一棟まるごとか区分か、新築か中古か――。不動産投資にもいろいろなタイプがあり、投資対象となる物件もさまざまだ。不動産投資会社に20年弱勤めトップ営業マンになり、その後独立して中古マンション投資を取り扱っている著者の小松圭太氏が薦めるのは“都内の築浅ワンルームマンション投資”である。築浅ワンルームマンション投資について、新築物件への投資や区分所有と比較しながら見ていこう。
(本記事は、小松圭太著『貯蓄なし、経験なし、度胸なしのあなたにもできる都内築浅ワンルームマンション投資』=秀和システム、2018年4月23日刊=の中から一部を抜粋・編集しています)
【『都内築浅ワンルームマンション投資』シリーズ】
(1)「空室リスク対策には一棟所有」は本当か? 著者が築浅ワンルームマンション投資を薦める理由
(2)不動産投資が続かなくなる5つの理由 失敗しないための3つのポイント
(3)不動産投資成功のパートナー「管理会社」の選び方 悪徳な管理会社の共通点とは?
一棟アパート区分マンション 新築 中古 何を選ぶべきか?
不動産投資の中にも、リスクが高い投資対象は存在します。
では、どのような投資対象を選べば着実に守りの資産形成を目指すことができるのでしょうか?不動産のさまざまな投資対象を挙げながらご紹介をしましょう。
一棟アパートは実は空室リスクを抑えられない
「不動産投資で最も高いリスクは?」と言われたら「空室リスク」です。入居者がいない状態が続くことで、家賃収入が得られずそれによって苦しい状況に陥るリスクのことを言います。そのような空室リスクを減らすために、よく「一棟アパートを持とう」という主張を目にします。
仮に区分マンション1室に投資したとします。そこで空室が発生すれば家賃収入はゼロです。
しかし一棟アパートであれば、1室が空室になってもほかの部屋に入居者がいれば家賃収入を確保することができます。収入がゼロにならないというところが一棟アパートを薦める理由です。
空室リスクを下げられること以外にも、部屋数が多いので家賃収入がマンションの区分所有に比べて多いということもあるでしょう。
しかし一棟アパートには、さまざまなリスクも存在します。
そもそもニーズがないエリアのアパートなら、1室の空室どころか半数以上空室になったり、空室期間が長引いたりします。
初期費用(自己資金)は物件の3割も必要になることもある
一棟アパートに投資をするときの価格帯を見てみましょう。
投資する場所にもよりますが、数十戸の部屋数があるアパートですと8,000万円以上の投資が必要になります。
普通のサラリーマンなら8,000万円~1億円の借金をすることに躊躇する人も多いと思います。不動産投資が回らなければ、大きな借金をしている分持ち出しも多くなります。ときには数百万円という単位になることもあるでしょう。
こうした持ち出しは給与収入を大きく上回り、いずれ回らなくなって破たんしてしまうのです。
8,000万円以上の投資をするために金融機関から融資を受ける際、頭金として購入価格の1割から3割を入れてほしいと言われることがあります。
今まではフルローンやオーバーローンで購入できたケースもありましたが、2017年に日銀と金融庁が、アパートローン向けの融資を引き締めた結果、有利な条件で物件を持つことは難しくなりました。
特に多くの頭金を捻出することはサラリーマンにとっては大きな痛手です。
仮に1億円の物件に投資をしようと考えると、頭金で必要な金額は1,000~3,000万円となります。頭金は自己資金で賄わなければなりませんが、1,000~3,000万円といった貯蓄に成功している人は少ないのではないでしょうか?
しかも、これ以外に別途登記費用や不動産取得税などの購入時にかかる諸経費が1割程度かかります。自己資金を含めた購入時にかかる費用としては2,000~4,000万円の現金が必要になります。
金利が変わるととんでもないことに
高額のアパートローンを抱えていると金利情勢が変われば返済額も大きく変わることになります。
今後の日本の金融情勢について、景気が安定して拡大に向かい、物価の上昇が目標値に達すれば利上げが行われ、金融が引き締められることになります。高額な借金をしていると、金利情勢が変わったときに利息が高くなって返済が苦しくなってきます。
たとえば、1億円を融資してもらって30年で返済する場合、金利が3%であれば1カ月の返済額は42万1,604円となります。しかし金利情勢が変わり、5%になれば 53 万6,822円となります。ほぼ10万円上がるわけです。
倍の10%になれば、87万7,571円。金利が5%のときと比べて約34万円高くなるわけです。満室経営で収入が常にあれば問題ありませんが、空室が続いたりたまたま空室が多くなったりしたら、借金の補てんを貯金や給料から出さなければならないことになります。
なるべく高額なローンはしないこともリスクを減らす一つの方法なのです。
修繕や維持に関わる費用もバカにならない
築年数が古い一棟アパートの場合、修繕に関わる費用があります。よくあるのが給水施設の問題です。
古い物件や10階以上の高層物件だと、上水道が流れている配水管から直接取水する直結増圧式の仕組みではなく、受水槽に水を貯水してから各部屋に給水する受水槽式の仕組みであるケースが多いのです。
受水槽式の場合年に1回の水質検査や清掃が義務づけられていて、年間の維持費用が10万円以上かかる場合があります。古い施設の場合は受水槽が壊れたりすることも多く、その際の修繕費は数百万円かかるケースもあります。
また、物件に水路を渡ってしかアクセスできない場合、橋が架かっていたりすることもあります。この橋が市区町村のもので、市区町村に使用料を支払うことや、維持管理費用として数万円支払うことなど、余計なところで出費が重なることもあるのです。
施設を維持するための出費を計算に入れながら、シミュレーションをして収益を上げるのは意外と難しいのです。
郊外に格安物件を購入するのはリスクがさらに高くなる?
少しでも初期投資を安くしようと、首都圏の郊外に一棟アパートを購入する人たちもいます。郊外で駅から離れている物件の中には、4,000万円台の一棟アパートも存在します。
しかし、郊外に物件を所有してもその物件の立地を見極めなければ、入居率を高めて収益を上げるのは難しくなります。初期投資が安いのは、収益力がそもそもない物件だからこそなのです。
また郊外にある一棟アパートは、もともとその土地の地主が節税目的などで不動産会社に薦められて建築したものが多いのも事実です。その多くは収益性も考えずに建築されているため、蓋を開けてみると入居者が集まらないような物件であることも少なくないのです。
郊外の一棟アパートはいざというとき売れない
さらに大きい問題が売却時の問題です。郊外にある土地は一般的に、土地の価格が低いというのが常識です。高いものを安く売るのであれば買い手も見つかりやすいのですが、もともと安いものは買い手を見つけにくいのです。
また、木造アパートの減価償却期間は22年です。減価償却期間がなくなれば、毎年経費として計上していた減価償却費を計上できなくなります。
減価償却費は支出の伴わない経費なので、減価償却費を計上できるかできないかでキャッシュフローが大きく変わってきます。前述した通り、一棟アパートは細かい維持費や修繕費がかかるので、手元にお金があるかどうかが死活問題になってきます。建築されてから22年以上経っている物件であれば、減価償却費を計上することができないことになります。
ほかの個人投資家は、経費計上ができる減価償却期間がある物件を狙おうとするので、さらに売りづらくなるというわけです。
また投資対象の優劣を判断するのに流動性というのがあります。いざというときに売れて現金に変えられる投資対象は、守りの資産の条件として必要なものですが、郊外の一棟アパートは前述したような理由で流動性は低いと考えられるのです。
新築のワンルームマンションは「守りの資産」にはならない!?
区分マンションの不動産投資と言えば、新築ワンルームマンションの投資がよく知られています。新築ワンルームマンションのセールストークと言えば「将来の年金の足しになる」などがありますが、本当にそうなるかは疑問が残ります。
というのも、そもそも新築ワンルームマンションは販売されるときに実勢価格以上で値段がつけられて販売されているからです。
そのため購入後3割以上値下がりすることが一般的ですが、これは家賃も一緒に下がるということです。
家賃が下がれば当然ローンの返済にも大きな影響があります。想定した返済計画通りに返済できなくなる結果、持ち出しが多くなり、収入の補てんどころではない事態となる可能性もあります。
かつて次のような相談者がいました。
新築のワンルームマンションを都内で購入し価格は2,500万円。家賃は7万5,000円で、表面利回りが3.6%です。ローンの返済や諸経費を差し引くと毎月2万円の赤字になっていました。
しかし、どう見積もっても1,600万円以下でないと売ることができません。
購入後たった1カ月しか経っていないのに、すでに売買市場では3割以上値下がりした金額となっていたのです。売却もできずに毎月マイナスを垂れ流し、これから35年間借金を返し続けるとなると先が思いやられるとのことでした。
新築ワンルームマンションの収益力がない本当の理由
新築ワンルームマンションが都内で収益力がない決定的な理由があります。
それは、ワンルームマンションの建築規制があること。東京都は総世帯数の約半分が単身者世帯です。このため、そうした単身者向けのワンルームマンションが多数建築されています。
しかし、自治体は住民として定着しない、地域活動に参加しない、住民票を置かないことで住民税を免れるような単身世帯を減らして、ファミリー層を増やすという政策にシフトしています。
建築規制の内容としては、千代田区の指導要綱では、専有面積25㎡以上、総戸数20戸以上が絶対条件でその上で、住戸(40㎡以上)の専有面積の合計が全住戸の専有面積の合計の1/3以上となること。
渋谷区は条例で、一戸あたりの専有面積を全て28㎡以上とし、さらに50㎡以上の住戸を併設するなど、ワンルームマンションに対してはかなり厳しい条例が次々と制定されています。
そもそもワンルームマンションを建築すること自体ハードルが高いことに加え、最近では建築費の高騰などで、ほかの地域と比べると非常に割高になっています。建築規制通りに物件を建てるとどうしても広めのワンルームになってしまうので、家賃を高く設定せざるを得なくなり、空室リスクが高くなってしまうのです。
また、新築ワンルームマンションは、新しいということで金融機関の融資を受けやすくなっているため、投資をスタートしやすいのですが、これが新築ワンルームマンション投資の本当のリスクを見逃す原因にもなっています。
買いやすいとか投資を始めやすいということだけに目を奪われるのではなく、きちんとリスクをシミュレーションした上で投資をする必要があるのです。
中古のファミリー向けマンションは流行に左右される
中古のファミリー向けマンションも投資対象として人気のある物件です。
この投資のメリットは、入居者の入れ替えが少ない点でしょう。一度入居してしまえば、何十年も入居し続けてくれるケースもあったりします。
しかし、中古のファミリー向けマンションは、流行り廃りがあるのでそのときの人気の間取りや仕様に大きく左右されます。
たとえば、1955年には間取りが2Kの物件が人気でした。貸家やアパートが中心で畳の部屋が多く、付属設備はほとんどありませんでした。戦後10年で日々の生活に追われ、家に対する注文や好みがなかった時代でもあります。
1975~1989年ぐらいまでは、小分けされたタイプの部屋が人気でした。この時代は、バブル経済も経験し、日本人の目が外に向いていたということがあります。
このためアメリカのテレビや映画が流行り、土地が広く、部屋数が多いアメリカの生活スタイルに憧れる家族が多かったのです。そのため3~5LDKといった間取りに人気が集まりましたが、家賃が高いという理由で2DKの間取りで我慢する家族も多かったようです。
1990年から現代までは、少子高齢化が先進国の中でも急速に進む中で、さまざまな働き方や価値観が認められていった時代です。
主流は広めの3LDKです。しかし共働き夫婦、高齢者などのさまざまなニーズがあり、間取りは2LDK、大型1LDK、3LDKといった間取りに人気が分散しています。
早ければ10年、遅くとも20年ぐらいの期間で間取りの嗜好が大きく変化するのが中古のファミリー向けマンションの特徴です。流行を先読みするのは難しく、流行に遅れた物件を購入すれば、入居者が見つからないかもしれません。ですから守りの資産向き、とは言い難いのです。
激安中古ワンルームは安いなりのリスクが存在する
200~800万円程度の激安ワンルームマンションに投資をするという方法もあります。
投資をスタートするに当たって、初期投資をなるべく抑えるというのは鉄則ですが、それは安いものを購入するということではありません。本当に価値のあるものを安く購入するという意味なのです。
問題があるから安くなっている物件に投資をすることは、それなりのリスクを抱えることになるのです。
例えば人気が無いエリアに建築されていたり、駅から徒歩10分以上かかる場所に建築されている物件だったりします。高速道路や線路が近くて、騒音が日常化しているような物件もあるでしょう。
また、空室率が高かったり、問題のある入居者が住んでいた場合、建物のスラム化が進み劣化が激しくなっていきます。そのような物件によくあるのは、マンションの管理組合が機能しておらず、修繕積立金が未収になっていたりします。
長い間空室が続くため、家賃を下げて入居者を募集すると入居者の質が下がり、さらに入居者募集が難しくなります。
完全な負のスパイラルです。入居者の質が下がったことで、犯罪の温床になってしまえば目も当てられません。激安のワンルームマンションには、安いなりのリスクが伴うということを考慮に入れて投資をしなければならないのです。
小松 圭太(こまつ けいた)
株式会社クレド 代表取締役。不動産会社に勤務して19年、独自の営業理論によりトップ営業マン・取締役営業部長を経験。2011年12月、中古マンション投資をメインに扱う株式会社クレドを設立。売主・買主だけの関係ではなく、お互いWin-Winの関係を築くことを信念として、これまでにセミナーを100回以上開催した実績がある。