(本記事は、内藤誼人氏の著書『ベンジャミン・フランクリンの心理法則』ぱる出版、2018年6月18日刊の中から一部を抜粋・編集しています)
【『ベンジャミン・フランクリンの心理法則』シリーズ】
(1)人たらしがやっているカンタンなテクニックとは?
(2)なぜお金持ちほど自分にお金をかけないのか
(3)「議論しろ」はあまり良くない風潮?フランクリン流「人たらし術」
(4)資産2兆6千億を築いた大富豪が特に気をつけていたこと
ワリカンのときは、多めに払う。
「春風や、藤吉郎のあるところ」という句がある。
豊臣秀吉(藤吉郎)が非常に陽気なせいもあって、いつでも春風が吹く心地よさがあったということを伝える句である。
秀吉は、卑賎な身ながら天下統一を果たした人物であるが、名うての人たらしとしても知られていた。なにしろ、敵の武将をことごとく寝返らせて、どんどん自分の味方にしてしまう達人だったのである。
人たらしについて考えるとき、秀吉はまことに格好の人物である。
いったい秀吉は、どんな作戦をとっていたのであろうか。
そのひとつが、「大盤振る舞い」である。
秀吉は、とにかく恩賞が厚かったことで知られている。
ケチな人間は、たいてい嫌われる。
節約家といえば聞こえはいいが、ケチな人間は、どことなくしみったれていて、人間としての器が小さなイメージを与えてしまう。自分では贅沢をしなくとも、他の人にはどんどん大盤振る舞いしてあげられるような人間になりたい。
ハワイ大学のブレイク・ヘンドリクソンは、おごる人物とおごらない人物についてのプロフィールを作り、そのプロフィールを読んだ人にどういう印象を抱いたかを尋ねたところ、おごる人物のほうが「好意」を感じさせることを明らかにしている。
当たり前だといわれればそれまでだが、私たちは、自分にたくさんおごってくれる人が好きなのだ。
みんなで食事をするとき、ワリカンにするのはよいとしても、やはり自分が「ほんの少し」多めに払うくらいのことは、自然にやってあげたい。
1円単位でワリカンしようとしたりするのは、みっともないだけで、どんどん人が離れていく。
缶ジュースを買おうとしていて、小銭の持ち合わせがない人には、お金を貸すのではなく、あげてしまおう。自動販売機でジュースを買えば120円であるが、たった120円を惜しんで、「ケチな人」という印象を与えてはならない。
「あとでちゃんと120円返してよね」などと催促すると、みなさんの株は大暴落してしまう。
石田三成は、猛将として知られる島左近を迎えるとき、「二万石で、私のところにきてくれないであろうか?」とお願いしたそうである。
自分の知行が四万石なのに、である。ようするに自分の給料の半分を差し出したのだ。これに感激した島左近は、結局、一万五千石で三成の武将となり、関ヶ原の戦いでは大いに武を奮って三成に恩返しした。
ケチケチしていたら、人はついてこない。
喜んで身銭を切れる人にならなければ、だれからも相手にされなくなってしまう。
自分にばかりお金をかけて、他の人には1円も使わないような人間になってはならない。
人たらしは、他の人にこそ喜んでお金を使うのだ。
ネガティブな面を、ポジティブな言葉でほめる。
何が嬉しいかといって、自分ではコンプレックスに感じていることを、他の人にホメてもらえることほど、嬉しいことはない。
たとえば、「自分は仕事が遅くて、ドジでのろまな亀だ」と思っている人がいるとしよう。
そんな人に上司が、「何を言ってるんだ、キミは仕事が遅いんじゃなくて、丁寧なんだよ。すごくいいことなんだから、今のままのキミでいなさい」とでも言ってあげたら、どれだけ喜ばれるかは想像に難くない。
「私は地味で目立たない存在だ」と思っている女性に、「僕は、ギャーギャー騒ぐ女の子より、キミみたいに落ち着いた子のほうがいいなあ」と言ってあげられる男性なら、すごくモテるのではないだろうか。
人たらしは、こういうことを自然にできなくてはならない。
秀吉にお伽衆として仕えたといわれる曽呂利新左衛門という人物がいる。
落語家の始祖ともいわれ、人を笑わせる数々の逸話を残したことで知られる。
彼は、秀吉がサルに顔が似ていることを嘆いていると、「サルのほうが殿下を慕って顔を似せたのですよ」いって気持ちを和ませたという。
「物は言いよう」とはよくいったもので、どんなにネガティブなことでも、言い方さえ変えてあげると、相手が受け取る印象は全然違ってくる。
心理学では、こういうテクニックを「フレーミング」と呼んでいる。
「フレーミング」とは、「枠組み」を意味する「フレーム」に由来する用語で、物の言い方の枠組みを変える、という意味だ。
ネガティブに受け取られるような言い方をせず、できるだけポジティブな言葉に言い換えてあげる。これがフレーミングというテクニックである。
ミネソタ大学のアレクサンダー・ロスマンは、お医者さんが「600人中400人が死にます」と伝えると、患者は手術を受ける勇気をなくし、手術を受けようとも思わなくなるのに対して、まったく同じことなのだが、「600人中200人は助かるのです」と伝えられると、手術を受けてみようかな、という気持ちになると述べている。
物の言い方をほんの少し変えるだけで、相手が受け取るイメージはまったく違ってくるのであり、人たらしはそのことをよく知っている。
だから、相手がコンプレックスに感じていることも、上手に言い換えて伝える。
相手が自分自身のコンプレックスを打ち明けてきたときにはチャンスである。
上手に言い換えてあげることができれば、いっぺんに相手に心を開いてもらえるであろう。
内藤誼人(ないとう・よしひと)
心理学者。立正大学客員教授。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。アンギルド代表取締役。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。近著に、『アドラー心理学あなたが愛される5つの理由』『羨んだり、妬んだりしなくてよくなるアドラー心理の言葉』『人は「心理9割」で動く』(以上弊社刊)、『ヤバすぎる心理学』(廣済堂出版)、『人前で緊張しない人はウラで「ズルいこと」やっていた』(大和書房)、『図解身近にあふれる「心理学」が3時間でわかる本』(明日香出版社)などがある。