米国の労働者のほぼ5割が、夏の休暇をとらないことが明らかになった。経済的な圧迫が最大の理由として挙げられているが、有給休暇をとりにくい職場環境も影響している。
米国の有給休暇未消化問題は徐々に改善傾向にあるものの、2016年は合計206億日、総額664億ドル相当の有給休暇が未消化だった。若い労働者の中には「有給休暇をとると昇進できない」という強迫観念もあるという。
有給休暇をとらない理由NO.1「お金がない」
米金融情報サイト「Bankrate.com」が2018年5月、1000人の成人を対象に調査を実施したところ、49%が「今年の夏は休暇をとらない」と答えた。その理由として50%が「お金がない」、25%が「家庭の事情」、22%が「仕事の休みがとれない」を挙げている。
2018年5月の失業率は3.8%と2000年以来最低水準を記録しており、賃金成長率も4%台を維持している(Tradingeconomics.comデータ) 。それにも関わらず、現実的にはアメリカの成人のうち4人に1人 が夏の休暇を楽しむ経済的な余裕がない。
BankrRate.comのチーフ・ファイナンシャル・アナリスト、グレッグ・マックブリッジ氏は、4人に1人が「万が一の時に備えた貯蓄もない」 と指摘している。2017年、GOBankingRates が実施した調査では、8000人のうち57%が「貯蓄金額は1000ドル以下」と回答。貯蓄金額1000ドル以下の39%は貯蓄ゼロだった。
しかし1000ドル以下しか貯蓄がない労働者の割合は2016年から12ポイント、2015年から5ポイント減っている。対象的に、1万ドル以上貯蓄がある割合は2016年から2017年にかけて10ポイント増えて25%となった。
経済的な理由で夏の休暇がとれない回答者 はミレニアム世代が多く、それより上の世代は「家庭の事情」が最も多くみられる理由だった(BankRate.com2018年5月23日付記事 )。
有給休暇が義務化されていない米国 消化率は4割以下
CEPRが2013年、経済大国21カ国の休暇事情を調べた報告書では、唯一米従業員だけが有給休暇取得の権利を与えられておらず、 あくまで企業の任意で取得できる。そのため23%がまったく有給休暇をとっておらず、とれた場合でも年間10日が平均だ。これは日本の平均と同じ日数だが、欧州諸国と比べると2〜3分の1である。
しかしこの数字にはかなり差があり、時間労働者のうち最も有給休暇が短い25%は年間平均4日しか有給休暇をとっていないが、有給休暇が長い25%は2週間もとっている。
貴重な有給休暇であるにも関わらず、消化率は36% 。「ほとんど消化するつもり」と答えたのは19%、「半分」は18%、「4分の1」は13%。その一方で、13%が「まったく消化するつもりがない」。つまり、有給休暇をとれても、結局は消化していないということだ。
労働者1人当たり、年間604ドルただ働き
日本でも有給休暇の未消化問題が議論されているが、米国では義務化されていないという点で、企業と労働者の意識がより薄いのだろうか。
U.S. Travel Associationがスポンサーを務める「Project: Time Off」の調べによると、2016年の未消化の有給休暇は合計206億日、総額664億ドル相当の労働力が無料で奉仕されている。労働者1人につき、年間平均およそ604ドルのただ働きだ。2015年と比べると未消化の有給休暇日数は8%減ったものの、まだまだ理想的な労働環境にはほど遠い。
こうした状況は労働者だけではなく、米経済にもネガティブな影響をあたえかねない。これらの有給休暇がしっかりと消化されていた場合、合計240億 ドルの支出、180万件の新規雇用、700億ドルの副収入が もたらされたとProject: Time Offは見込んでいる。54%の労働者が例えあと1日でも有給休暇を多く消化していれば、それだけで330億ドルの経済効果が期待できたという。
「休暇中の仕事の進行具合」が主な懸念の種
未消化の理由として、43%が「休んでいる間に仕事が山積みになる」、34%が「自分の代わりに仕事をこなせる人間がいない気がする」、33%が「上級職に就いているプレッシャー」、32%「休暇を楽しむ経済的余裕がない」と回答。こうした傾向は40代以外の世代より40代の労働者、ミレニアル世代の男性より女性に強く見られる 。
一方、26%が「奉仕精神をアピールしたい」と答えていることから、休暇をとることに対するある種の罪悪感があるものかと思われる。
家族4人の休暇費用は最低4000ドル
夏に有給休暇をとる予定の米国人は、どのように休暇を過ごすのだろう?
ミレニアル世代の予算中央値1000ドルに対し 、それより上の世代は2000ドル。しかし最も一般的な予算は500ドル以下で27%が「節約休暇」を計画しており、25%が501ドル以上1000ドル以下、21%が1001ドル以上2000ドル以下の予算を組んでいる。2001ドル以上の予算を組んでいるのは24%だ。
渡航先や日数、レクリエーションの内容などにもよるが、家族4人の休暇には最低4000ドルが必要だとBankrateは述べている。(アレン・琴子、英国在住フリーランスライター)