一時2万3000円台を回復した。

しかし、15日にトランプ政権が中国の知的財産権侵害への制裁措置として500億ドル(約5兆5000億円)分の中国製品に25%の関税を課すと発表し、中国商務省が同日夜に「すぐに同じ規模、同じ強さの追加関税措置を出す」との声明を発表すると、米中貿易戦争に対する不安感から日米株式相場は反落した。さらに、18日にトランプ大統領が中国に対して新たに2000億ドル(約22兆円)分の中国製品に10%の追加関税を検討するようUSTR(米通商代表部)に指示したと発表し、中国の商務省が米国の措置に対抗する姿勢を示すと19日の日経平均は2万2200円台まで下落、21日のNYダウは2万4400ドル台まで下落した。

日本企業にとっての最大の正念場は自動車の通商交渉

米中貿易摩擦の米国経済に対する影響について大和総研では「現時点での関税措置の対象となる品目の輸入額が輸入全体やGDP に占める割合は限定的であり、物価の上昇や、報復関税による輸出減少が、堅調な米国経済を即座に腰折れさせるほどのインパクトはないだろう」とレポートしている。

ただし、フィラデルフィア連銀が発表した6月の製造業景況指数は前月比で予想以上に低下し、2016年11月以来約1年半ぶりの低水準となった。指数の内訳では新規受注の指数が急落し、受注残の指数も低下した。米中貿易摩擦に対する警戒感を背景に、企業が新規受注を控えている可能性があることには注意が必要だろう。

一方、大和総研によると「日本企業にとっての最大の正念場は、今後控えている自動車の通商交渉となろう。仮にトランプ大統領が主張している通りに関税の引き上げが行われた場合、2兆円を超える文字通り桁違いの関税コストの増加が見込まれる」という。いずれにしても、目先の日米市場では米中貿易摩擦に対する警戒感が引き続き株式相場の重しとなる一方、貿易摩擦の影響が少ないとの安心感から米国のインターネット関連株が物色される可能性が高い。

米国企業の決算発表が株価反転のきっかけになる可能性

FRBは6月13日のFOMCで3カ月ぶりの利上げを決めた。また、今回改定されたFOMCメンバーによるFF金利見通しによると、今年の利上げ回数が3回から4回に変更された。年内あと2回の利上げは既に米国の金利や株価に概ね織り込まれたといえるだろう。一方、翌14日に米商務省が発表した5月の小売売上高は前月比0.8%増加し、市場予想を大きく上回った。増加は4カ月連続で、増加率は2017年11月以来6カ月ぶりの大きさとなった。米国の景気は引き続き個人消費主導で好調と考えられる。また、7月に発表される米主要企業の4〜6月期決算も好調と予想されることから、アナリスト予想を上回る決算発表が目立てば、それがNYダウや日経平均が反転上昇するきっかけになる可能性があろう。

野間口毅(のまぐち・つよし)
1988年東京大学大学院工学系研究科修了後、大和証券に入社。アナリスト業務を5年間経験した後、株式ストラテジストに転向。大和総研などを経て現在は大和証券投資情報部に所属。日本証券アナリスト協会検定会員。米国CFA協会認定証券アナリスト。