(本記事は、内藤誼人氏の著書『ベンジャミン・フランクリンの心理法則』ぱる出版、2018年6月18日刊の中から一部を抜粋・編集しています)

【『ベンジャミン・フランクリンの心理法則』シリーズ】
(1)人たらしがやっているカンタンなテクニックとは?
(2)なぜお金持ちほど自分にお金をかけないのか
(3)「議論しろ」はあまり良くない風潮?フランクリン流「人たらし術」
(4)資産2兆6千億を築いた大富豪が特に気をつけていたこと

ベンジャミン・フランクリンの心理法則
(画像=Webサイトより ※クリックするとAmazonに飛びます)

相手の気持ちになって、もてなし上手になる。

商売が上手な経営者には、人たらしが多い。

もともと企業を経営するには、社員に動いてもらわなければならない。

いかに人を動かすことができるかで、企業の業績は大きく変わってくる。優れた経営者は、同時に優れた心理学者でもあり、社員の心をつかむのがうまい。

いくら最新の経営理論やマネジメントに詳しくとも、人を動かすのがヘタな経営者では、早晩会社は立ち行かなくなる。社員に嫌われながら、会社を経営するのは不可能なのである。

新宿の中村屋の創始者である相馬愛蔵さんも、やはり人たらしの一人だ。

相馬さんは、いつも頑張って働いている店員たちには、いくらでも労ってあげたい、という気持ちを持っている経営者だった。

店員たちの誕生日には、必ずお祝いをしてあげたし、年に1回は、店員たちを連れて歌舞伎座で観劇させていた。しかも一等席である。

観劇が終わると、そのまま帝国ホテルに連れていって、フルコースのごちそうを食べさせたというのだから、大変なもてなし上手といえる。

たいていの経営者は、自分のことしか愛していない。

自分には、いくらでもお金を使う。

本当は会社のお金なのに、自分のお金だと勘違いして、高級外車を購入してみたり、高級住宅を建ててみたりする。高級なお店で自分だけがいい思いをする。

社員の気持ちになって考えてみよう。

自分が汗水たらして頑張って働いているのに、社長だけがのんびりとベンツで出勤してきたら、どう思うだろうか。

社員たちは安い居酒屋で飲んでいるのに、社長だけが料亭で、しかも会社の経費で飲み食いしていたら、どうだろうか。

バカバカしくてやっていられない、という気持ちになるのが自然ではないか。

人たらしは、まったく逆のことをする。

他の人にはお金をかけて、自分にはお金をかけないのである。

ニューヨーク州立大学のマーケティング学教授を務めたトマス・スタンリーは、常識に反して、お金持ちほど見栄を張らず、まったくお金をかけないことを、億万長者を対象にした調査によって明らかにしている(『なぜ、この人たちは金持ちになったのか』日本経済新聞社)。

お金を使うのなら、自分にではなく、他人に。

これが人たらしの極意である。

「自分にお金を使うのならともかく、なんで他の人に使わなきゃいけないんですか!」と考える人は、自分自身のことしか考えない傾向があり、他人への配慮や気配りに欠けている証拠である。

そういう人は、人たらしになれるわけがない。

困っている人には、どんどん手を差し伸べる。

ベンジャミン・フランクリンの心理法則
(画像=Syda Productions/Shutterstock.com)

困っている人がいても、たいていの人は見て見ぬふりをする。

面倒に巻き込まれたくないと思うからであろうか。わざわざ人助けをするのは、自分がソンをするように感じるのかもしれない。

私たちは、どうしても自分中心に物事を考える。

しかし、人たらしは違う。

人たらしは、すでに述べたように自分ではなく、他人を中心に物事を考える。

「自分がソンをしたら、イヤだな」と考えるのではなく、「他の人に喜んでもらえるのは、嬉しいな」という発想をするのだ。

やはり新宿・中村屋の相馬愛蔵さんの話だが、関東大震災で難民となり、新宿に逃れてきた人々がいた。このとき、品物がないことに便乗して商品の値上げをするお店が続出した。

ところが相馬さんは違った。

むしろ値段を下げて販売し、困っている人々を助けたのである。「奉仕パン」「地震饅頭」などと大書して安い品物を連日のように販売していた写真が現存している。

相馬さんが困っている人を放っておけなかったエピソードは他にもある。

昭和金融恐慌のとき、取りつけ騒ぎが発生して、安田銀行に人々が殺到したことがあった。自分が預けてあるお金を引き出すためである。

ところが相馬さんは、社員に金庫からありったけのお金を持ってこさせて駆けつけ、「中村屋ですが、お預け!」と大声をあげて群衆のパニックを静める手助けをしたそうである。

自分の取引先の銀行が困っているのだから、助けるのが当然という義侠心のあらわれであろう。

困っている人がいたら、喜んで手伝ってあげよう。

コロンビア大学のダニエル・アメスは、善意から人を手伝える人ほど、「将来的にもおつきあいしたい」と相手に感じさせることを実験的に確認している。

「まあ、手助けするのが上司の役目だからしかたないか」などと義務感から援助するのでは、あまり感謝してくれないし、「そのうちお返しをしてくれるだろう」というさもしい下心があっても、やはり相手には感謝してもらえないことをアメスは明らかにしている。

どうせお手伝いするのなら、まったくの善意でやってあげよう。

見返りなどは求めてもいけない。

困っている人を助けてあげればあげるほど、相手から感謝してもらえる。

感謝してもらったことで十分に恩を返されたのだと割り切って、他に見返りを求めてはならない。

困っている人を助けるという、ただそれだけで満足できる人間になろう。

内藤誼人(ないとう・よしひと)
心理学者。立正大学客員教授。慶應義塾大学社会学研究科博士課程修了。アンギルド代表取締役。社会心理学の知見をベースに、ビジネスを中心とした実践的分野への応用に力を注ぐ心理学系アクティビスト。近著に、『アドラー心理学あなたが愛される5つの理由』『羨んだり、妬んだりしなくてよくなるアドラー心理の言葉』『人は「心理9割」で動く』(以上弊社刊)、『ヤバすぎる心理学』(廣済堂出版)、『人前で緊張しない人はウラで「ズルいこと」やっていた』(大和書房)、『図解身近にあふれる「心理学」が3時間でわかる本』(明日香出版社)などがある。